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主に映画の感想文を書いています

「幻の光(1995)」雑感

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是枝裕和監督の映画監督デビュー作。著書「映画を撮りながら考えたこと」を読み終えたので、本に書かれたエピソードを参照しつつ、順番に観ていこうと思っています(一気に観ると疲れそうだけど…)。

映画を撮りながら考えたこと

映画を撮りながら考えたこと


あらすじ

幼馴染の夫と生後間もない息子、家族三人でつつましく暮らすゆみ子江角マキコは、ある時あまりに突然、夫と死別する。彼は線路の上を歩いていたという。ゆかりのない地で再婚し、少しずつ日常を取り戻していくゆみ子だったが、前夫がなぜ自死を選んだのかとひとたび考え始めると、どうしようもなく闇が覆いかぶさってくるのだった。

雑感

宮本輝さんの同名小説を原作とした作品で、オリジナル脚本をデビュー作にしたかった是枝監督としては少々複雑なところもあるスタートだったようです。もともと監督はテレビのドキュメンタリー制作に携わっており、そこで評価の高かった作品とテーマが通じる、ということで映画化の声がかかったのだそう。

ちなみに監督がデビュー作にしたかったオリジナル脚本は、のちに「誰も知らない(2004)」として日の目を見るのですが、初稿は1989年には書けていたとのことなので15年間ほど眠らせたことになります。それでいうと最新作「真実(2019)」も原案は2003年のものらしいので、やはり映画化までに15年。辛抱強く諦めない監督なのだなという印象を受けます。ていうか単純にすごい。

さて、この映画はまあ暗いです。曇天です。祖母の死で始まり、夫の死で物語が動き、葬列で終わります。喪で喪を挟む構造は、やはり同じく喪服で始まり喪服で終わる喪服映画こと「海街diary(2015)」と通じるものがあります。わたしの初是枝作品で、喪服が3回も出てくるのに暗くない映画!とびっくりした覚えがありますが、デビュー作はそれの暗いバージョンなのでまあなかなかです(笑)

とはいえ、おそらくこれは他の是枝作品にも共通するのだろう(未見ばかりなのであくまで推測ですが)と思われる、少なくとも「万引き家族(2018)」で見られたような「束の間の幸せな時間」も描かれていて、それは主人公ゆみ子の服装が明るくなることでわかりやすく表現されています。紫色のワンピースのシーンがよいです。江角マキコのすらっとした体型にワンピースやロングスカートがよく合います。

ちなみに、喪服映画は結構好きです。「風と共に去りぬ(1939)」のヴィヴィアン・リーや「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト(1968)」のクラウディア・カルディナーレなども、劇中で最も印象的な衣装は喪服です。まことに不謹慎ながらたいへん魅力的です。黒い服が好きなだけとも言いますが。原体験はキキかな…。

「映画を撮りながら考えたこと」を読んだうえで観ると、監督の言う「失敗点」らしきところもなるほどなと面白く味わえます。顕著なのは引きのカットがあまりに多用されていることです。カメラを置いておいて、何かを俯瞰でしばらく見せられる、そんなシーンが非常に多いです。ここまで頻出するとさすがに単調に思えてきます。シンメトリックな構図など絵的に狙った感が強いショットも多く、今の是枝作品とはだいぶ違う印象を受けました。

監督はドキュメンタリー畑出身なので本来はフレキシブルなカメラワークが得意だったはず。しかしいざ映画を撮るとなると、綿密な絵コンテを描いてしまい、それに縛られてしまったが故の「失敗」だったそうです。興味深いです。

音声の問題というのもおもしろかったです。映像の距離感と音の距離感が合っていないと不自然になってしまうという話。本作はほとんどクローズアップをしない絵作りなだけに、声だけが妙に近くで聞こえることによる違和感がある、と。確かに。ドキュメンタリーは元々リアルなものを撮るのに対し、映画はリアルを作り出さないといけないので別の技法が必要になるんですね。

ロケーションはとても素敵でした。特に、冒頭でしか出てこない場所ですが、子供時代を過ごしたガード下の風景。ものすごい重厚感があって、これはどこなんだと調べたら鶴見線の「国道駅」という、マニアには有名な駅でした。思わず廃駅と言ってしまいたくなる雰囲気ですが、現役の、生ける化石のような駅です(いずれにせよそういう表現になる)。コンクリートのアーチがかなり素晴らしかったので、行ってみようかなあなんて思ってます。

後半の舞台となる能登も、印象的な風景が多かったです。子供達が追いかけっこをする棚田らしき水田、さながらアート映画な海沿いの光景、水面がくっきり鏡面になっていて惚れ惚れとしてしまいます。あと犬とか、撮りながらガッツポーズだったろうなと思うようなシーンが多いです。作為的なものを感じ取れてしまうという意味ではいかにもデビュー作、なのかもしれません。

結構長くするすると書けてしまいましたが、じつのところはだいぶ船を漕ぎながら観てました。あとから感想を書き出してみると意外に見どころが多かったみたいだぞ、という感じです。思い入れのない作品のほうが楽しく書ける不思議。

(2019年137本目)

幻の光

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PrimeVideoの会員特典で観れます。若い頃の江角マキコ多部未華子に見えます。笑うと可愛い。最後で髪おろすのも可愛い。

こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと(是枝裕和 著)

是枝裕和監督の新著「こんな雨の日に 映画『真実』をめぐるいくつかのこと」を読みました。

先日公開された映画「真実」の構想から制作までを記録したもの、ということで、①映画を観ていて ②是枝監督に興味のある人 にしかあまり関わりのない本、のようにも思えるかもしれませんが、じつはこれ結構、映画ファンに広くおすすめしたい一冊です。

というのはこの「真実」という映画が単なる「是枝監督の新作」では片付けられないものだから。まず、全ての撮影をパリでおこなった日仏合作映画であること。そして何より、メインキャストに並ぶカトリーヌ・ドヌーヴジュリエット・ビノシュイーサン・ホークといった錚々たる面子。

なお、いくら予告編でドヌーヴとビノシュを見ていても実際に全編を観てみないとピンとこないと思うんですが、この映画、完全にフランス映画です。監督がコレエダというだけで、あとはニッポンのニの字もない、どこからどう見てもフランス映画です。


そんな作品の制作過程を記録した約300ページの本。どういうことか。つまり、ドヌーヴやビノシュやイーサンの話がわんさか!ということでございます。是枝監督による、名優たちの観察日記なのでございます。これがまず単純に面白い。

特にやっぱりドヌーヴですかね。映画から飛び出したような大女優を地でいく彼女の、しかし愛らしいところが存分に伝わってきます。わたしもですがドヌーヴというと「シェルブールの雨傘(1964)」止まりな人って多いと思うのですよ。老年のドヌーヴ自体は観ていたとしても、受け入れがたいというか。でも映画「真実」を観て、この本を読むと、いつの間にかすっかり「大女優カトリーヌ・ドヌーヴ」にアップデートされるのでおすすめ?です。むしろ華奢で可憐なシェルブールロシュフォールが見れなくなる危険も(笑)

ドヌーヴはじめ大スターたちの口から出てくる映画界の裏話なんかもおもしろく、お得な気分になります。ドヌーヴとのインタビューを終えた監督が言う「彼女の口からドゥミ、トリュフォーという名前が出てくるのを直に耳にするというのは本当に貴重な経験(p67)という感覚が、まさに全体通して詰まっている本。そんなわけで間口広く楽しめる一冊だと思います。

それから、監督がこんなキャスティングを実現できたことにも繋がっているのですが、日本から見ているイメージ以上に、是枝監督は世界的に活動・評価されているんだなと。「真実」制作中も「万引き家族」ほか幾つかの作品で映画祭巡りを並行していて、よくそんな時間と体力があるなというくらい飛び回っておられる。そして、誰々と会った、みたいなすごいことがサラッと書いてあったりする。コレエダめっちゃツテある…!って鳥肌立っちゃいます。

ちなみにドヌーヴはかなりの映画マニアで、常に新作のチェックを怠らないのだそうです。もちろん日本映画、是枝作品も結構観ている模様。陣中見舞いで訪れた福山雅治カトリーヌ・ドヌーヴのご対面!なんていうシーンもありますよ。ドヌーヴがどんな反応を見せたか、それはお読みください。

あんまりいろいろ書いてしまってもよくないんですが…、監督直筆のメモやお手紙の可愛らしさなんかも必見ポイントです。写真もいっぱい収録されていますし、プロデューサーさんによる書き下ろしエッセイ(また文章がお上手…!)なども大変おもしろいです。

映画「真実」未鑑賞でも、分からないなりにそれ以外の部分でかなり楽しめると思います。でもって映画も観たくなると思います。本書はクランクアップのところで終わってしまうので、それ以降の話もどこかで読んでみたいものです(ドヌーヴ緊急入院、のニュースを見てドキッとしてしまいました。せっかく親しみが持てるようになったのに、まだ逝かないでおくれ…)

とりあえず今は、遡って2016年の是枝監督著書「映画を撮りながら考えたこと」を読み始めています。こちらは未見作のエピソードだらけ。分からないなりにじっくり読んでみます。

映画を撮りながら考えたこと

映画を撮りながら考えたこと