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主に映画の感想文を書いています

宮城・岩手、東日本大震災をめぐる旅【①仙台空港の防潮堤/震災遺構 旧女川交番】

退職旅シリーズ、第二弾は「宮城・岩手、東日本大震災をめぐる旅」です。東日本大震災から12年が経とうとしていますが、じつはこれまで一度もいわゆる被災地を訪れたことがありませんでした。それはやはり、あえて「楽しくない旅」を「休みを取って行く」ことのハードルの高さだったのかなと思います。今回この長期休みを得て初めて、実行に移すことができました。

あらかじめざっくりとしたルートをお知らせしておくと、今回の旅で訪れたのは仙台〜石巻〜女川あたりのルート(1日目)、気仙沼陸前高田あたりのルート(2日目)です。

この記事では主に仙台空港近くの防潮堤」「女川の町/旧女川交番」を扱っています。都度警告するようにはしますが、生々しい写真を載せることもありますのでご注意ください。

夜行バスで仙台へ

バスタ新宿

出発は2/7(火)の夜。正確には2/8(水)の0時台。新宿ピカデリーで『エンドロールのつづき』を観てからウェンディーズ(25時まで営業)で時間を潰し、バスタから夜行バスに乗る。夜行バスは長岡花火ぶりか。あの時も結構しんどかったけど、今回もなかなか。とはいえ、早朝に着けるメリットはあまりにも大きすぎる。夜行バス、最高。

人もまばらな仙台駅、改札内

翌朝6時過ぎ、人もまばらな仙台駅に到着。今夜は仙台駅に戻ってくるのでロッカーに荷物を預け、早速行動開始。

初めての防潮堤

仙台国際空港。ターミナルビルの壁面ガラスに朝焼け空が映る。

仙台駅から仙台空港アクセス線に乗り、仙台空港へ。いきなり空港?という感じだが、飛ぶわけではない。ターミナルへは入らず、海の方角へ歩いていく。あっという間に、何もなくなっていく。だだっ広い視界の先には、まばらな松。ああこれは、思ったよりきついかも、と覚悟する。このへんは全部流されているはず。

この先あちこちで無数に見ることとなる、不自然に新しいコンクリートたち。

まばらな松が、すぐに見えてくる。

舗装の新しい道路。やたら綺麗に、朝日が反射する。

朝日が昇ってきて眩しい。まばらな松をめがけて歩く。目の先に、防潮堤が見えてきた。

道路の両脇に、寂しい本数の松が生えている。朝日は、すっごく綺麗。

サンダーバード2号の発射台みたいだな、などと思っていた。

最初の目的地は、ここだ。

湿った砂、枯れ草、寂しげな防潮堤。

防潮堤の斜面。臼みたいな形のブロックが積み上がっている。

じつはこの防潮堤、濱口竜介監督の映画『寝ても覚めても(2018)』に出てくる防潮堤である。ボランティアで宮城を訪れた主人公の女性が、防潮堤に登る。海を見ている顔が映る。海は映らない。激しい波音だけが響く。

わたし的に、最初の「映画で意識した防潮堤」がここだった。防潮堤なんてどこも同じようなものかもしれないが、できれば同じ場所に来たかった。あの防潮堤の上からどんなものが見えるのか知りたかった。調べたら濱口監督が「仙台空港のすぐそば」と言っており、ブロックの形などから特定できた。何が見えたかと言えば、朝日が綺麗だった。

防潮堤の上から見た海。綺麗な朝日が海面を照らしている。

背中に朝日を受けながら、空港へ戻る。寒くて、マスクがびしょびしょになっている。

寂しげな松を背に、やたら綺麗なコンクリートの道を戻っていく。

空港から徒歩数分の場所が、こんなに寂しいもんか。いやまあ、空港ってそんなもんかもしれないけど。

電柱に「ここまで浸水」の印がついている。
ターミナルビルまで徒歩1分くらいの場所。

ターミナルへ入ってみる。3.11関連のパネル展示が目に入ったので見てみると、空港にどれぐらい水が来たかわかる写真があった。現存する空港と見比べて、ぞっとする。

パネル展示。ターミナルビル1階は3メートルくらい浸水している。

津波到達時の写真。

現在の同じ場所。
「あそこまで、か……」

女川へ向かう

空港線

再び空港線に乗って、仙台駅へ戻る。ちなみに朝一で空港へ行ったのは、あんまり早く動いても震災関連の施設がオープンしていないという理由からである。

仙台駅で肉そばを食べたりなんだり仕切り直し、本日の最も遠い目的地である女川駅へ向かう。8時台の仙石線で、まずは石巻へ。石巻駅へ着くと、キハ110系がいて嬉しくなる。ローカル線といえばこれだよなあ、と思う。

一両編成のキハ110系。角ばった白いボディに、ワンポイントのグリーンが入る個性的なデザイン。

アメコミ風に石ノ森章太郎のキャラクターが描かれたラッピング車両。
奥にいる車両はこんなの。「マンガッタンライナー」という。

石巻は聞いていた以上に石ノ森章太郎推しが強く、こんなに何もかも石ノ森石ノ森してるのかと驚いた。と同時に、なんとなく寂しい駅だなという印象も抱いた。

サイボーグ009、仮面ライダーなどの等身大フィギュア。
電車を降りればこうだし、町中あちらこちらにいる。

ステンドグラス風のキャラクターたち。

白い壁、水色屋根の、古き良き駅舎。
駅舎もかわいいけど、どこか寂しい空気が流れる。

先ほどから停まっていたキハ110系の石巻線に乗り、目的地の女川駅へ向かう。なお、本来ここで切符を買うべきだったのだが、仙台駅改札をSuicaで入場したきり知らずにそのまま乗ってしまい、後々やや面倒なことになった。ほとんどの場所でSuicaが使えてしまうJR東日本エリアの罠、ご注意ください。

キハ110系車内。一人がけの対面シートが独特。

車内から撮った線路。
単線の良さみ。

震災遺構 旧女川交番

ホワイトとナチュラルテイストの外装がとってもきれいな、三階建てくらいの駅舎。
女川駅

女川は津波で壊滅した町。再開発が進み、現在は真新しい駅に真新しい商店街、むしろ「傷跡の見えない」街並みが広がる。深く考えれば考えるほど理解の追いつかない気持ちになるのだけど、表面上の印象はとにかく「きれいな駅、きれいな町」である。しかしそんな女川に、一箇所だけ「傷跡」を剥き出しにした場所がある。

※2枚先に旧女川交番の写真があります。

駅から海方面を見る。両脇に並ぶ平屋の連なりが、商店街「シーパルピア女川」。

駅舎の後ろに山がそびえる。同じラインを持っている。
振り返ってみる。新しい女川駅舎は山の形に合わせてるんだろうなあと思った。

美しく整備された商店街を海に向かって歩いていくと、それは現れる。『震災遺構 旧女川交番』。

円の内側に等間隔で見える四角いものたちが展示パネル。そう思って見ると、サイズ感が分かりやすいと思う。

二階建て、鉄筋コンクリートの交番が、基礎から根こそぎ横倒しになっている。これが視界に入ってきたときの衝撃は忘れられない。「よくこれを、残してくれたな…」と口から漏れた。

そして「写真など撮っている場合ではない」と思った。3Dスキャンをするかのごとく周囲をゆっくりと回り、じっくりと目に焼き付けていく。展示パネルも余す所なく読んでいく。ひととおり焼き付け終わってから、ようやくレンズキャップを外してもう一周した。一応載せておくが、これは写真ではとても伝わらない。町全体が整備されているからこその、目が覚める「現実」。日常においてこの交番と海が目に入らざるを得ない町づくり。女川の人たちはどんな気持ちでこの場所を通るのだろう。

横倒しになった二階建ての建物がそのまま「展示」されている。

元の姿を見ても、なんとも現実味がない。現在では交番しか残っていないが、被災直後の写真を見ると周囲にもみっちり建物があり、瓦礫の山である。
パネル展示の中から、元の姿と、被災直後の姿。

断面図のように見えてしまっている一階と二階。

基礎の柱が剥き出しになっている。
手前の「人の影」がわたし。写真で見る感覚より、遥かに大きい。

どうにも離れがたく、何度もぐるぐる周りを歩いてから、ようやく海のほうへ足を進めた。帰りの列車まで時間に余裕があったので見れるものはなんでも焼き付ける気持ちで見た。

付属品たっぷりの、超絶かっこいい船。

漁師の船、かっこいい。

海はすごく静かで、すごくきれいだった。この海がまさかそんなこと、と思ってしまうが、後ろを振り返ると、かさ上げされた町がある。でもやっぱり、海は静かできれいだ。

波もなく澄んだ海。鏡面のように青空を映す。

かさ上げされた町。
ちなみに、ちょっとしたジャンプ台みたいなやつはスケボー用のもの。この手前側にもスケボーのプレイエリアがある。

かさ上げされた高台に新設された庁舎。
これは駅の近く。避難場所に指定されている女川町庁舎。

お腹がすいたので、漁師さん直営のお店で海鮮丼を食べた。安くて、美味い。平日だけれど、繁盛していた。うれしい。

うどん付き。
「三トロ丼」。とろけた。

この商店街、さして大きいわけでもないのだが、端から端まで覗いてみると案外いろんなお店が揃っている。なかでも驚いたのは、楽器屋、楽器工房、音楽スタジオ、うたごえ喫茶など、音楽関連がなんなら普通の町以上に充実していること。それだけ音楽の役割が大きいってことなのかな。

13時過ぎ、2時間以上の滞在を終えて、女川をあとにする。この「あとにする」という行為に、偽善的な罪悪感を覚えてしまう旅だった。


キハ110系の車窓から海を見る


今回はここまで。次は『石巻市震災遺構 門脇小学校』と『東松島市震災復興伝承館』を予定しています。

「別れる決心」「モリコーネ 映画が恋した音楽家」ほか、2月に劇場鑑賞した新作の感想

記事中で紹介している5作品のポスタービジュアルを並べたもの

いつの間にか3月。「映画館の人」になったら映画が観れなくなった353です。覚悟はしていた、していたが! そんなわけで今年は「観た映画は必ず感想を書…けたらいいな」くらいのゆるモードで運用していくことになるのではないかな、と思っております。

さてさて、今回は2月に劇場鑑賞して書きそびれていた新作映画について簡単に感想を書いてゆきます。

モリコーネ 映画が恋した音楽家(2021)

2月1日、退職の翌日、退職旅の出発前に観た一本。わたしモリコーネはとにかく『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の音楽が好きでして、一番好きな映画音楽は?と問われたら即答です。じつは昨年11月の「エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』」にも行っていたくらい。

とはいえモリコーネのキャリア全体を追っているわけではなかったので、このドキュメンタリーはとてもおもしろく観ることができました。特にキャリア初期、「編曲家モリコーネ」の話がめちゃくちゃ面白い。キャッチーなイントロ作らせたらピカイチ!とか、知らなんだ〜。

157分と、少し長めのドキュメンタリーではあるのですが、数多くの作品を経て、満を持して『ワンス〜』や代表作たちへ辿り着く感慨深さは尺に余裕があるからこそ。淡々とした音楽ドキュメンタリーなのに、えらく泣いてしまいました、はい。

2点ほど難をつけるとするならば、まず、9.11のレクイエム的楽曲のパートで、ショッキングな映像(人が落ちていく映像など)が前触れなく結構な分量流れること。もうひとつは、ジュゼッペ・トルナトーレが監督しているからなのか、『ニュー・シネマ・パラダイス』のパートが一瞬で終わること(笑) 謙遜なのかもしれませんがそこは客観的視点で編集してください!

非常宣言(2022)

ソン・ガンホイ・ビョンホンチョン・ドヨンという超絶スーパースターたちが共演している韓国フライトパニックもの。なんですかこの顔ぶれは。しかも、みんな見事にオーラを消しているのがすごい。韓国のスター俳優さんたちって映画の中ではオーラ消せる人が多い気がします。

フライトパニックものではあるものの、その原因はバイオテロにあり。感染力の高いウイルスを機内に持ち込んだテロ犯により、ホノルル行き国際便の乗客が次々と感染・死亡していく阿鼻叫喚。感染拡大の段階で機内における分断が生じるのは当然のこと、さらにはどの国も緊急着陸を受け入れてくれなかったり、自国韓国からもハシゴを外されてしまったり。

そう、つまり、言うまでもなくアフターコロナの「嫌というほど実感を伴う」パニック映画になっています。受け入れ拒否をする国には日本も含まれ、もしかしてあからさまな嫌日?とヒリつく場面も。しかしその後に韓国もだいぶ残酷なハシゴ外しをしていく様が描かれ、バランスが取られています。

エンドロールのつづき(2021)

インド版『ニュー・シネマ・パラダイス』かな?という感じで宣伝されていたインド映画。確かに最初のうちは『ニュー・シネマ〜』なのですが(少年と映写技師の交流、みたいな)、途中からだいぶ変わってきます。主人公の少年が映写機をDIYする展開は意外&おもしろだし、終盤の映画的跳躍にも驚かされる!

一言でいえば「光をくれる映画」なので、何かちょっと背中を押してもらいたいときに観るのがすごくいいと思います。あと、劇中に登場する「お母さんの料理」があれもこれもすべておいしそうすぎるので、あんまり空腹状態で観ないほうがいいです。

THE FIRST SLAM DUNK(2022)

でたー。スラムダンクは全く通っていないのですが、これだけ絶賛であれば観ないわけにはいかないでしょう。だいぶ遅くなってしまいましたが観ました。

まず「スラダンリテラシー0」でも大丈夫か、という点については、「大丈夫」でした。ちょいちょい挟まれる回想のおかげで概ね把握できた感じです。結構重い話で、無意識に何度も落涙していたり。

と同時に、回想より試合が見たい、と思ったのも事実。こんなに「たった一つの試合だけ」で構成された映画だったんですね。そして評判通りこの「試合」が本当に魅せる。スポーツに興味がなくとも、引き込まれる。お見事でした。

別れる決心(2022)

パク・チャヌク! 待望の、パク・チャヌク! わたし韓国映画のこの世代ではポン・ジュノよりパク・チャヌクのほうがより刺さるほうでして、さらに今作は「『渇き』に近い」という噂を聞いてめちゃくちゃ楽しみにしていました。公開日の朝一で観てきちゃった。最高。

なんですかね、もうちょっと地味な作品なのかなと思っていたら、カメラワークやら編集やらが超変態で。あああ〜〜こういうの好き〜〜〜大好き〜〜〜たまんな〜〜い!!!と表情筋ゆるゆるでスクリーンを見つめ続けることに。

ヒロインを演じるタン・ウェイも、『渇き』のキム・オクビンを思わせる魅力×魅力×魅力で、パク・チャヌクこういう女のひと好きだよねえわたしも好きですけど!!! 信頼できるな〜〜〜

てなわけで、ストーリー云々よりもその映像世界とヒロインの魅力、加えて「ああそうだった、パク・チャヌクってエグいんだった」と思い出せてくれる終わり方の余韻、そのへんにすっかりやられて劇場を後にしました。「絆創膏を剥がして開封する」パンフレットもおすすめ!

といった感じの2月でした。ああ、あれもこれも観たい。デュアルコア自分になりたい。