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大林宣彦監督作品「さびしんぼう(1985)」雑感

大林宣彦監督の訃報を受け、遅ればせながらの履修中です。「尾道三部作」と呼ばれる3作品から、『転校生(1982)*1』『時をかける少女(1983)』に次ぐ3作目さびしんぼうを観ました。

変な映画、みたいな感想を多く見かけたので(それを言ったら多分どれも…ですが)さほど期待せず観たところ、これが個人的にはど真ん中ストライクでございました。これめちゃくちゃ、好き…。つくづく観てみないとわからないものです。

あらすじ

健康なる男子高校生のヒロキ尾美としのりは、今日も元気に女子校の覗き見をしていた。望遠レンズ付きのカメラが彼の相棒。ただし金欠でフィルムが買えないため、その場限りのお楽しみである。

彼がファインダー越しに毎日追いかけている女の子富田靖子は、放課後になると必ず教室のピアノを弾いていた。音は聴こえずとも、それがショパンの「別れの曲」であることは分かった。ヒロキも母の無理強いで同じ曲を練習させられていたのだ。

ヒロキは名も知らぬその子に「さびしんぼう」という呼び名をつけた。ある日、自分の部屋でいたずらにカメラを覗き込むと、白塗りの奇妙な女の子富田靖子が突然フレームインしてきた。ぎょっとするヒロキに彼女は「さびしんぼう」を名乗る。

雑感

ファインダー越しに尾道の街と物語の設定を尾美としのりが紹介・説明してくれるアバンタイトルからして掴みが良く、そのスピーディーな導入に「これは好きだ」と確信。『HOUSE/ハウス(1977)』も導入に惚れ惚れしたものです。冒頭数分で相性の良さを判断できる映画に出会うと嬉しくなります。

前半はかなり軽いタッチで主人公ら高校生の日常が描かれていきます。いまのところ大林作品に出てくる若者はみんな明るく素直で元気。殻に閉じこもった扱いづらい思春期どもとして描かれるよりは見ていて気持ちがいいです。『時をかける少女』でも十分に快活でしたが、本作はよりコメディタッチ。『HOUSE/ハウス』路線のお色気ギャグには思わず苦笑い。

尾道三部作」全てで主演している尾美としのりは、なんていうか本当にいい子! 人好きがする、とはこういうことを言うのだなと思います。『時かけ』では醤油屋の跡取り、本作では寺の跡取りとして登場しますが、テキトーな男子でありながら家のことはちゃんと真面目にこなす彼に毎作品惚れてしまいます。若かりし尾美さん、すっかりファンになってしまいました。

前半のパートで特に好きなのは、理科室で鍋を囲んでいるところ。ピンセットで食べるすき焼きの美味そうなこと…。よくあんな絶妙に心地良いシチュエーションを思い付きますね。『時かけ』に引き続き登場の岸部一徳先生が、これまたいいキャラで。涙袋ぼってりで強面寄りな近年のお姿しか存じ上げませんでしたが、岸部さんもやはり若い頃とっても魅力的。ほどほどに古めの日本映画を観る楽しみですね。後半で少しだけ登場する樹木希林さんもお肌つやつやで可愛かった!(小林聡美さんとの「親子」がそっくりで笑える)

さて、そんななか「さびしんぼう」です。富田靖子さんが二役を演じるこのヒロイン。片方はヒロキのマドンナ、もう片方は正体不明の白塗りピエロ。正直なところ「ピエロのような格好をした謎の少女が現れて…」なんてあらすじを読む限りではあんまり観る気が起こらないというか、またヘンテコな作品なのね…というイメージしか持てなかったのですが、これがどっこい、言い得ぬ魅力に溢れた「さびしんぼう」でした。

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白塗りの顔にオーバーオール、常に同じ格好で登場するこの子。主人公にしか見えない幻なのかと思いきや物理的に存在していてみんなにも見えるという不思議な設定。しかも登場からほどなくしてこの子が「若かりし母親」であるということが暗黙の了解になってしまうのですが(藤田弓子さん演じる母親もまた素晴らしい)、そこはあまり深く考えず、普通にほろ苦い恋物語として見れてしまうのがおもしろいところです。

ピエロのようなメイクも、これは富田靖子さんのお顔がきっと芸者さんメイクとかでも映えるということなのでしょう、思っていたより遥かに魅力的なビジュアルとして映ります。ヒロイン足り得ます。ここが大きい。この「さびしんぼう」を魅力的に感じられないとお話が成立しないんですけど、意外やすごい魅力的ですからね。

文字通りピエロ的存在として画面を賑やかす彼女ですが、終盤に向け影を帯びていき、クライマックスの雨のシーンはもはや涙なしには見られません。特に、黒いアイメイクが「黒い涙」を流す瞬間、あれは狙って撮れるものではないように思います。奇跡の瞬間なんじゃないでしょうか。

対する、同じく富田靖子さん演じるもうひとりの「さびしんぼう」。こちらは一転、超正統派の美少女として撮られており、全男子が恋に落ちそうな勢いです。

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個人的な好みで『時かけ』の原田知世さんは「美少女」としては満足度低めだったので、本作でのこの圧倒的美少女っぷりに大林監督の名誉挽回といいますか、すげえな!!!!!といたく感動いたしました。正統派と白塗りピエロ、どちらでも魅力的な富田靖子さんもすごい!

こちらの「さびしんぼう」はいろいろ複雑な事情があるようで、「どうか、こっちの顔だけ見ていて。反対側の顔は見ないでください。」という台詞が心に残りました。この「顔の向き」っていうのがちゃんと最初から繋がる伏線になっているのも丁寧でよかったです。その前のシーンでヒロキが父親から「お父さんはお母さんの全部を好きになったんだ」というようなことを言われているのがまた深みを持たせています。

全編通して使われるテーマ曲、ショパンの「別れの曲」。ただの劇伴を超えて、ショパンの人生などもストーリーに絡めてきているのがこちらもやはり丁寧でいいなと思いました。また、ピアノを弾く音や鼻歌に劇伴が寄り添ってくる「音の演出」は『HOUSE/ハウス』や『時かけ』でも見られました。結構手間のかかる手法だと思われるので、『時かけ』のエンドロールしかり、大林監督がかなり音楽と映像のマッチングにこだわる方なんだなあというのがよくわかります。

最近だと岩井俊二監督作品『ラストレター(2020)』の予告に使われていた印象が強い「別れの曲」ですが、あれもヒロインが一人二〜三役の少し不思議な作品でしたね。あの映画に「岩井俊二ほどロマンティックな作家を僕は知らない」とメッセージを寄せていた新海誠監督の『君の名は。(2016)』は『転校生』の流れにあるといいますし、このあたりの作家たちは密接に繋がっているんだろうなという気がします。

そんなところで、この『さびしんぼう』はもしかしたら今後さらに大林作品を観ていったとしても不動のトップに君臨し続けるのではないかというぐらいフィットする映画、記憶に深く残りそうな映画でした。

(2020年60本目/U-NEXT)

さびしんぼう

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さびしんぼう[東宝DVD名作セレクション]

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  • 発売日: 2015/02/18
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スケバン刑事みたいなジャケットに惑わされず、ぜひお試しください。

*1:やはりこれ、観る手段が全然ないんですね。TSUTAYA DISCASにすらないとは。WOWOWあたりで放送してくれることを期待してます。1作目を見れないのは気持ちが悪い(笑)