京都国際映画祭2020の大林宣彦監督特集を観た①【テレビコマーシャル傑作選、ミュージックビデオなど】
2020年10月15〜18日にオンライン開催された「京都国際映画祭2020」にて、『大林宣彦の玉手箱─ワンダーランドな空想映画館─』という大林宣彦監督特集が組まれていました。監督のご息女・大林千茱萸さん直々にプロデュースされたこの企画は驚くほどレアな映像の宝庫で、まさに「他では絶対に観れないような大林作品特集」となっていました。
今回、どうにか時間を作ってその全作品(未見作のみ)を観ることができましたので、ひとつずつ感想などを書いていきたいと思います。残念ながら会期を過ぎた現在は観ることのできない作品だらけではあるのですが、いつかまた観れる日が来ることを願って…!
目次
- 大林宣彦「テレビコマーシャル」傑作選
- てのひらの中で、乾杯! キリンビールのできるまで
- 四月の魚 Poisson D'avril/music video
- 香織の、──わたしものがたり。
- 嘘つき。THE MOVIE
大林宣彦「テレビコマーシャル」傑作選
商業映画デビュー以前はCM作家として名を馳せていた大林監督。現在のテレビコマーシャルのかたちを作ったのは大林監督だと言われています。「大林映画はCM調だ」との揶揄に対し「CMが大林調なのだ」と返したのは有名な逸話です。
今回のために編集(解説より転載:“実はこれらコマーシャルの配信は本プログラム最大の難関(!)であったが、各社より「大林さんのためなら!」と御快諾戴き、本映画祭の期間のみ特別配信が可能になりました。”)された約15分の傑作選には、1965年製作のCMデビュー作「SEIKO ジュエルホワイト」を筆頭に、21本が収録。チャールズ・ブロンソンを起用した代表作「マンダム」はもちろん、大林監督の撮ったカトリーヌ・ドヌーヴなども観ることができました。
てのひらの中で、乾杯! キリンビールのできるまで(1969)
解説を転載すると「1970年当時、キリンビールの工場を訪れた見学者に向けてのみ上映されていたという、たいへん珍しい企業PR映画」。約23分。前半ではビールの歴史がシュールに紹介され(遺作『海辺の映画館』冒頭の協力会社紹介によく似ている、とふと気付く……)、後半ではビールの製造ラインをやはりシュールな、今度はミュージカル調に紹介(やはり『海辺の映画館』的なのでは……)していく内容です。
後半のミュージカル調というのは専門用語や説明文にとにかく強引な節をつけて歌うもので、いわゆる「CMソング」のはしりと言えるかもしれません。キューピーのたらこのCMソングを彷彿とさせるような中毒性のある珍品でした。徐根機!ジョコーンキ!が忘れられません。
四月の魚 Poisson D'avril/music video [ア・フラグメント/高橋幸宏](1986)
「1984年~1985年に制作された高橋幸宏の5本のミュージック・ビデオ集」より、高橋幸宏さん主演の大林監督1986年作品『四月の魚 Poisson D'avril』の主題歌である同名曲のミュージックビデオ。映画のために作られたプロモーションビデオとしては日本初と言われているそうです。内容は、撮り下ろしの歌唱シーンと映画のメイキングシーンを混ぜたもの。
映画『四月の魚』については次の記事で書きます。
香織の、──わたしものがたり。(1988)
80年代アイドル坂上香織さん(当時14才)の、2曲からなるミュージックビデオをショートムービーに仕立てたもの。セーラー服の少女、尾道の風景、実験的な合成などなど大林作品定番の要素がどんどん出てきておもしろいです。『さびしんぼう(1985)』的な「おーい、おーい、わ・た・し」なんていう台詞も。
劇中で坂上香織さんはセーラー服以外にもいろんな格好をさせられるのですが、座敷わらし風のおかっぱルックをさせられているときがあって、これがまたやはり『海辺の映画館』を思わせるなと……。他の作品であんまりこの髪型やメイク、見ない気がするんですよね。ここにきての繋がりがエグいです。
この作品については、ユリイカの大林宣彦総特集号p256〜に細かい解説があります。
嘘つき。THE MOVIE(2006)
CANCION(カンシオン)という、まあ“ゆず”的なデュオのミュージックビデオ。曲名が「嘘つき」なのをいいことに、「マコトのことはウソじゃなきゃ伝わらない」など完全に大林作品のテーマがむき出しになっています。舞台もやはり尾道で、歌詞に「二人」と出てくるところで『ふたり(1991)』の坂が出てくるなど、聖地巡礼ばりの大盤振る舞いです。こういうのを見ると、尾道自体が大林映画のオープンセットであるというのは確かだなと思います。
また、別記事で書く『この空の花 長岡花火物語(2012)』のドキュメントを観ていて非常に驚いたのですが、ミュージックビデオ冒頭に出てくる特徴的な窓の部屋、どうやら尾道にある監督の編集室だったらしいという。マニア的にはなかなか隅に置けぬ一本です。
次の記事では、映画作品3本について書きます。