353log

主に映画の感想文を書いています

【8/1〜15限定】「海辺の映画館─キネマの玉手箱」再上映に音声ガイドと日本語字幕が付きます(ガイド制作担当しました)

お知らせです。一年前の今日に公開された大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館─キネマの玉手箱』が、8/1(日)から2週間限定でユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」にてバリアフリー上映されます。

バリアフリー上映とは

東京・田端のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ(以下チュプキ)は、目や耳が不自由な方でも、車椅子の方でも、小さなお子様連れの方でも映画を楽しめるよう、様々な取り組みをしている映画館です。

特に「音声ガイド」「日本語字幕」の制作に力を入れており、聴覚情報だけでは理解しづらい視覚情報をイヤホンから補う「音声ガイド」、視覚情報だけでは分からない台詞や物音などを補う「日本語字幕」が全ての上映映画に付きます。

なお、これは目や耳が不自由な方のみならず誰にとってもプラスとなり得る要素です。耳は聞こえるけれど今なんて言ったの?? 目は見えるけれど今これ何が起きてるの?? そういうことってありますよね。いわゆる健常者にとっても音声ガイドと日本語字幕は、一度体験してしまうと手放せなくなるようなアシスト機能だったりするのです。

音声ガイド制作を担当しました…!

さて、そんなチュプキでのバリアフリー特別仕様『海辺の映画館』ですが、このたび様々なご縁が重なり、音声ガイド制作を担当させていただきました。何らかの力に誘導されたとしか思えない展開に自分でもよくわからないまま取り組んだひと月半ほどでした(どれだけ思い入れがあったかというのはこのへんとかこれまで書いてきた記事の量などを見ていただければ何となく察せるかと思います)

『海辺の映画館』はそもそもが「隙間あらば埋める」的編集で組み上げられた情報過多な作品です。テロップ、ナレーション、追加アフレコ、それこそ音声ガイドのようなものまで、元々の状態でぎっちり詰め込まれています。音声ガイドの入る余地なんてあるのだろうか、と作業開始前から途方に暮れつつ、チュプキ代表・平塚さんのご指導のもとどうにか最後まで原稿を作りました。

※今年の2月、初めてチュプキに伺った際に観て(聴いて)感動した『ようこそ映画音響の世界へ(2019)』の音声ガイドを作られたのも平塚さん。今回監修していただくなかでわたしには全く見えなかった「隙間」を次々見つけていく平塚さんに感嘆していたら、「私が『映画音響』にガイドを付けたことをお忘れか」と言われてしまいました(笑)


超オールスターキャスト映画であることも『海辺の映画館』の魅力。劇映画の音声ガイドとしては邪道かもしれませんが、今回のガイドにはキャストのお名前を可能な限り入れています。また、主人公たちが劇中劇に入り込んで別の役を演じ、それが最終的に絡み合っていくという複雑な構成にも悩まされました。同じ俳優なのに役名が変わったり、役名が(その時点では)無かったりするのです。なんて困った映画を、大林監督あなたは……!!!

なにより、見えていても初見は何が何やらなこの映画。事前に大林作品を何十本も観て心構え万端だったわたしでも、初見直後は「しかと受け止めた」しか言えなかった映画。初めての方に、少しでもわかりやすく楽しんでいただけるといいのですが……。

映画「海辺の映画館─キネマの玉手箱」ポスター
映画「海辺の映画館─キネマの玉手箱」ポスター


「海辺の映画館」はこんな映画

遅ればせながら一応あらすじの紹介をしておきましょう。以前自分で書いたものを再掲します。

尾道の海辺にある老舗映画館「瀬戸内キネマ」が閉館の日を迎える。最後の興行は、オールナイトプログラム「日本の戦争映画特集」。客席にいた3人の青年は上映が始まるや何故かスクリーンに吸い込まれてゆき、幕末から太平洋戦争まで様々な戦争を映画の中で体験することに。はじめは傍観していた彼らだが、次第にこれは「他人事ではなく自分事だ」と感じるようになってゆく。

出演(順不同): 厚木拓郎/細山田隆人細田善彦/吉田玲(新人)/成海璃子山崎紘菜常盤貴子小林稔侍/高橋幸宏白石加代子尾美としのり武田鉄矢南原清隆片岡鶴太郎柄本時生/村田雄浩/稲垣吾郎蛭子能収浅野忠信伊藤歩品川徹入江若葉渡辺裕之手塚眞犬童一心根岸季衣中江有里笹野高史満島真之介/大森嘉之/渡辺えり窪塚俊介長塚圭史/寺島咲/犬塚弘中野章三ほか、ほか、ほか……。

大林宣彦監督作品「海辺の映画館─キネマの玉手箱」の好きなところをひたすら書きます - 353log


今現在を戦後ではなく「戦前」と捉えた大林監督が人生の最期に執念で作り上げた、「反戦」というより「嫌戦/厭戦」のエンタメ超大作。どれだけ大林映画への免疫があったとしても初見は面食らうであろうカオスと、「え、なんかとんでもないB級映画を観に来てしまったのでは」という後悔のようなもの、お約束します。

しかし序盤の苦笑失笑を耐えて中盤あたりまでくると、いつしか真顔で見入っているに違いない。こちらもお約束します。何度繰り返し観ても、それが作業用の小さな画面だったとしても、終盤では完全に見入ってしまうわたしがいました。今回のガイド制作作業を通して、この映画がいかに緻密に作り込まれているか思い知りました。

チュプキで観ていただきたいのが本音ですが、このご時世、都内への移動をおおっぴらに推奨するわけにもいきません。田端までは行けないよという方も、ぜひ、よかったら、配信等で『海辺の映画館─キネマの玉手箱』ぜひご覧になってみてください。日本人として、8月に観るのが相応しい映画です。また劇中で数多く引用される中原中也の詩は、コロナ禍の今にも驚くほど刺さってくるものとなっています。

鑑賞前後で大林作品の予習復習をしたいという方は、配信で観れる作品をまとめたこちらの記事も参考にしていただければ幸いです。

劇場情報

シネマ・チュプキ・タバタ
● JR山手線・京浜東北線 田端駅北口を出て、右方向徒歩5分
● 田端駅北口有人改札にて地図を配布しています
※階段とスロープが並行しています。下りきったところで右折し、 車道の下をくぐって信号のある横断歩道を渡ってください。 「絵でわかるイラスト地図」「言葉による道案内」がこちらに掲載されています。

とても小さな映画館ですので、下記の予約サイトより事前予約(支払いは現地)をおすすめいたします。 音声ガイドを聴くためのイヤホンは貸し出しもありますが、ミニジャックのものであればお持ちのイヤホンがご利用いただけます。

8/1〜15の上映プログラムは『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記(2020)』『この世界の片隅に(2016年版)』そして『海辺の映画館』という、どんどん長く重たくなっていく豪華三本立てです(笑) どの作品も本当に素晴らしいので、お近くの方はぜひハシゴしてみてください。

映画「竜とそばかすの姫(2021)」感想|ミュージックビデオとしては、かなりいい。

細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を観てきました。前作『未来のミライ(2018)』をそういえば観ていなかったので、『バケモノの子(2015)』ぶりの細田作品となります。

細田監督の作品というと、やはりなんといっても『サマーウォーズ(2009)』です。一般的にもジブリに次ぐ国民的アニメ映画のポジションでしょうし、当ブログでも何かにつけて「この感じはサマーウォーズのそれだ!」みたいなことを繰り返し言っているくらいわたし自身大好きな作品です。


『竜とそばかすの姫』の特報映像を初めて観たのは今年に入ってからなのですが、『サマーウォーズ』で舞台となっていた「インターネット上の仮想空間」がどうやら再び登場するらしいことにとても驚きました。それも「二番煎じ」と揶揄できないくらい大胆なセルフオマージュもしくは連作、言ってしまえば『サマーウォーズ2』くらいの開き直りで作っているように受け取れたので、期待値がグンと跳ね上がりました。

というのもわたし『サマーウォーズ』は公開当時に劇場鑑賞できていなくてですね、レンタル解禁直後くらいにソフトで観たんです。そしたら冒頭の仮想空間シーンで大興奮してしまって。こんなに楽しい映画を映画館で観なかったなんて、あたしゃバカか!!!と悔やみまくったのでした。

ただしその後は細田作品のテイストがあまり好みではなくなり、なんだかんだ細田作品を映画館で観るのは今回が初のようです。そうだったんだ(意外)。では以下、いくつかの項目に分けて雑感を書いていきます。

映画「竜とそばかすの姫」ポスター
映画「竜とそばかすの姫」ポスター


仮想世界、大満足。

サマーウォーズ』の〈OZ〉同様に、今作でもインターネット上の仮想世界〈U〉を紹介するイメージビデオ的なものから映画は幕を開けます。没入感を期待して前方の席で観たのですが、期待通りもしくはそれ以上でした。端的に言って、めっちゃわくわくする。これだよこれ、これを映画館で観たかったのだ10年ちょい前のわたしは。

2009年の時点で〈OZ〉をフラットデザイン的に作っていた先見の明が功を奏し、今作の〈U〉もルックスは〈OZ〉を踏襲。お馴染みのフキダシや、群れを成して浮遊するアバター、無機質な電脳空間的バーチャル建造物など、ああこれを大スクリーンで観れるの幸せ。IMAXで観たらもっとゾクゾクするだろうし、もしIMAX3Dなんてあったら大変なことになっちゃう。

そんなわけで、わたしの悔いはひとつ供養されたのでした。

歌要素、予想外に大満足。

本作には「歌」要素があると聞いていて、正直不安でした。マクロスとか好きな身で何を心配するんだって話ですが、大丈夫かな、うまくいくかな、こわいな、って感じだったんですよね。でもそこも無事クリア。というか身構える前にいきなり歌ぶっ込んできてくれたのがよかった!


常田大希さん率いるmillennium parade(『攻殻機動隊 SAC_2045』でも素晴らしい仕事をされてました)と中村佳穂さんのコラボによるメインテーマ曲『U』、めちゃめちゃかっこいいです。劇中ではもっと世界観に寄り添った聴こえ方になっており、仮想世界のグラフィックとあわせて脳汁全開でした。

最たる懸念事項だったかもしれない部分を最初に潰してもらえたのはすごくラッキーで、まあ物語全体として引っ掛かる部分は多々あったわけですが少なくとも音楽パートに関しては予想外に120%楽しめたと思います。



アナ雪デザイン歌姫、大満足。

上述の「歌」を披露するのは、ヒロインのアバター「ベル」。そのキャラクターデザインはなんと、『アナと雪の女王』シリーズなどディズニー作品を多く手掛けたことで知られるジン・キムさんという方が担当。

よってぶっちゃけ超ディズニーな絵柄になっているのですが(歌うもんだから尚更)、これもやはり揶揄できないレベルのことをやってきたなあと(笑) ディズニーっぽいけど、仕方ないじゃんディズニーなんだから、みたいな。『アナ雪2』が猛烈ストライクだったわたし的には、本作の「ベル」パートも総じてお気に入りとなってしまいました。仕方ない。

おおかみこどもの雨と雪(2012)』以降どうにも苦手だったケモノ要素もあの『美女と野獣』的世界の中に入ってしまえば意外と美味しくいただけたし、映像の周辺がノイジーになってるデジタルな演出とかもピンポイントに好きだったので、このあたりは肯定しかない感じです。タイバニみたいなやつも嫌いじゃない。

ちなみに、全っ然関係ないんですけど、ジン・キムさんという方、プロフィール見てびっくりしたんですけど、1986年の『赤ちゃん恐竜 ドゥーリー』っていう韓国のアニメシリーズがアニメーターでの初仕事らしいんですね。これ、韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』劇中にずっと出てくるアニメじゃん!! 実在の作品だったんだ!! コ・キルドン!!

以上、取り乱しでした。

だが物語、お前はだめだ。

ま、だめとまで言っちゃいけないかもしれないけれど。でもnot for me以上ではあると思う。ドラマパート、つまり仮想世界以外の「現実世界」を描いた部分。ここはねえ、なんか、細田作品の苦手な部分を凝縮したような感じで、イコール絶対的な作家性なんでしょうけど、しんどいものがありました。

特に終盤の、虐待絡みのアレは、端的に「要るかね、それ」っていう。何か描きたいことがあったのならもっとしっかり描くべきだし、山場めいた謎の大捕物演出のためにあんな中途半端な使い方をしちゃいかんでしょうと思います。そもそも、そもそもさ、2021年にもなって「そばかす」がどうこう、とかいうのもね……。

あと、もはやどうでもいいんだけど〈U〉のテクノロジーレベルに対してあのローテク極まりない特定方法はなんなの、ていうかすずあなた財布持ったの?!みたいなのもあるっちゃありましたね。ほんとにもう、どうでもよくてシラけてましたけど。

そんでもってエンドロールがこれまたテンポよろしくなくて。オープニングであそこまでアゲられるんだから最後も辛うじて「終わり良ければ」でねじ伏せるくらいのポテンシャルがあるはずなのに、なんだってあんな地味なエンドロールにしたのでしょう。

いや多分ね、余韻を楽しむほうのエンドロールっていう位置付けだと思うんです。でもあいにく楽しめるような余韻はなかったので。ていうかその仮説も違うかな、エンドロール直前に「じゃあ、いくよ!」みたいなフリしてたもんね。あのテンションからあそこまで落とさないよね普通。意図がわからない……。

総括

仮想世界的な意味での『サマーウォーズ2』を求める人には間違い無くおすすめです。音楽も映像も素晴らしく、ミュージックビデオ/イメージビデオとしては満足度120%の出来栄えです。細田監督におかれましては仮想世界オンリーの映画を、とことん〈OZ〉や〈U〉の世界観で突き進む作品をぜひ作っていただきたいです。VRコンテンツとかでもいいです。そこの部分は、かなり好きです。応援してます。

が、この先もメジャー監督としてシネコンを占有できる影響力の映画を作り続けるのであれば、脚本は難ありだと思います。

はみ出し雑感

  • 「昔の話」でiPhoneGaragebandがある世代の物語、か……。そう考えると思った以上に世代差があるので、理解できない部分があっても仕方ないのかもな、なんて思いつつ、いやいやいや騙されるな書いてるのは50代男性だぞ。

  • でも、幼少期からiPhoneGaragebandがあったらすごいよね。そりゃ新世代のアーティストが才能ぶっ飛んでるわけだわ。などと妙に納得したり。

  • 合唱曲で『心の瞳』がちょっと出てきましたね。わたしあれ中学の頃歌ったことあって。合唱祭で使う譜面の表紙に絵を描いたなあ。カシオペアの『Eyes of the Mind』のジャケを描いたなあ。今思うと嫌がらせのような表紙だった。

    EYES OF THE MIND

    EYES OF THE MIND

    Amazon

  • 体育館のドラムセット、ハイハットにペダルがなかった気がする。そういうところを雑にしてはいけない(警察が来るから)。

  • 巨大なクジラが出てきて、ヒロインが『時かけ』的飛翔少女のポージングを決めて──などなど、細田作品って「作風」「作家性」「署名」といったものが思った以上に打ち出されてるんだなと今更ながら驚いた。声優へのディレクションも同じだものね。好みは別として、それ自体はすごくいいことだと思います。


(2021年117本目/劇場鑑賞)

追記:宇多丸さんのムービーウォッチメン('21.07.30)によれば、本作を理解する上で「歌詞の内容がかなり重要」であるそうな。なるほどなあ、歌詞は全く意識できていなかった。とすると、歌詞にまで字幕が付いているであろう海外で本作が高く評価されている(らしい)ことも頷ける気がする。