韓国ドラマ「サイコだけど大丈夫」紹介&ネタバレ感想|心の傷と治癒の物語
Netflixで配信されている韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』を観ました。
ドラマの感想を書くときはいつも前後編に分けていたのですが、今回は一本にまとめます。前半はネタバレなしの作品紹介、後半はネタバレありの雑感となりますのでご注意ください。
まずこの『サイコだけど大丈夫』という作品、なかなか変わったタイトルです。でもじつは原題(사이코지만 괜찮아)の直訳なので、いわゆる変な邦題みたいなものではありません。
このタイトルを見て真っ先に連想したのが、同じく韓国の、パク・チャヌク監督の『サイボーグでも大丈夫(2006)』という映画でした。
こちらも原題は「싸이보그지만 괜찮아」。「사이코(サイコ)」と「싸이보그(サイボーグ)」以外は同じ。最後の「괜찮아」は日本人的にも馴染みのある「ケンチャナ=大丈夫」で、間を繋いでいる「지만」は「だけど」です。
ただ似てるだけなのかなと思っていたのですが、実際観てみるとタイトル以外にも共通点の多い作品で、主な舞台が精神病院であること、どちらも「心の病を治癒する」物語であること、ファンタジー要素があること等々、推測ではありますが無関係とは言えなさそう、多分にオマージュがあると考えてよさそうです。
さて、ではざっくりと物語のご紹介。主役級の人物は3人います。童話作家のコ・ムニョン。精神病院に勤める保護士ムン・ガンテと、その兄ムン・サンテ。
ソ・イェジさん演じる童話作家「ムニョン」は、常時バッキバキにおしゃれしたザ・美人。それでいてサイコパス的なマッドヒロインっぷりにまず掴まれました。ファッションを鎧にするタイプの女性キャラがわたしは大好物で、近年観たドラマから例えるなら『キリング・イヴ』のヴィラネル様(ジョディ・カマー)が近いでしょう。
キム・スヒョンさん演じる「ガンテ」の仕事は、日本だと作業療法士みたいな感じ、なのかな。甘いマスクの、いわゆる、じつにいわゆる、韓国ドラマに出てきそうな美青年。精神病棟で働いていますが、とある事情により引っ越し・転勤を繰り返していました。
その事情というのが、ASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ兄「サンテ」。ふたりは両親と死別しているため、ガンテは兄サンテの保護者として兄に全てを捧げるように生きています。そしてサンテが恐怖を覚える対象物「蝶」から逃げるという妙な理由で、春になると生活環境を毎年変えているのでした。
病院の童話朗読イベントでガンテと出会ったムニョンは彼に一目惚れ。「欲しい」の一点張りで強烈なアプローチをかけていきます。しかし常時「兄ファースト」で恋愛なぞ人生の選択肢にないガンテは頑なに拒否。「兄のせいで弟が手に入らない」という妙なトライアングルが出来上がります。序盤の展開としては、とりあえずこんな感じのラブコメなのですが……。
とにかくこのドラマ、一言では言い表せない不思議な作品です。まず「あ、なんかファンタジーなんだな」と思わせる第一話冒頭のクレイアニメ。童話のタイトルが付された各話。強烈なセックスアピールと強烈なブラコン。三歩進んで二歩下がるような牛歩展開。なんだなんだ。
「サイコだけど大丈夫」2話。おとぎ話的マッドヒロインもの、なのだろうか。少なくとも今のところはこのマッドヒロイン超好き。
— 353 (@threefivethree) 2021年4月19日
「サイコだけど大丈夫」6話まで。発達障害とトラウマとファンタジーとラブコメ全部入りでそれなりに成り立ってるのがすごい。https://t.co/oojvuFJa1Z
— 353 (@threefivethree) 2021年4月25日
「サイコだけど大丈夫」11話。つくづくセラピーみたいな、なんとも不思議なドラマだ。
— 353 (@threefivethree) 2021年5月9日
全16話中11話の時点でこれですからね。観続けてしまう魅力はあるけど、どんな話なのかはよくわからない。劇的な展開も、あるような、ないような。で、最終的な感想はこうなりました。
「サイコだけど大丈夫」完走。心の傷と治癒の物語、とてもよかった…。全身にセラピー浴びた気分…。
— 353 (@threefivethree) 2021年5月13日
心の傷と治癒の物語。さらに付け加えるならば「血縁の呪縛」も大きな要素。ちょっと脱線してしまいますが、奇しくも昨日最終回を迎えたばかりの朝ドラ『おちょやん』とすごく通じるところのある作品だったなと思いました。
朝ドラって観てない方は内容さっぱりでしょうけど、半年使うだけあってなかなか濃いところまでいくんです。『おちょやん』の場合は、毒親との決別、ヒロインの結婚そして離婚、養子縁組etc...。表向きは関西の喜劇役者をドタバタに描きつつ、じつは「人生」を、「人間」を生々しく描いている。そんな作品でした。
『サイコだけど大丈夫』も同様で、ベタベタのラブコメを観ているつもりが気付けばカウンセリングを受けていたというような、特に終盤は各々自分の気持ちや体験と重ね合わせてデトックスさせてくれる、セラピー的作品だと言えます。
誰しも少なからず何かを我慢しながら、何かに縛られながら生きているはず。漠然としたことしか言えませんが、ささくれ立った心を癒したい方にはぜひこのドラマ、おすすめしたいです。想像以上に、心の深いところまでほじくられてしまうかもしれません。
ここから先は自分が書きたいだけのネタバレ雑感。視聴前・視聴中の方はご覧にならないほうが楽しめると思います。ポスターの後すぐネタバレです。
ネタバレ雑感
とりあえず恒例のキャラ語りをしておきましょうか。
コ・ムニョン
好き。とにかくおしゃれ武装が好き。寝間着を持ってなさそうなとこも好き(なんかいっつも着替えずに寝てない?)。途中でばっさり切った髪も可愛くて好きなのだけど、サンテ氏が最後まで「長いほうがよかった」ってぶーたれてんの最高。
序盤で「城」のバルコニーから白ワンピのムニョンがガンテを見下ろしてるシーン。確実にこの作品は好きです、とあそこで確信。女性キャラ良ければ全て良し。わたしは基本的に女性キャラしか見ていない。
ガンテとのイチャコラよりもサンテ氏との絆のほうがいちいちグッときてた。『風と共に去りぬ』のスカーレットよろしく万人に辛辣なムニョンならではのコミュニケーションが、サンテとは特に相性が良かったように思う。
ムン・ガンテ
これまで観てきた韓国ドラマのなかではいちばん苦手な顔の主人公。だけど特別好きになる必要もないキャラクターなのでちょうどよかった。兄弟愛というのもわたしには全くわからないので、ムニョンの立場になれてよかった。
『秘密の森』のシモクしかり、ずっと感情を出さずにきたキャラクターの仮面が剥がれるシーンというのは一定のカタルシスがある。それも飛び越えて全く逆の人格になる終盤はすっかりギャグだったけど、嫌いじゃない。愛してる!愛してるんだ!愛してるんだってばチクショウ!!
韓国ドラマお決まりの「ぼんやり系主人公にオーダーメイドのスーツを着せてワックスつけると一転スーパーモデルになる」やつ、うける。『愛の不時着』のヒョクちゃん韓国編を思い出した。
ムン・サンテ
正直、ものすごく正直、最初は邪魔だなと思っていた。ムニョン目線とも言えるが、完全にわたし自身の偏見の話でもある。でもそれがいつしか、こんなに大切な存在になるなんて。
演じたオ・ジョンセさんも本当にすごい。健常者が障碍者を演じる例でいうと、『岬の兄妹(2018)』の和田光沙さん、『マザーレス・ブルックリン(2019)』のエドワード・ノートンなどを連想した。なおオ・ジョンセさんは名バイプレイヤーのようで、調べていたら「あれにも!これにも!」なフィルモグラフィーだった。
「兄だから」を根拠としてサンテは徐々に変わっていく。これはやはり上下関係を非常に重んじる儒教の国・韓国ならではの展開で、日本や他の国では成り立たない脚本かもしれない。
「親の呪い」はこの作品の大きな要素だけど、ガンテとサンテの関係、つまり何らかの「縛られている、と思い込んでいるもの」というのがじつは最も普遍的な感情移入先ではないかと思う。誰かのために、何かのために、自分はここにいないといけないんだ、自分はこれをしていないといけないんだ。それ、本当? わたしにはすごく響いた。
その他いろいろ
ジュリのほうがウニョンより顔としては好きである。チョン・ユミさんっぽいなと、ちょっと『保健教師アン・ウニョン』的ムードもあるなという第一印象。ただわたしは距離を詰められると退いてしまうタイプなのでガンテの気持ちも十分にわかる。
ジェス、一見ヒモみたいなのにすげえ金あるよな。
院長好き。キム・チャンワンさん、これまで他の作品でもお見かけしていたかなと調べたら案外初見だった。韓国映画・ドラマ界のおじさん名優はつくづく豊富である。ジュリ母もじつに韓国のオンマで好い。
師長、マジ師長。女優さんってすごいわ。全然わかんなかった。血の気が引いた。ここネタバレ雑感だけど口をつぐんでしまう。
サンサンイサンの代表、かわいい。嫌いになれない。aiko似のスンジェさんも可愛い。脇役として素晴らしい働き。ちなみにサンサンイサン(상상 이상)とは「想像以上」という意味だそうです。
あまりにも「悪縁」であることが見えてくる後半の展開は「逆に、できすぎ」感がなくもないが、もともと寓話性のあるテイストなのでそこまで気にならずに済んだ。完成した絵本にだいぶ泣いた。
蝶【psyche】がサイコパスから治癒に転じていく展開はとても好み。蝶から逃げるためのキャンピングカーで治癒されていく三人。最終話のロードムービーが単なるご都合展開ではなく本当に良かったねと泣き笑いの気持ちで温かく見れたのは、そこまでの積み重ねあってこそ。本当に、本当に良かったねと思った。
ひとまず、こんなところで。