台湾映画「1秒先の彼女(2020)」感想|ただのラブコメでは全くない、超映画的バスロマンス・ファンタジー
現在公開中の台湾映画『1秒先の彼女』を観ました。とてもおもしろい映画だったので気になっている方はぜひこの記事なぞ読まずに観に行っていただければと思います。
何をするにもワンテンポ早い彼女とワンテンポ遅い彼のラブコメ、といった感じで宣伝されている本作ですが、観賞後の印象としてはあんまりこれ、要素としては大きくない気がしました。蓋を開けての意外性という意味ではもちろん効果的なミスリードとなっており、わたしも「思ってたのと違った」ことに大層クラクラさせられましたが、それ以前にスルーしちゃう人が多そうでちょっと勿体無いかも。
では実際どんな映画なのか、超ざっくり言うならば「ファンタジー」ですね。SFとまではいかないけれどかなりファンタジー。テイストとしては、これもスルーされがちだった作品で例としては不適当かもしれませんが『おらおらでひとりいぐも(2020)』の突飛なファンタジー感を個人的には強く連想しました。あの作品が好きな方なら絶対好きなタイプのやつです。
または、ウディ・アレンの大ヒット作『ミッドナイト・イン・パリ(2011)』。ロマンスとファンタジーの混ざり具合がすごく近いと思います。あれを観てうわ〜めっちゃいい映画観たな〜って思った方にはおすすめです。こちらもウディ・アレンの名前が今や逆効果かもしれませんが(久しぶりに思い出してモヤモヤしたのでこの本をポチってみました)。
まあともあれどんなファンタジーなのかというと、ずばり「消えた一日」のお話。台湾では旧暦の七夕(今年は8月14日だそう)がバレンタインとされているらしいんですが、「気付いたらバレンタインデーが消えちゃってたの! 私のバレンタインどこ?!」と主人公シャオチーが大混乱するところから物語は始まります。なんのこっちゃですよね。そのなんのこっちゃを究明する映画です。
せっかく捕まえたいい男といい関係になりかけていたシャオチーは、デートをするはずだった大切な日が消滅してしまい大迷惑。必死で真相究明に奔走します。するとそれまでノーマークだった方面で謎がどんどん膨らんでいくことに。「消えた一日」、私は一体どこで何をやっていたのだ? この謎解き過程が観ていてかなりわくわくさせられました。
後半では「消えた一日」に深く関わる別視点から同じ日々がリプレイされていきます。ここでもまた非常に「映画的」な演出が炸裂! すごいな、どうやってるんだろう、っていう部分と、涙ぐましいマンパワーが見え隠れする部分と、どちらもとにかく無駄に楽しくて好きです。ああ、こういうのが映画だよなあ。
ただ、この別視点は「いい話」である一方で、かなり「キモい話」でもあるんですよね。アウトぎりぎりっていうか、人によっては嫌悪のほうが勝るかもしれません。あいつ、そもそも大人としてだいぶダメだもの。整理券取りすぎなのも、職務怠慢&放棄も、常習的な盗撮行為も。そんないい展開にはならんじゃろ、とわたし的には思いますが。はい。
でもそういうツッコミどころに目をつぶってあげたくなるくらいの映画的腕力はある作品です。特に、さっきも書きましたけどヒロインのシャオチーが真相究明に奔走するあたりは、映画でこんなわくわくしたの久々!っていう、唸るほどのおもしろさがありました。ぜひ予備知識控えめで初見を楽しんでいただきたいです。
はみ出し雑感(ネタバレ要素強め)
「バス」とファンタジーって相性いいですよね。もっとバス推しでもいいのに!なんて思っちゃいますが、でもバス要素すら知らずに観たからこその嬉しい意外性ってのもあったしな、難しいなー。
それ以外にも「鍵」「私書箱」「手紙」「写真」といったアナログなキーアイテムがわくわく感をより強めてくれておりました。あとラジオね。窓の外に出てくるわりには電話出演の時しっかり「音量下げてね」って言ってくれるとか、リアリティラインの揺らぎが好き。
シャオチー役のリー・ペイユーさん(英語名パティ・リーさん)。予告の時点で「また上白石萌音さん似の人でた!!」って思ってたんですけど(また=韓国の超人気女優パク・シネさんも似ているのだ)、やっぱり所々すごく似てました。目ですな。すぐ白目剥きの変顔するのも愛らしい。でも静止してると普通に美人なの。他の役も見てみたいな。
「アッオー」が口癖の隣のかわい子ちゃんも好き。こちらはむしろ日本人顔で、あれですよ、『架空OL日記』のサエちゃんだ。ああいう感じだ。郵便局だから連想しちゃうってのもあるけど。
SNSでお母さんと繋がっちゃってたことが判明した際のシャオチーの反応とその後の切り替えがすごく素敵だと思います。わたしもあのようでありたい。無理。
台湾の文化って馴染みのないものが多くて、ああ全然違う国だなと思わされるのだけど、でもあの男(ダンスマン)が持ってきた弁当の中身はかなり日本っぽくて親近感。同じところは同じなんだなあ。
バス車内での乱闘シーンで『Mr.ノーバディ(2021)』的展開を期待した方は挙手お願いします。
消えた一日の行方よりも、100元だかで強引に借りてきたおばあちゃんのスクーターをちゃんと返したのかどうかだけが非常に気になっています。
語り甲斐のある楽しい映画だった感がはみ出し雑感からもはみ出ておりますね。スルーしなくてよかったです。
(2021年108本目/劇場鑑賞)