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映画「白い肌の異常な夜」とそのリメイク版「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」を見比べる

ソフィア・コッポラ監督のThe Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ(2017)を観ました。

映画「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」より
映画「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」より

先日観た『ナイスガイズ!(2016)』で「若い頃のキルスティン・ダンストみたいだ」などと言って推してたアンガーリー・ライスさんが出てる作品なのですが、こちらはなんとキルスティン・ダンストご本人(?)も出てるという。あれま。さらにニコール・キッドマンエル・ファニングって、めちゃめちゃ豪華女優陣じゃないですか、観ますよ観ます。

時代は南北戦争末期、南部。森の中に倒れていた北軍の負傷兵が女性だらけの学園で保護されます(ちなみにコリン・ファレル)。招かれざる客とか言いつつなんやかんや色めき立っちゃう女性たちと、女の園にまんざらでもない黒一点。モノトーンな戦時下を彩る、束の間の華やぎ。関係はWin-Winかと思われたが──、的なお話です。

まあなんとなく予想はつくと思うんですけど昼メロよろしく愛憎渦巻いていきまして最終的にはなかなか強烈な後味を残してくれる、いい感じの胸糞エンド系映画でした。そして何より女性陣の衣装が素晴らしい。基本的に白の質素なドレス、しかしそれがたまらない(わたしのフェチ的に)。感想はといえば、眼福であった。以上。それに尽きる映画でございます。

なおアンガーリー・ライスさんの役どころは地味で、そういえばほとんど顔を見てないかも、くらいの埋もれ具合。やはりニコール・キッドマンキルスティン・ダンストのお二方が主でしたね。キルスティン・ダンストが最もヒロイン的ポジションではあるのですが、髪型のせいか近年の小泉今日子さんに見えちゃったりして、ちょっとなんか、やや人生経験豊富に見えすぎたきらいはありました。はい。

──で、なんですけど。観ながら、あれ?なんかこのお話、うっすら知ってるな。イーストウッドの初期作品あたりで似たやつなかったっけ? と思っていたら、本作は1971年のドン・シーゲル監督×クリント・イーストウッド主演作品『白い肌の異常な夜』のリメイクであると。ですよね! そんな気がした!

ただそうは言っても『白い肌の異常な夜』は以前イーストウッドのドキュメンタリーか何かで簡単な紹介を観たのみで、作品自体は未見。U-NEXTにあるかな〜。あったあった。さすが。しかもNewって付いてるから入ったばかりなの?! またそんな都合のいい。ありがたや。

というわけで、元は『The Beguiled』という小説らしいのですけどその映画化作品・新旧2本を2夜連続で鑑賞することになりました。イーストウッドは好きだしドン・シーゲルも肌に合う監督だと認識しているので期待はしつつ、しかし主に女性を描いた作品ですし、今の時代に女性監督が撮ったリメイク版よりオリジナル版のほうが好印象なんてことはないんじゃないかしらとハードルは低めにしてたんです。

それが。いや、めちゃくちゃ、圧倒的に面白かった。ドン・シーゲル版を観てしまうと、ソフィア・コッポラ版はあくまで表面をなぞっただけの雰囲気映画にしか見えなくなってしまう……。それぐらい、面白さでは雲泥の差が否めませんでした。驚いた。

上「ビガイルド 欲望の目覚め」より
下「白い肌の異常な夜」より
かなり忠実にリメイクしてるシーンも多数!

なんていうのかな、ドン・シーゲル版を観て、ああサスペンスだったんだとようやく思えたんですよね。ソフィア・コッポラ版で疑問に感じたところや強引に感じた流れが、オリジナルではなるほどしっかり描写・伏線処理されていてすんなり入ってきたんです。多分ですけどリメイク版は脚本的に大事な部分を結構削ってしまっているはず。なのにそれぞれの行き着く先にあるイベントだけはもれなく再現しているため、いまいち繋がらないのです。

最も分かりやすいのは、オリジナルにある「キャロル」まわりのエピソード。一人だけヒッピーみたいな雰囲気の(あの時代にああいう子いたんだろうか……)魔性女子ですが、彼女は最初っから一貫して兵士に色目を使いまくっている。そしてそれまで厳格だった教師たち(リメイク版におけるニコール・キッドマンキルスティン・ダンストの役どころ)も徐々に、明らかに彼に溺れていく。だからこそ「あの夜」へと繋がる。

それがリメイク版では、教師たち(というかほぼキルスティン・ダンスト)の揺らぎは描いているけれど「キャロル」にあたる子(どうやらエル・ファニングっぽい)の描写は無に等しい。なのに「あの夜」は起こる。あの太ももは誰?! いや、サスペンスはそこじゃないんだ。糸の張り方が間違ったまま物語は進み、ショッキングな案件へと繋がる。このへんの唐突感も、オリジナルだとしっかり文脈がある。リメイク版はことごとく文脈がない。

全体に言えるのは、オリジナルは圧倒的に女性たちの感情の機微を捉えているということ。表向きは規律正しく、しかし裏では牽制し合い、機会あらば出し抜こうとする様。関係性の優先順位が状況に応じてどんどん入れ替わっていく様。全ての「矢印」が可視化されたような、巧みな脚本・演出。こういう面白さのある物語だったのか!と膝を打ちました。

ここまでの書き方をしてしまうとさもリメイク版がひどいように受け取れてしまうと思いますが、別にそういうわけでもないんです。リメイク版はとにかく「目の保養」という圧倒的強さがある。そういう映画だと思えば大満足です。ただ、面白かったかというと面白さは特になくて、だってまあそういう映画じゃないんでしょって思ってたんですけど、オリジナルが存外「面白い」映画だったので驚いたっていうことなのです。

あと、兵士視点で描いた『白い肌の異常な夜』、女性たち目線で描いた『ビガイルド 欲望のめざめ』なんて言い方をされているようですが、違うのは目線じゃなくて「どういう種類の映画に仕上げているか」という点だと思います。オリジナルはれっきとしたサスペンス、それに対してリメイク版は女性たちをより美しく描いた映像詩、そんなとこじゃないでしょうか。

それぞれに良さはあるので、見比べおすすめです(わたしと同じく「新→旧」のほうが両方たっぷり楽しめていいかも)。思った以上に同じだけど、思った以上に違う。「リメイクされることのおもしろさ」みたいなものを感じられることうけあいです。

(2021年150・151本目/U-NEXT)

珍しく眉間にしわ寄せてないイーストウッドもいいですよ。