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主に映画の感想文を書いています

映画「カタブイ 沖縄に生きる」「返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す」シネマチュプキ7月前半鑑賞メモ

田端のユニバーサル・シアター「シネマ・チュプキ・タバタ」7月前半のプログラムで鑑賞した沖縄関連の映画を2本、まとめて書きます。書いてたら長くなったのでまとめなくてもよかったかもしれない(いつものこと)。

なお滑り込みで観たので既に上映終了しております、ごめんなさい。

『カタブイ 沖縄に生きる(2016)』

監督のダニエル・ロペスさんは沖縄在住のスペイン系スイス人。先日観た『沖縄 うりずんの雨(2015)』や『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記(2020)』はどちらも沖縄の抱える悲しみや怒りを中心に据えたドキュメンタリー作品でしたが、本作は沖縄の人たちがそういった闇を抱えながら、しかしどのように日々を生きているかという面にスポットを当てた作品となっていました。

「カタブイ(片降い)」とは沖縄特有の言葉で、ここは晴れだけどすぐそこは雨というような、局地的に雨が降ることを意味しているそうです。沖縄といえば陽気に歌い踊っているおじぃやおばぁのイメージがあるけれど、その胸の内には深い悲しみや怒りがある。「うりずんの雨」が降っている。そんな意味合いもあるのかもしれません。

やりきれなさや怒りをアートで表現する彫刻家(全長100mのレリーフがすごい)、魔よけ職人が語る「シーサーが雄雌設定になったわけ」、ご長寿さん100歳のお誕生日会と、ほどなくして亡くなってからの葬儀全行程(全部見せてくれちゃう……)、いろんな人や物事が出てきますが、なかでも刺さったのは「おばぁラッパーズ」でした。陽気なライブシーンでなぜか落涙。

おばぁラッパーズ
かっこよすぎ!

また、沖縄のお盆の話も印象的でした。なんだろうな、わたし自身は無宗教でいたいタイプの人間だけど、こういう土着的な先祖崇拝みたいなものにはちょっと憧れるところもあるかもしれない。獅子舞の魔よけ効果について嬉々として語る女子高生とか、人として羨ましい。伝わるものがある、人々が大切にしているものがある、って素敵だなと思いました。

(2021年103本目/劇場鑑賞)

返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す(2018)』

僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』というノンフィクション本を原作にNHKでテレビドラマ化されたものを劇場用に再編集した作品。主演の井浦新さん戸田菜穂さんほか、大杉漣さん石橋蓮司さん佐野史郎さん尾美としのりさんなど超豪華&重厚なキャスティングも見どころです。

井浦新さん演じる主人公・千葉一夫は、「沖縄を取り戻したい」という強い信念で1972年の沖縄返還に尽力した実在の外交官。沖縄と本土の関係についてはここ最近ドキュメンタリーを何本も観ていたのでだいぶ身近な問題になっていましたし、「核抜き・本土並み」実現の裏でこんな人物が奔走していたのかというのは嬉しい驚きでもありました。

千葉が沖縄へ行く際パスポートとドル紙幣を用意していたのが印象的です。「君はワシントンへ飛んでくれ。俺は沖縄へ飛ぶ」といった台詞や、琉球政府の首席が「また来ますと言って本当に来た本土の人間はこれまでいなかった」と驚くシーンなど、沖縄が日本ではなかったことがドラマ作品の力でドキュメンタリー以上に伝わってきたように思います。

自国の問題なのでエンタメ的消化にはやや抵抗があるのですが、とはいえハードボイルドなポリティカルサスペンスとしても面白い作品で、例えば、粘り強く執拗に琉球政府との交流を続けた千葉がついにその任から外されることになったとき、石橋蓮司さん演じる琉球首席が彼に初めて笑顔を見せ、贈り物をする。このあたりは韓国映画工作 黒金星と呼ばれた男(2018)』的ブロマンス感もあって非常に好きでした。

心の揺り動かされ度としてはドキュメンタリー作品のほうが個人的にはガツンと来るものの、問題への関心を深める意味ではこういったドラマ作品も強いですね。また、米軍機B-52が地上すれすれに飛んでいく轟音を体感できるシーンでは「田端の極爆」ことシネマチュプキの岩浪音響がいかんなく発揮されており恐ろしかったです。本物はこれ以上かもしれないと思うと、さらに。

舞台挨拶の模様

なお先日、チュプキで行われた柳川強監督と井浦新さんの舞台挨拶を拝見することができました(作業の合間に覗かせていただくかたちだったので、あろうことか作品未見でお話を聴くことになり大変申し訳ない気持ちでした……)。ワイシャツがパンパンになるような身体づくりをしたと伺っていたため、後日鑑賞した際にはそこばかり目がいってしまいました(笑)

チュプキ恒例・中身の濃い質疑応答で特筆したいことだらけではありますが、なかでも印象的だったのは井浦さんによる「映画で取り上げられるような伝説的人物はあくまでその時代のごく限られた部分のクローズアップに過ぎず、過去を美化しすぎて今を必要以上に悲観することのないよう気をつけないといけない」という旨のお話。今の時代にはこんなアツい人間がいなくて悲しい!ではなくて、どの時代にもいるのだ、と。クローズアップされていないだけなのだ、と。

ちょっとだけお話できた井浦さんは、予想通り大きくて、オーラがすごかったです。直後に偶然観た『横道世之介(2013)』で井浦さんが突然出てきたのにもびっくり。

(2021年110本目/劇場鑑賞)


ところでチュプキ8月前半のプログラムに大林宣彦監督・永遠の最新作『海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)』が入っております。ということはあの隙間のない映画に音声ガイドが入っていることになるわけですが。近いうち何かお知らせできたら、いいな……。

映画「トラスト・ミー(1990)」感想|86年生まれ、初めてのハル・ハートリーにわりと驚く。

ハル・ハートリー監督の『トラスト・ミー』を観ました。ポッドキャスト別冊アフター6ジャンクション」でこの特集を聴いたのがきっかけです。

「#66 ジェーン・スーも絶賛!今絶対にチェックすべきNYインディ映画シーン重要監督とは? podcast特別編 - 別冊アフター6ジャンクション」


ちなみにこれ別にジェーン・スーさんは出てこないので釣りタイトルなんですけど(笑) 30年ぶりに『トラスト・ミー』観たらめっちゃ良かった、というツイートをジェーン・スーさんがしていたらしくて、そのへんにも絡んだハル・ハートリー近況&入門特集となっております。なお当該ツイートはこちら。


ハル・ハートリー監督、どうやらミニシアターブーム世代の方々には超懐かしい!!って感じみたいなんですが1986年生まれのわたし的には馴染みがなくてですね。せっかくの機会なので初ハートリーしてみることにしました。

で、確かにこれ、30年前の映画とは思えない価値観が織り込まれた作品で驚きました。序盤こそ「高校生の妊娠」「相手はアメフト野郎」みたいなところから入るのですけど、その行き着く先は毒親問題だったり、自立した生き方についての問い掛けだったりするんですよね。2020年代の作品だよと見せられたら「さすが、しっかりアップデートされている」とか言っちゃいそうです。


主演二人が写るキービジュアル
主演のお二人。この写真、すごく好きです。


キャストもすごく良くて、まず主演のエイドリアン・シェリーさん。ケバケバのギャルで登場しておきながら、ひとたびメイクを落とし髪をまとめ眼鏡をかけてシンプルなシャツワンピに着替えたらその後ずっとそのまま一張羅を貫くっていう、おそらくは寓話的?な衣装設定なのでしょうが単純に可愛いので好き。

この方、上記ポッドキャストで知ったのですが最近日本版も上演されていたブロードウェイ・ミュージカル『ウェイトレス』の原作者さんだそうで、しかし2007年の初演直前に40歳の若さで(痛ましい事件で)亡くなっているという……。『ウェイトレス』は周囲でとても評判が高かったので何らかのかたちで観れたらいいなと思っております。

そしてもう一人の主役、マーティン・ドノヴァンさん。なんていうか、いいキャラなんですよねえ。常に手榴弾をお守りとして持っていて「誰も愛さない」とか言っちゃう偏屈なのに、すごくマトモな、信頼できる男にも見えてしまう不思議。彼がお義母さんと酒を酌み交わしているシーンでの、レコードの喩え話がすごく好きです。

「おやじとの関係はまるでレコードみたいだ。レコードが載ってるプレーヤーには古びた針がついてる。音が飛ぶ。ひどいもんさ。溝がつぶれてる。でも頭の中で想像して聴く。知ってる曲だから。」

「知ってる曲だから」で、ぶわっと。

お(義)母さんもいいんですよね。何がいいって、めちゃくちゃ顔がいいの。イケメンなの。お母さんだけど。毒親だけど。なんでそんなに顔がいいのよ。でも最初から見返してみると、冒頭では「妻」もしくは「母」の顔してるんです。ああ、なら意図的に「この顔」なんだ、って。彼女にも幸あれと思います。

人間ドラマとシュールのバランスも好ましくて、重めのネタを扱っているわりに特別どすんと来るほどではなく、いいもん観たなってそこそこ清々しい気分で思える約100分でした。せっかくU-NEXT入ってるので、ハル・ハートリーもうちょい観てみましょうね。

(2021年111本目/U-NEXT)