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主に映画の感想文を書いています

映画「SEOBOK/ソボク(2021)」感想|不老不死SFとしては弱いが、サイコキネシスものとしては大満足。

現在公開中の韓国映画『SEOBOK/ソボク』を観ました。監督は『建築学概論(2012)』のイ・ヨンジュ。そうなんだー!ってなりましたけども。超有名タイトルなのに未見なのです。機が熟したか。

そして主演はコン・ユとパク・ボゴム。大好きなんですわたし、コン・ユ。『トガニ 幼き瞳の告発(2011)』『新感染 ファイナル・エクスプレス(2016)』『82年生まれ、キム・ジヨン(2019)』どれも絶品のコン・ユでしたが今回も最高にコン・ユしてました。

パク・ボゴム氏はその「超人気らしい」ということぐらいしか知らず、唯一の面識は『梨泰院クラス』のアレだけです(面識ではない)。今回ようやくお顔を覚えたので頭をまっさらにしてもう一度観たい。

映画「SEOBOK/ソボク」ポスター
映画「SEOBOK/ソボク」ポスター

さて本作、「永遠の命を持つ生命体」が出てくる物語であることは予告等でも前面に打ち出されておりまして、同じく「不老不死」を扱った『Arc アーク(2021)』も同時期公開だったんですよね。こういうSF流行ってんのかしらと、両方とも楽しみにしていました。

『Arc アーク』は蓋を開けてみればだいぶ風変わりな映画でしたが、本作は比較的王道なマクガフィンもの。パク・ボゴム扮する国家機密のクローン人間「ソボク」を、余命わずかなコン・ユが護衛することになる。つまるところ「死なない人間と死期迫る人間のロードムービー」的なお話です。チクショウ俺は生きてェんだよ!モードのコン・ユと無味乾燥なソボクの噛み合わなさが和みます。

ただ描き込みは正直いまひとつで、コン・ユの病のことも、背負ってる十字架のことも、ソボク誕生の秘密も(いち科学者の執念が国家プロジェクトになってしまったの…?)、結局何?? そもそも何?? みたいなのが多い。どれも説明を省きすぎてると思うんですよね。先に『Arc アーク』が公開されたことによるテーマ的な新鮮味のなさもマイナスに作用してしまった感があります。公開タイミングは運ですね……。

でもまあ個人的には、終盤のサイコキネシス展開でそんなことは全部吹っ飛びました。わたしサイコキネシスもの好きなんだなって改めて気付かされました。何がいいって、負の感情がそのままカタルシスに直結するところですよね。溜め込んだ怒り悲しみ憎しみが文字通り爆発する。こんなに気持ちのいいものはありません。

それこそ『ストレンジャー・シングス』なんかもそういうところがハマる要因だったのでしょうし、同じマーベルでもMCUよりX-MENシリーズのほうがのめり込めたのはそういうことなのかなと。『私をくいとめて』のみつ子よりも『勝手にふるえてろ』のヨシカがいい、そういうことです。

本作の話に戻すと、カップラーメンの部屋でバリアを張ってくれるところからまずグッときて、メガネ研究員の地面叩きつけで「いいぞ!」となって、車椅子グチャッという分け隔てのないバイオレンスに思わず喝采を送り、あんなに悲しそうなサイコキネシス見たことないぞと最後の屋外戦では胸が震え、あの車を投げ込まなかったことだけはやや不完全燃焼ですが、自ら墓を作っていたのかい……というラストの余韻までとてもいい流れになっていたと思います。

VFX的にもさすが韓国映画、全くチープなところのないクオリティで、このままマグニートーあたりとバトってくれてもいいんですけどって感じでしたね。脚本は弱いが力技で満足させてくれる、これはこれで、いい映画でございました。

(2021年114本目/劇場鑑賞) サイコだけど大丈夫』の師長がある意味同じような役どころで出ていたのも嬉しかったですが、製作時期的には『サイコ〜』を観てのキャスティングというわけではなさそう? 「ヒョン(兄さん)」で泣かせる韓国ドラマ的展開ってとこもちょっと似てるんですけどね〜。あとそうそう、不老不死が実現してしまったら韓国ドラマは弱くなるかもしれませんね(笑)

映画「プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)」ネタバレ控えめ感想|食らってしまってしばらく言葉が出てこない。

映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」
映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」

現在公開中の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観ました。これまず、変な邦題をつけずにそのまま公開してくれたのが嬉しい! 配給会社様、ありがとうございます。

監督はエメラルド・フェネルさんという、名前だけだとピンと来ませんでしたが『ザ・クラウン』のカミラ役の方なんですね。さらに『キリング・イヴ』シーズン2では殆どの脚本を手掛け、製作総指揮も務めておられたとのこと。わたしとってもお世話になってるわ。本作が映画監督デビューだそうです。

主演はキャリー・マリガン。『ドライヴ(2011)』や『華麗なるギャツビー(2013)』で見れるブロンドのショートヘアがたまらなく魅力的だった彼女ですが、今作ではウェービーなロングヘアが基本スタイルで、だいぶ違う雰囲気に。でもファニーフェイスな魅力は変わらず、さらにいい味出してます。次々変わっていく衣装やヘアスタイルも眼福です。それこそ『キリング・イヴ』のヴィラネル的な七変化ですよ、合点。

映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」より
映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」より

さてこの作品、そのポップなキービジュアルから『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒(2020)』みたいな映画を想像する方も多いことでしょう。マーゴット・ロビーが製作に入っているのも余計その先入観を生む要素です。しかしそう思い込んでいると、つまり新時代の痛快ヒロイン大活躍系を期待していると、これは食らいます。わたしは食らってしまってしばらく言葉が出てこなかった。

以下ネタバレ控え目でいきますが、まず序盤、『ハーレイ・クイン』を期待しているものですから「テンポ悪いな」とか思わなくもないわけです。ハーレイならここで背景ドッカーーーンだぞ、ってね。おまけにちょっと露悪的すぎやしないかと若干モヤつきながら観てたわけですよ。でもまあ、掴みづらい全体像が少しずつ姿を見せてくる展開はそれなりにサスペンスフルで、いきなりダーンッと巨大テロップが出るあたりなど大興奮だし、想像してたのとは少し違ったけどこれはこれで面白いなと。

で、お話の着地点も徐々に見えてきて「なるほどそういう話か」ってなるんですけど、それはすぐに覆されて「なるほど…そういう話か…」ってなるんですけどそれもすぐに覆されて「なるほど………そういう話か………」ってなるんですけどそれも──

ええもう、確実に3回は結論を取り下げる羽目になりましたね。悪い意味でもいい意味でもないけど113分が長かった。最初の「なるほどそういう話か」で、もう終わる頃合いだと思ってましたから。その後あんなに続くと思ってなかった。実際どんな時間配分だったのか、配信開始されたら確認してみたい。

とにかく、公式には「復讐エンターテインメント」と謳われてますけどこれ、面白かったー!っていう映画じゃないですよ。なんならトラウマ映画の類だと思う。それも観客自身へ「自問」が突き付けられてエンドロールという。終わって早々「あそこ誰々が出てたよね〜!」と盛り上がっていた男性客二人組、君たち大丈夫か? あの問いかけを理解したか? いや別にどう観ようが勝手なのだが、心配になってしまう切り替えの早さだった。

filmarksのレビューをちらっと見たら「悔しい」というレビューを書いている方がいて、ああ確かに、悔しい、その感情もあるな。思えば序盤からずっと、決定的なカタルシスはないのだ。

ううん、これは、つい文体も変わってしまうほど、衝撃的な作品でした。何かと無自覚で都合よく解釈しがちな我々男性は、特に観るべきです。

(2021年123本目/劇場鑑賞) 追記: 女性目線での感想について、アトロクで宇垣美里さんが話していたものを一部書き起こしました(こちら)。