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大林宣彦監督作品「あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜(1999)」感想|要素てんこ盛りの尾道ファンタジー

映画「あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜」ポスター大林宣彦監督1999年の作品『あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜』を観ました。

この作品は『ふたり(1991)』『あした(1995)』に続く「新・尾道三部作」の三作目となっています。もとの「尾道三部作」は言わずもがな『転校生(1982)』『時をかける少女(1983)』『さびしんぼう(1985)』の名作群。個人的にはこれで新旧・尾道三部作コンプリートです。めでたし。

原作は山中恒さんの小説『とんでろ じいちゃん』ですが、『転校生』も山中さんの小説が原作でしたから、新旧・尾道三部作は山中さんで始まり山中さんで終わったかたちなんですね。

ざっくりのお話はこうです。厚木拓郎さん演じる少年ボケタ(とは不名誉なあだ名で、本名は由太)は尾道に住むおじいちゃんの家で夏休みを過ごすことになりました。小林桂樹さん演じるおじいちゃんはそれはそれは厳格なことで知られています。でも最近どうもボケてきたんじゃないかと専らの噂。そこで忙しい息子夫婦に代わり、バイブスの合いそうなボケタが監視役として送り込まれたのでした。

到着早々から気難しいおじいちゃんに翻弄されるボケタでしたが、付き合わされているうちにいろいろと不思議な体験をします。淡い初恋からタイムスリップまで、大林映画要素てんこ盛りの尾道ファンタジーです。

「海辺の映画館」との共通点

高度経済成長期の波に呑まれ、古き良き姿が急速に失われていった(らしい)尾道中原中也が言うところの「文明開化と人云ふけれど野蛮開発と僕は呼びます」の精神で、大林監督は自身の古里・尾道の「野蛮開発」を批判。映画の中では常に「虚構の尾道」を描いてきました。

虚構のスタイルは作品によって様々ですが、本作で描かれる尾道は、監督の遺作となった『海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)』のそれと近いように感じました(『海辺の映画館』は久しぶりに尾道での撮影です)。特に防波堤の描写などは、あっこれ、と思い出される方多いのではと思います。

また、「〜じゃなぁよ」といった語尾が独特の「尾道弁」。こちらも『海辺の映画館』では団茂というキャラクターがコテコテに使い倒していますが、これまでの尾道作品ではあまり出てこなかった気がします。それが本作ではふんだんに用いられています。

「過去を変えられないタイムスリップ」という要素も『海辺の映画館』と非常に通じるところでしょう。過去を変えることはできない、しかし過去を知ることで未来を変えることができる。描かれる「過去」自体はかたや個人的、かたや歴史的なものでスケールには差があるものの、語っているのは全く同じことでした。

「花筐」

檀一雄さんの『花筐』は、大林監督が40年にわたる映画人生を通してずっとずっと映画化のチャンスを狙い続けてきた純文学作品です。2017年に悲願叶って『花筐/HANAGATAMI』として映画化されましたが、それ以前にも『女ざかり(1994)』劇中でうやうやしく朗読されたりしていました。

本作では唐突に『花筐』要素が顔を出します。死に至る病を患った薄幸の美少女が丸い小窓から文字通り「顔を出す」というシーンです。あっ、こんなところで花筐やってたんだ!! とわたしなどは嬉しくなってしまいましたが、その美少女役に抜擢されたのがなんと、これが映画デビューとなる宮崎あおいさん。当時13歳だかそこらの宮崎あおいさんが、思いっきり大林ワールドに放り込まれております。必見です。

厚木拓郎さん

1998年公開の自伝的映画『マヌケ先生』から引き続き、幼少時の厚木拓郎さんが少年主人公として大活躍しています。これがめちゃくちゃ可愛くて、男の子の一番可愛い時期をパッケージングできているのでは?という感じがします。

厚木拓郎さんはこの頃から大林組超常連となり、遺作『海辺の映画館』でも主演のひとりを務めました。すごいなとはこれまでも思っていましたが、本作を観てその気持ちはさらに強まることに。大林宣彦的自己投影型主人公像として、尾美としのりさん、林泰文さん、そして厚木拓郎さんという連綿たる流れがあるのは間違いありません。

ただ尾美さんは思春期以上の役柄からスタートしているので、どちらかというと林泰文さんに近いのかな。『野ゆき山ゆき海べゆき(1986)』の、俗に言う「おねショタ」なやつをそのまんまやってますね。また勝野雅奈恵さん演じる、なんですかあのけしからん裸ワイシャツなおねいさんは。まったく前時代的なと言いたくもなるけれど実際前時代なのだから目をつぶり、指の隙間からガン見してしまうような魅力。つくづくああいうのが、上手いですねえ……。

DVD収録のディレクターズ・トーク(大林監督がひとりでとくとくと自作を語ってくれる)や書籍『全自作を語る』などで予備知識を仕入れるとよりおもしろい作品であり、わたしとしてもまだまだ語りたいことはありますがキリがないし、何より打つのが面倒になってきたのでここらで終わりとしておきます。

(2021年105本目/TSUTAYA DISCAS