大林宣彦監督作品「女ざかり(1994)」雑感
大林作品履修期間、00年代に突入したところですがまたちょっと戻って、1994年公開の『女ざかり』を観ました。こちら、なんと(?)主演は吉永小百合さん! 吉永さんと大林監督の食べ合わせはどんな感じなのでしょうか。
あらすじ
新聞社に勤める弓子(吉永小百合)は、このたび家庭部から論説委員へと異例の出世をした。斬新な切り口で意気揚々と社説デビューする弓子だったが、その内容が早くも彼女の立場を揺るがすことになる。
雑感
新聞を広げながらもぐもぐと朝食を口に運ぶ弓子。すっかりインクの出なくなったラインマーカーで気になった記事をキュキュッと囲む。その後ろで何やら詩めいた台詞*1を独演する娘。怪訝な顔つきの弓子がようやく声を発する。「何それ気持ち悪い!」。
もうこれだけで、ははは、と太鼓判押してしまいたくなる秀逸な冒頭シーンです。タイトルからは想像もつかないような予想外をもたらしてくれるのがやはり大林作品の一番の魅力ですね。
本作は大林監督にしては珍しく(たぶん)、登場人物の平均年齢がかなり高い映画です。定年間際のおっさんたちの会話劇を眺めたり、そこに咲く一点の花、百合子さまを拝んだりと、そんな感じで楽しみました。弓子が最初に書く論説はフェミニズム的内容なので、なんかそういう展開なのかなと思いましたが必ずしもそうではなく、気づけば妙な夢みたいな空間に飛ばされてたり、社会派ホラーみたいなことになったり、戸惑いタイムを経てまた新聞社のデスクに戻ってきて謎の安堵を感じたりと、やや変化球ながらまあ、安定の大林映画でした。
記憶が正しければわたし吉永小百合さんの主演映画を観るのってこれが初めて。絶対に代表作ではないだろうという確信はありますが、しかしこの一本でも吉永さんめちゃくちゃ魅力的で、ミスチョイスという気は全然していません。まるで悪びれることなく愛人(津川雅彦)と10年間も関係を持ってたり、ぞっこん惚れてくる同僚のおっさん(三國連太郎)のアタックをさらりとかわしたり、死期の迫る元亭主を放置してたりと、善良なる吉永小百合像とのギャップがとてもよいです。ひわいなぞうさん歌ってくれるし。
藤谷美紀さん演じる弓子の娘も、すごく好きな役どころ。日常パートから謎ホラーパートまでナイス助演でした。年代的にそれはないと思いつつも、貫地谷しほりさんとよく似ていて不思議な気分に。(ちなみにセクハラホラーパートにて特殊メイクで出演の片岡鶴太郎さん、ありゃ気づかないわ。おまけにそのシーンはせっかく風間杜夫さんとの「異人」共演だというのに)
岸部一徳さんがようやくわたしの知ってるワルい感じになってきたなあとか(政治家、似合いますねえ)、どんなチョイ役でも根岸季衣さん出てくると嬉しくなっちゃうなあとか、尾美さん見逃したわ……とか、とにかく豪華キャスト+おなじみの面々で飽きさせません。慣れてきた頃に観る大林作品のひとつとして、新鮮に楽しめる一本でした。あと、本作を観た人は東郷平八郎が四男であることを学びます。
(2020年80本目/U-NEXT)
女ざかりは19だとあなたが言ったのよ、という歌詞が真っ先に出てきてしまうわたしです。*1:後日追記: 鑑賞当時は知りませんでしたが、ここで朗読しているのは檀一雄さんの純文学『花筐』の一節。のちに大林監督が『花筐/HANAGATAMI(2017)』として映画化する作品です。