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タイ映画「ハッピー・オールド・イヤー(2019)」感想|オフビート断捨離コメディと見せかけて、重く鋭く痛い。

昨日のアトロクOP宇多丸さんが興奮気味に語っていたタイ映画『ハッピー・オールド・イヤー』を早速観ました。

いま注目株らしいナワポン・タムロンラタナリット監督(噛まずに言えるようになっておきたい)の作品で、日本でも昨年末に劇場公開されていたとのこと。ポスタービジュアルを見て思い出しましたよ。「NEW」を打ち消したこのタイトル、知ってる。知ってた。


映画「ハッピー・オールド・イヤー」ポスター
映画「ハッピー・オールド・イヤー」ポスター


こちら、ざっくり言うと「断捨離」映画です。開始早々パキッとした画面でミニマリズムの真っ白な部屋が映し出され、ミニマリストの女性がインタビューに答えています。断捨離のコツを教えてください、なんて言われたところで少し過去に戻って本編スタート。

序盤は、ミニマリストに憧れる主人公が実家大改装計画への情熱をひとり燃やしている様をいわゆるオフビートコメディのタッチで滑稽気味に描いていきます。なにかと「それはミニマリズムに反する」とか言い出す上っ面の感じが可笑しいし、なんと断捨離界の世界的ツートップ「こんまり」と「サノス」も出てくる! 素朴なアジア映画のルックを持ちつつ、中身はしっかり2019年です。

さて、難航しつつも絶賛断捨離中の彼女は、うっかり「元彼のカメラとフィルム」なんちうアイテムを見つけてしまいます。明らかに黒歴史だけど捨てるわけにもいかなくなって、近所なのに郵送します。受け取り拒否で戻ってきます。ええ〜。そしてやむなく直接返しに行ったあたりから、映画は意外な展開を見せていきます。

断捨離コメディかと思ったら、断捨離に端を発した「心の整理」の物語だった。そういうことであれば比較的月並みとも言えるのですが、この映画が一筋縄じゃないのはここから先。勝手にけじめ付けてんじゃねえ。罪悪感は背負って生きろ。なんと鋭く痛い後味。まあご覧くださいませ。

他にもいろいろあって、心も揺れに揺れて、それは観客側もそうで、しかし映画の冒頭で既に結果を見ているとおり、彼女は家をまっさらな空間に改装してミニマリストとなるのです。

さまざまな感想を抱ける映画だと思いますが、見たまんまの部分で「ミニマリストも楽じゃないな」ってのはすごく思いました。いやなんか、物に囲まれていたいタイプの人間からすると「ミニマリスト」ってちょっと冷笑的に見てしまうところもあったんですけど、その境地がこうもひどく人間的な葛藤との闘いで勝ち得たものだとするならば、それはリスペクトあるのみ。

(2021年164本目/Netflix

▼「サノス」と「指パッチン」はシナリオ上わりと大事な役割を果たすワードなので、MCUがいかにスターウォーズ的ポジションに上りつめたかよく分かる。▼古い写真の整理、しないとな。▼ハングルが読めるようになって一息ついたところに突如現れた「タイ文字」。うわあ、読めねえ……。ちょっとかじってみたい……。

追記:主演女優さんが気になった方もそうでない方も『バッド・ジーニアス 危険な天才たち(2017)』、こちら非常に面白い「カンニング映画」でしたので併せてどうぞ!