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主に映画の感想文を書いています

「遊星からの物体X('82)」と前日譚「遊星からの物体X ファーストコンタクト('11)」

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ヘイトフル・エイト(2015)」でタランティーノ監督が大いに意識したという映画「遊星からの物体X」を観ました。

遊星からの物体X」、その名前は聞いたことがあっても、正直あまり観たいと思えるタイトルではないというか。サイレント映画の名作かな?くらいに思ってたところがあったんですけど、そういう意味では「意外と最近」な80年代の作品でした。さらに主演はカート・ラッセル、音楽はエンニオ・モリコーネあれっ、既視感。そうですね、まさに「ヘイトフル・エイト」の布陣ですね。

B級感のすごいタイトルですが、原題は「The Thing」。あれっ、シンプル。そして観て気付く。これ「ストレンジャー・シングス」だ! デモゴルゴンだ!

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画像はゴールデングローブ賞OPのものですが、劇中でも彼らの部屋には「The Thing/遊星からの物体X」のポスターが!

な〜るほど〜。こりゃ本来もっと早く観ているべき作品でしたね。海外ドラマ「ストレンジャー・シングス」についてはこちらのプッシュ記事などをどうぞ。 ていうかきっと調べてる段階でこのタイトルは目にしているはずなのに、完全スルーしてしまうほど食指が動かなかったんですね(笑)

遊星からの物体X(1982)

というわけでの「遊星からの物体X」。いやこれ、すごく面白かったです。「未知との遭遇(1977)」や「ストレンジャー・シングス」など、SFホラー好きな人には堪らんのじゃないでしょうか。

舞台は南極、観測隊の基地。10万年前から氷の下に眠っていたエイリアン的なもの(The Thing=物体=字幕だと「生きもの」)を覚醒させてしまい、しかもそいつは細胞レベルで人の姿に擬態することができると判明。孤立した基地の中、もう既に誰かが「人間ではなくなっている」かもしれない…。みたいなお話。

設定だけ見るとやはりB級臭いんですけど、驚かせ方のバリエーションがとにかく豊かで、すごい楽しませてくれるホラーだなあと感心しちゃいました。「人だと思った? 物体でした〜〜〜」の引き出しが多いんですよ。ワンパターンじゃないから毎回ちゃんとビックリできるし、あまりのキモさに笑えちゃう。AEDはトラウマ。

あとはそう、犬! 犬ね! 確実にMVPです。犬を見ているとは思えないような迫真の演技。まあ、そうなんですけど…。

ヘイトフル・エイト [Blu-ray]

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ヘイトフル・エイト」との共通点としては雪と密室と疑心暗鬼と、その程度のところかしらと思いながら観てたんですが、後のほうになって「そのまんまじゃん」なシーンも続々出てきます。離れの小屋をつなぐロープ(特にこれ)、ドアを封鎖するべく打ち付ける板、床下etc...。比較動画なんかもあって、オープニングからわりとオマージュしまくりみたいです。

また、モリコーネの劇伴は「ヘイトフル・エイト」以上にミニマル、かつ印象的。モリコーネというと「ニュー・シネマ・パラダイス」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」などで聴ける涙ちょちょ切れ系のイメージがあるので、こういう音楽もやるんだなあと驚きました。思えば久石譲もミニマル書くし、菅野よう子エスカフローネから攻殻まで幅広いんだよな。そういうものなのね。

さてそして、30年後には前日譚が作られております。こちら。

遊星からの物体X ファーストコンタクト(2011)

別に観なくてもいいかな〜と思っていたものの、あらすじを見て俄然観る気に。「ヘリで追っかけられる犬、という前作冒頭の『そこに至るまで』を描く前日譚」なのです。文字通りの前日譚。「スター・ウォーズep4」と「ローグ・ワン」の関係性ですね。

というわけで前作の基地や隊員は出てこず、今回の舞台となるのは「前作の序盤で連絡が取れず偵察に行ったら大惨事になってたもう一つの基地。やっぱ前日譚の楽しさというのはまず「新品だった頃のミレニアム・ファルコン」的なやつ、それと「つじつま合わせの後出しジャンケン」でしょう。あの傷はどうやって出来たの?的なやつです。それが沢山用意されていて楽しい。

例えば個人的に興奮したのは、前作だと既に「くり抜かれた」ような状態になってた氷の塊。あれの切り出した直後のやつが部屋に置いてあるのとか。前作でもX地点的な場所に四角い穴が発見されたりしてましたが、鈍いわたしはイマイチそのへんが繋がらず。今回のを観て「ああ!」と理解しました。鈍いってことでいうと「犬」と謎の射撃もわたし全然繋がってませんでしたけどね! 鈍すぎだろ! 「ああ!!!」って感動したけどさ!

ストーリー展開は前作を踏襲していて、人間かそうでないかを判別する検査イベントが発生したりと全体的に同じような楽しみ方ができます。ただそのへんの部分は前作のほうが圧倒的に面白いかなという印象。まあ、どうしても焼き直しになりますしね。あと宇宙船内部のシーンも、要らなかったんじゃないかなあ。ファイナル・カット版で消えるかな?

若干の不満はありつつも、30年の時を経ているわりにしっかり同じ雰囲気で作られているので、キワモノではなく普通に連続した2作品として楽しめました。一応「ローグ・ワン」的な楽しさが大きい作品のため、時系列ではなく公開順で鑑賞したほうがよさそうです。

ちなみに男だらけだった前作と違い、本作には女性の研究者が登場。それがなんと、つい先日「デス・プルーフ in グラインドハウス(2007)」でゾッコン惚れたばかりのメアリー・エリザベス・ウィンステッドさん! 黒髪で全然イメージ違うしあんなギャル役じゃないですが同じ顔でした(そらそうよ)。彼女はなんと前作のカート・ラッセル的ポジションなので、ううん、完全に「デス・プルーフ」を感じる!

それから、「ゲーム・オブ・スローンズ」のトアマンドことクリストファー・ヒヴュも出演。先日観た「ワイルド・スピード ICE BREAK(2017)」にも出ていましたがやはり雪のシチュエーションにしか出てこない(笑) 2011年だと、GOTで有名になる前ってことですね。そのまんま私服着たトアマンドなルックなので、トアマンド好きさんにおすすめです。

GOTといえば、前作のカート・ラッセルがジョン・スノウに見えるとわたしの中で話題です。

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見えません?

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こちらは私服のトアマンド

いろんな繋がりも楽しい「遊星からの物体X」シリーズでした。「ストレンジャー・シングス」くらいキモグロなのが大丈夫な方はぜひぜひご覧ください。

(2019年100・101本目)
やっと100本目! 今年は去年よりだいぶスローペースです。

遊星からの物体X [Blu-ray]

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配信は、Netflixに2本ともあります。あると思わなくて1本目はPrimeVideoの課金で観てしまった…。

「否定と肯定(2016)」雑感

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ジャンゴ 繋がれざる者」のオープニングを眺めながら、いや今日はこの気分じゃない。変えよう。つって切り替えたのがこちらの作品になります。こっちの気分になるのもどうなのよと思いつつ。ホロコースト関連の映画です。

否定と肯定(2016)

否定と肯定 (字幕版)

否定と肯定 (字幕版)

2000年代にもなって「ホロコーストはあったのか」を法廷で審議するという、実際にあった裁判の話。

発端は1993年。ホロコースト学者のデボラ・E・リップシュタットが自著の中でデイヴィッド・アーヴィングというホロコースト否定論者について「嘘つき」と批判したことを受け、アーヴィング本人が名誉毀損でリップシュタットを訴えるという事件がありました(アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件 - Wikipedia)。

リップシュタットはアメリカ人でしたが、イギリス人であるアーヴィングはイギリスの裁判所にこの訴えを出しました。イギリスの法律ではなんと、訴えられた側が自分の無罪を証明しなければならないのだとか。問題が問題なだけに無視するわけにもいかなくなったリップシュタット側は、イギリスへ飛んでアーヴィングと戦うことになります。

これ厳密には「ホロコーストの有無」ではなく「ホロコースト否定説を唱えるアーヴィングの論法は信頼できるものなのか」を審議する裁判なのですけども、ただしその過程や結果で「ホロコーストの有無」は避けて通れない話であり、もしアーヴィングが勝訴した場合それは法廷が「ホロコーストは無かった」と言っているも同然になり、…と、つまりかなり厄介、かつ各方面から注目を受ける案件なわけです。

でまあその、何年もかけたという準備段階から実際の法廷劇までを描いた映画が本作。ある程度ホロコースト関連の予備知識が必要な上に、裁判の争っているところが前述のように複雑だったりしてやや難しい作品ではありますが、とてもいい映画でした。 複雑なところに関しては町山さんの解説がかなり分かりやすかったです。たまに町山さんがかっこよく見える。

アウシュビッツ

序盤、弁護団とリップシュタットはアウシュビッツを訪れます。「一緒にアウシュビッツへ来てもらう」と言われた直後、観客もアウシュビッツに突然飛ばされるわけですが、ここがすごくて。色味が変わるとか、音がなくなるとか、それもあるけどそれだけじゃないと思う。明らかに空気がピリッと変わるんです。その場に行かないと感じ取れないものがある、というその感覚をこんなにも疑似体験できるんだなと驚きました。

もしかすると「舞台がアウシュビッツに飛ぶ」タイプの作品は初めて観たかもしれません。最初からアウシュビッツか、そうでなくともホロコーストの最終到達点としてのアウシュビッツか。現代のアメリカからいきなり飛ばされることでこの強烈な映画体験ができたのかも、です。

アウシュビッツはいつか実際に訪れてみたい場所のひとつでしたが、その気持ちが強まってます。3年以内くらいに行きたい。って書いとく。

レイチェル・ワイズのリップシュタット

弁護団から与えられた「アーヴィングはあなたを貶めようとしているから証言台に立ってはいけない」というルール。町山さんの解説だとすごく腑に落ちたんですけど、映画のなかの描写としてはレイチェル・ワイズのリップシュタット、単に「あなた感情的で事故るから黙ってなさい」なふうにしか見えなくて、プロの言うことを聞かないリップシュタットにわりと苛ついちゃいました。

「良心を他人に委ねる辛さ」とか「人に頼らず生きてきた」的なセリフが出てくるようになってからは(リップシュタットも映画的に気持ちを改めるし)そうよね〜って感じで気持ちよく観れるんですけどね。原作本だと前書きの部分で早くも「自立した人生を大きな誇りとしてきた人間にとって(中略)、これは耐えがたい苦痛だった」という言葉が出てくるので、映画でもそこの描写をちょい足ししてくれたら感情移入しやすかったかな。

そういえば、アーヴィングは弁護士を雇わず自分で自分の弁護をしてました。ってところで連想したのが最近旬なチャールズ・マンソン。彼も自分で自分の弁護をしてたんですよね。詭弁家にはそのほうが立ち回りやすいんですかね。

今回の課題図書

否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)

否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い (ハーパーBOOKS)

こちら、読み始めました。読み終わった頃にまた。

(2019年97本目)

否定と肯定 [Blu-ray]

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PrimeVideoに課金して鑑賞。イギリスの法廷ものってことで「情婦」が観たくなりました。あのカツラがね。