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映画「護られなかった者たちへ(2021)」感想|清原果耶さんと、もうひとつの「おかえりモネ」

公開中の映画『護られなかった者たちへ』を観ました。一年近く延期されていた作品だったようで、確かに予告はだいぶ長い間見ていた気がします。


映画「護られなかった者たちへ」ポスター
映画「護られなかった者たちへ」ポスター


予告が流れ始めた当初はあまり眼中にない作品だったのですが、朝ドラおかえりモネが始まると徐々に気になり始めました。『おかえりモネ』のヒロインは、本作にも出演している清原果耶さん。どちらも東日本大震災の被災者とその後を描いた作品で、これはもうひとつの『モネ』が見れるのではないかと思ったのです。

『おかえりモネ』は、気仙沼の島で生まれ育った主人公モネが、しかしその瞬間は仙台市に行っており「部外者」になってしまった(と本人は強く感じている)という前提のもと進んでいく物語。口数が少なく感情表現に乏しい、朝ドラのヒロインとしては異例なキャラクターを清原果耶さんが本当に素晴らしく演じています。脚本演出をはじめ本当に緻密なつくりで、毎朝15分、観終わるといつも頭が真っ白になってしまいます。

対する本作『護られなかった者たちへ』は『モネ』以前の撮影となるわけですが、やはり仙台が舞台。震災直後の避難所で出会った身寄りのない数人と、その9年後が描かれます。清原果耶さんはケースワーカーとして生活保護の担当をしている役柄です。


映画「護られなかった者たちへ」より
映画「護られなかった者たちへ」より


脇役的に登場した彼女は、物語が進むにつれ重要な役割を果たしていくこととなります。この半年間すっかり親身に『モネ』を見てきた身としては清原果耶さんの凛とした佇まいを見るだけで辛抱たまらん気持ちになるのですが、期待通り本作では「もうひとつのモネ」を、なかなかすごいかたちで見ることができました。

少し乱暴なことを言うと、本作には『おかえりモネ』を観ている人にしか得られないエモーショナルがあるかもしれません。半年間『モネ』を観てきた人は、毎朝見ている「あの顔」がモネだと思い込んでいます。本作でも序盤の清原果耶さんは「あの顔」で登場します。ただ、本作の清原果耶さんはそれを超え、笑ったり怒ったりします。顔を歪めて泣いたり、激昂したりします。

これにより気付くのは、いかに『モネ』が抑制していたか。モネは、いや清原果耶さんは、か? 渾然一体としてしまってまあどちらでもいいんですが、彼女は本来はこんなに感情を持っている。それを、目盛1くらいのところで『おかえりモネ』は半年間ずっとやってきた。そう思って見ると、視聴者なりにそこそこ理解してきたつもりでいた『モネ』のことが、やっぱり赤の他人には全然わかるはずもなかったと、明日の月曜日からまた思うに違いありません。

2017年公開の実写映画『3月のライオン』前後編が、わたしの最初に意識した清原果耶さんだったと記憶してます。当時15歳。このひとはすごい、と驚かされたものですが、今もまだ19歳。本作を経て、その上あんな『モネ』をやり遂げて(クランクアップした模様)、なお19歳。末恐ろしや、です。


ええと、さて、100%清原果耶さんのことしか書いておりませんので全体についてもちょっとだけ。本作は中山七里さんによる2018年の同名小説を原作としています。原作ありなことも知らなければミステリー作家さんであることも当然存じ上げなかったので、だいぶ効果的にわたし翻弄されたんじゃないかなと思います。

予告を見た第一印象は、震災をベースにしたヒューマンドラマ。その認識のまま本編を観始めると、意外や刑事バディもの? 猟奇殺人もの? サスペンス? あれ、これはどんな映画だ? 観終わってようやく、ああミステリーだったんだと気付かされる。原作および作家さんのことを知らなかったおかげで、ジャンルのミスリードを真正面から食らいました。ラッキーです。

さらに、「メインキャスト」が多いこともミスリードを誘います。阿部寛さん佐藤健さんほか、主演級俳優が次々と出てくる豪華キャストです。どこが中心なのかわからない。というか、普通に観ていれば「そこ」が中心だと思うだろう、という巧さ。こちらも見事に食らいました。

『おかえりモネ』のあまりに繊細な脚本演出に目や耳が肥えてしまったため首を傾げるところもあるにはありましたが(警察うるせえなとか)、最後までしっかり巡らされた伏線、白黒つけられない問題提起等々、十分に上質な作品だったと思います。ラストシーン、造形が美しすぎる佐藤健さんのご尊顔まで堪能し尽くしました。

また重ねてになりますが、『モネ』ファンの方はぜひこの機会に劇場で、大きなスクリーンで今の清原果耶さんを観ておくこと、おすすめします。もしかすると劇中で描かれている以上の感情移入ができるかもしれない、この反則的感受性を使わない手はありません。

(2021年173本目/劇場鑑賞)

予告に出てくる「とびきりの笑顔で自転車に二人乗りする制服姿の清原果耶」にきゅんきゅんしていたことを思い出しました。モネもこんなふうに笑っていたのだろうか。

ちなみに今回、スマートフォンアプリ「HELLO! MOVIE」にて音声ガイドを付けて鑑賞しました。ユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」以外の(所謂シネコンな)劇場で音声ガイドを付けるのは初めての経験でしたが、やはり心強い存在でした。

UDCast」と同様、スマホのスピーカーで自動的に映画とガイド音声をシンクロしてくれるハイテク仕様です。すげえ、本当にシンクロしてる、と感動。一度体験してしまうと手放せないくらいお役立ちな「映画の音声ガイド」、ぜひお試しください。

2021年9月に観た映画を振り返る〈感想記事の一覧〉

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9月に観た映画などを振り返ります。公開のタイミングで劇場鑑賞したものを新作、それ以外を旧作としています。リンク先は感想記事、並びは鑑賞順です。先月分はこちら

21本。あれ旧作こんなに観たっけ??なんて思ったのですが、チュプキに1日こもって4本観る、なんて日が2回もあったからですね。21本中劇場鑑賞が14本ということで、なるほど家で観た記憶があんまりないのも納得です。

新作では、早くもコアなファンの多い『ベイビーわるきゅーれ』をやっと観れました。最高でした。

3時間級の大物新作『由宇子の天秤』『ドライブ・マイ・カー』もどうにか時間を作って映画館で観れてよかった! 唾も飲めないような2時間半と、心が癒されていくような3時間。どちらもやはり映画館という全身全霊向き合える環境でこそ観たい映画でした。


旧作では、前述のとおりシネマ・チュプキ・タバタにて1日4本ハシゴ×2回というのをやりました。これは別に毎月こうしようというわけではなくて(感受性がパンクしちゃう!)、チュプキが開館5周年を記念してスタッフセレクトのアンコール上映をしていたからです。

現在すっかりお世話になっているチュプキ。しかしなにせ急展開すぎて、今年のはじめにはまだ存在すら知らなかった映画館です。5年間の歴史の10分の1も知りません。今回スタッフさんたちの一押し作品が上映されるということで、せめてこれぐらいは全チェックしておかないと。そんな理由でございました。

上記リストでは太陽の塔から寝ても覚めてもまでの8作品がそのラインナップとなっています。どれも一筋縄ではいかない作品ばかりでしたが一本あげるならば、日本の刑務所に密着取材した『プリズン・サークル』はきっと誰でも観終わってから自分のことを語りたくなる、予想に反してセラピーのような作品でした。チュプキでは大幅ロングランとなりましたけども、配信等で一般にも見やすくなってくれることを願います。

またチュプキでは「文化庁メディア芸術祭」の企画でバリアフリー版のサマーウォーズを無料鑑賞させていただく機会もありました。何度も観ている大好きな作品を日本語字幕・音声ガイド付きで観る体験、思いのほか良かった! 詳しくない花札用語を文字で見れること、キングカズマ戦に臨場感たっぷりな実況音声がつくこと、おまけにチュプキ自慢の岩浪音響によりラブマシーン崩壊やあらわし墜落で劇場が揺れる揺れる(笑) じつは映画館で『サマーウォーズ』を観たことがなかったので、念願の劇場初鑑賞は大満足でした。

さて、10月。緊急事態宣言が解除され、劇場によってはレイトショーも復活しているようですね。なかなか新作に追いつけない日々が続いていますが、引き続き新旧いろいろ観ていきたいと思います。