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主に映画の感想文を書いています

映画「私をくいとめて(2020)」感想|プロのおひとりさまには共感の嵐。そしてコロナ禍映画でもあった!

映画「私をくいとめて」ポスター綿矢りささんの同名小説を原作とした映画『私をくいとめて』を観ました。

勝手にふるえてろ(2017)』も最高だった大九明子監督の新作で、のん(能年玲奈)さんが主演です。映画館へ行こう行こうと思っているうちにPrime会員特典に入ってしまい、ごめんなさい結局行けませんでした、な作品でしたが、今回も素晴らしかった……。大好き。

私をくいとめて (朝日文庫)

私をくいとめて (朝日文庫)

原作小説。なお『勝手にふるえてろ』も同じく綿矢さんの小説。

ざっくりの物語は、30代おひとりさまのヒロイン「みつ子」が脳内相談役「A」とあれこれ自問自答しながら人生していくというもの。『勝手にふるえてろ』同様、独り言多め飛躍多めのエキセントリックな映画に仕上がっています。

松岡茉優演じる主人公ヨシカがとにかく喋る喋る。しかもだいぶクセ強めに喋る喋る。ケレン味の強い台詞回し、とでも言いましょうか。たとえば。「波と戯れたりデコルテあらわなドレス肩上下させてハーハーしたりして花嫁タイムをエンジョイできちゃう」。ここで「キたぞこれは」と思える人は好きになれる映画だし、そんな人にとってはいちいち書き留めたくなるような名台詞の連発。勝手にふるえてろ(2017) - 353log

勝手にふるえてろ』でもクセの強い冒頭の台詞にノックアウトされたわたしですが、今回は30代おひとりさまとしてやはり冒頭の「ナイスなサタデーであった!」にノックアウト。言う言う〜〜! ていうか河童橋よく行ってたしセルフ誕生日プレゼントで名入り包丁買ったりするような人だし。掴みガッチシ。

言ってる言ってる〜〜。

AIコンシェルジュ的に演出されたイマジナリーフレンド「A」の存在は、Siriやアレクサの普及した2021年現在そこまで異様なものとは感じない要素。アレクサに何度もアラーム延長を懇願しながら二度寝三度寝したり、取ってつけたような定型アクションの「貴方ッテ本当ニ素敵ナ方デスネ」に「ありがとう」とか返しているわたし的にはほぼ日常です。

わたしの「A」です。

みつ子が度々さらけ出す「心の暗部」も、口にしてしまえばアウトだけどきっとみんな腹にどんより溜めてあるやつだと思いたいですね。劇中のことでいえば、友達の妊娠をすぐに喜んであげられなかった。独身だと思い込んでリスペクトしていた人が既婚と知り裏切られた気持ちになった。あるよ。ある。そういうの。あるでしょ。

上に引用した『勝手にふるえてろ』の感想でも「いちいち書き留めたくなるような名台詞の連発」と書いてますけど、本作もいちいちわかるわかるよの連発で書いていたらきりがないので、めちゃめちゃフィットしたよとだけ書いてこの件は終わりにしておきます。

能年玲奈×橋本愛

本作である意味いちばん特筆したいのが、これなんですよね。「アキユイ」と書いて分かる方には説明不要ですが、このふたりって2013年の朝ドラ『あまちゃん』でむき出しの人間付き合いをした「親友」で。今回じつに7年ぶりの共演だそうです。

劇中ふたりが一緒にいるシーンというのは今回じつはそんなに多くないのですけど、中盤ついに対面するシーンが思いのほかエモくて。本当に「再会」の感があって。涙出てきて。そりゃ、当時『あまちゃん』心底のめり込んでたもんなあ、アキユイ大好きだったもんなあと、思い入れを再確認した次第でした。

ただこれ驚いたのは、大九監督『あまちゃん』観てないんですって。マジか。だって『勝手にふるえてろ』の松岡茉優さんも『あまちゃん』メインキャストですよ?? そんなことある??*1

この大九さん、ひとつ前の作品「でーれーガールズ」(未見)では優希美青足立梨花を起用していて、ふたりとも松岡茉優と同じく「あまちゃん」のGMTアメ横女学園出身ですよ。絶対にあまちゃんファンだな…。勝手にふるえてろ(2017) - 353log

観てなくて、そんなことある???

じつはコロナ禍映画

橋本愛さん演じる「皐月」は国際結婚でイタリアに住んでいる設定。そんな彼女の元へ行くことにしたけれど如何せん飛行機が苦手なみつ子の苦行っぷりがまた最高で。映画の機内描写として屈指の出来です。空の上で食事する行為の胡散臭さとかめっちゃ分かるわ。わたしも地上から飛行機を見上げては、今あの天高くに数百人が並んで座って高速で移動してんだよなあとかしょっちゅう考えるもの。

さておき、そういうわけで映画中盤は舞台がローマになるのです。が、じつは日本で撮影しているのだそうで。というのもコロナ禍です。そうか、これもコロナ禍映画だったのか。海外ロケできなくなっちゃって、リモート撮影の実景と、イタリアっぽく作ったアパートでの撮影を組み合わせているのだそうです。全然気付かなかった。でも言われてみれば「iPhoneで撮ったムービー」がちょいちょい出てくるのはそういう経緯か。

あと皐月が外出時にマスクしてるシーンがあって。彼女、妊婦なんですけども、外出が怖くなっちゃってと言ってるんですよね。だから観光もみつ子は単独でする。てっきり単にナーバスになっちゃって、ということなのかと思っていたら、そうか、コロナ禍(に片足踏み入れたくらいの)設定だったのか。映像として「コロナ禍」が表現されている映画、もしかすると初めて観たかも……。

それでいうと、ご存知ない方も多いと思いますが『あまちゃん』もセンシティブな作品だったんですよ。あれって2013年にして早くも思いっきり東日本大震災を描いている作品で。三陸と東京を舞台に、時間軸が3.11に向かって進んでいくんです。奇しくも今回「能年玲奈×橋本愛」がまた未曾有の歴史をふたりで切り取っている……。

個人的なこと

おひとりさまエンジョイライフの行き着く先は海外旅行。わたしも2018年にNYひとり旅を大満喫してきましたけども。本作いろいろ重なるところがあるなかで、イタリアでのくだりは結構すごい重なりだなって思いました。

というのも、イタリアでみつ子は皐月の家を訪ねる。皐月は国際結婚で日本から移住し、妊娠している。みつ子は皐月ファミリーと共にクリスマスと新年を祝う。わたしの場合、ニューヨークで知人の家を訪ねた。彼女は国際結婚で日本から移住し、二人目を妊娠して臨月だった。ちょうどThanksgiving=感謝祭の日で、彼女の家族と夕飯を共にさせてもらった。え、めっちゃ近いじゃん。やった。みつ夫だ。


キャストのこと

まず、のんさん、とは今だに呼べず能年玲奈なのだわたしの中では。もしかすると能年ちゃんを映像作品でしっかり拝見したのは『あまちゃん』ぶりかもしれない。『この世界の片隅に(2016)』があったからそんな久しぶりには感じないけれど。

で、久しぶりの能年ちゃん。わりと奇抜なオシャレさんのイメージがあって、好きかと言われたら別に特別好きでもない感じだったんですが、本作のみつ子さんはかなり好きでしたね。あ、こんなに魅力的でいらっしゃいましたっけと驚きましてございます。わたし顔の好みより服装や髪型の好みのほうが比重大きいので、たぶん。

彼女の魅力を引き立たせているのが「多田くん」こと林遣都さん。彼は2017年の朝ドラ『べっぴんさん(芳根京子さんがヒロインのやつです)』のイメージが強いかなあ。今回の役どころはずばり「可愛い!」。なんなら女性陣抜いて一番可愛いかもしれない。多田くん。魅力的な青年でございました。

そしてそして、『架空OL日記』シリーズの「小峰様」こと臼田あさみさんですね! 出てるの知らなくて、給湯室で臼田様が登場したときの大勝利感。脳内小峰コールが鳴り止みませんでしたね。いや他にもいろいろ出てらっしゃるけどあたしとしては小峰様なのよ。今回の役も最高でした。でもカーターはねえわ。

そんなわけで『私をくいとめて』、とにかくいろいろ語りたくなる映画だってことくらいは伝わっていればよいです。

(2021年58本目/PrimeVideo)

私をくいとめて

私をくいとめて

  • メディア: Prime Video

*1:「実は、私、二人が共演していた朝ドラをちゃんと観ていないんです。(最新作『私をくいとめて』の大九明子監督インタビュー!「のんさんは職人気質の女優です」 | ガジェット通信 GetNews)」