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主に映画の感想文を書いています

「北極百貨店のコンシェルジュさん」「火の鳥 エデンの花(音声ガイドがすげえぞ)」「キリエのうた」のはなし。

三作品のポスタービジュアル

さあて前回までのさんごさんは、雑多なウン本をまとめて書くつもりが結局前後編に分けたところでしたね。最近観た新作映画、後編にまいりましょう。といっても今回の3本は「昨日観た3本」。新宿バルト9、サービスデーで朝から晩まで観てまいりました。

ちなみに全て「HELLO! MOVIE」アプリにて音声ガイド付きで鑑賞。てきとうに選んでも全てガイドが付いているのは素晴らしいことです。そして今回は音声ガイド激推し!な感想も。また後ほど。

▼朝の一本目『北極百貨店のコンシェルジュさん』。70分という短いアニメーション作品ですがなかなかタイミングが合わず、やっと観れました。オッドタクシー的な動物たちが集う、ウェス・アンダーソン世界のような可愛らしい百貨店。でもじつはそのお客さまたちは「V.I.A」=ベリー・インポータント・アニマル=絶滅危惧種の皆さんで——。そんな百貨店で新米コンシェルジュとして働き始めた人間のおねーさんが主人公です。

ほのぼの、ゆるゆる、ほんわかな雰囲気の作品ながら同時に「いや、深いな…、重いな…」という作品でもあり、個人的には「軽く観られる70分のアニメ」では全然ありませんでした。「サービス業のお仕事映画」としての自分ごとキリキリ感(今サービス業なので…)もあるし、次第に重くのしかかってくる「V.I.A」のこと、ほっこりハートウォーミングなエピソードにすら見入ってしまう始末。フィンガーボウルのシーン、べったべたなのにボロ泣きしちゃった。心に水が足りてないのね、あたし。

音声ガイドには、登場する動物たちの情報が盛り沢山。百貨店というシチュエーションと「音声ガイドナレーション」の親和性も高く、とても耳心地の良いガイドでした(最後の最後も、小粋。ガイドのクレジットに「演出」がありましたね、初めて聞いたかも)。一点、擬人化動物だから間違ってないんだけど「身なりのいいメス」っていうワードに笑っちゃった。すごい悪口っぽい。

▽二本目まで時間があったので、お昼がてら新宿御苑へ。わたし新宿御苑、じつは入ったことなくて。『言の葉の庭』のあそこでしょ、くらいの(つまりは雨の?)印象しかなくて。でも、ちょっと、ショックでした。東京のセントラルパークじゃん。あんな天国が、あんな近くにあったのか。有料公園だからこその治安、ふかふかの芝、当たり前のように行われているピクニック、都会の喧騒から切り離されつつも にょきっと生えてるドコモビルやモード学園(都市好きとしては、ここ大事)。

ミラノサンドA持ち込んでコーヒーしましたけどね、ほんとに天国で。ああ、もともと好きな街だった新宿にすらこんなに知らない世界が、しかも堂々と巨大に存在していたのかと、人生まだまだ楽しそうだと思いました。は〜、また来よ。ちなみに『言の葉の庭』のあそこは分かりづらかった。イメージと結構違った。でも雨の日に来てみたい。

閑話休題、二本目は火の鳥 エデンの花』。わたし「火の鳥」は中学生ぐらいの頃に一応全部読んでるはずなんですけど記憶はないので実質読んでません。そんなわけで本来ならわざわざ観るでもない作品だったかもしれないんですが、これに関してはこれなんですね(日本語)。

音声ガイドを花江夏樹さんが担当! …のほうではなくて(のほうでもあるんですが)、音声ガイドを制作した和田浩章さんのほうですね。この方、シネマ・チュプキ・タバタの元支配人で、今は島根県益田市「Shimane Cinema ONOZAWA」の館長をされてます。チュプキ時代から有名声優さんを起用した音声ガイドのエンタメ化に取り組んでおられて、それがついにここまで来たと。『火の鳥』のガイドすげえっすよというのは風の噂にも聞いていたので、早く観ないと!と観て&聴いてまいりました。

結論。凄まじかったです。これはすごいところへ連れて行ってくれそうだと期待が高まるオープニングのナレーションから、エンディングの歌詞朗読まで、STUDIO4℃の作品世界と完全に一体化した音声ガイド。『火の鳥 エデンの花』という映画は、この花江夏樹さんによるナレーション込みで完成形でしょう。公式に制作された音声ガイドはこうであるべきだ!と思いました。細かく設定された時間経過の情報、主題歌の和訳詞などはガイドからしか得られないのでそれも貴重ですね(和訳は字幕で出ててもいいかなとは思いましたが)。あと、音声ガイド制作のクレジットって本編のエンドロールには出してもらえないことがほとんどなので、しっかり「音声ガイドディスクライバー 和田浩章」が刻まれて流れてきたときは嬉しかったです。

これからご覧になる方、リピーターの方、是非ともこの音声ガイド、というかナレーション付きで観てください。アプリ「HELLO! MOVIE」を入れて、上映前に音声ガイドデータをDL。席に着いたら機内モード&マナーモードにした上でアプリを立ち上げ、イヤホンをつけ(片耳がおすすめ)、スマホのマイクを塞がない塩梅でバッグかどこかにしまっておけば(本編の音で自動的に同期するのです)スタンバイOK。映画泥棒くらいから切り替わってナレーションが始まります。

ところで映画自体の話をしていませんでしたが、お話も好きでした。前述のとおり原作の記憶は完全にないため、なんちゅうスケールよと思いながら観てました。そして、とてつもなく寂しい。こんな体験させてくれる「映画」って、すごいっすね。総合的に、おすすめでございます。

▼嗚呼、15分後に三本目を設定した自分、憎らしい。三本目は岩井俊二監督の最新作『キリエのうた』。ようやく観ました。NHKでも「大林宣彦監督からの遺言」的な感じで特集されてましたし、どうやら東日本大震災絡みの作品であることもそこで分かってしまったし、ていうか岩井俊二だし、観なきゃね、と。

すっごく岩井俊二っぽい銀世界から始まって、バルト9直結の新宿が登場して、広瀬すずさん七変化の眼福(かわいすぎんよ)と、アイナ・ジ・エンドさんの唯一無二な歌声と、松村北斗さんも好感しかないし、あーこりゃ、やっぱりいいものですなあと思ってはいたのですが。中盤くらいからちょいちょいノイズが増えてきて、震災絡めもなんかあんまり意義を感じられなくて、うーーんで終わった感じがあります。

ノイズはね、なんだろな、まあ、搾取的な「それ要る?」もいっぱいあったし、『天気の子』的な「それ要る?」も多くて。いや、わたし、なんか展開としての警察沙汰が好きじゃないっぽいんですよね。反体制っぽくなってくことに何の快感も覚えないし。最後だってあれ全然いいシーンじゃないじゃん。ミュージシャンのこととか馬鹿にしてんのかなって思っちゃうし。ていうかほんと『天気の子』と似てるよね、いろいろ。変わりゆく東京の街並みを記録してくれているのがとてもいい!!ってとこまで似てる。

新海作品を引き合いに出したついでに言うと、同じく松村北斗さんが重荷を背負わされている『すずめの戸締まり』のほうが、震災を織り込んだ物語として圧倒的に意義があると、個人的には感じる。なんか、わかんなかったなー。そうだな、「わかんなかった」が正しいのかな。仙台出身・岩井俊二、当然わたしなんかよりもよほど深い思いも葛藤もあったはずで、ケチを付けたくて観ているわけじゃ決してないのだけど、一回観た限りではNot for meということで。

以上、最後だけバイブス悪くなってしまった三本立ての感想でした。前編はこちら。