吉田修一さんの同名小説を原作とした映画『横道世之介』を観ました。監督は『おらおらでひとりいぐも(2020)』の沖田修一さん、だったのか、と今知る。
横道世之介、「よこみち・よのすけ」と読みますが、これライムスター宇多丸さんの映画評や映画話に頻出するタイトルだったので、そんなしょっちゅう引き合いに出すものかと未見ではありながら宇多丸チルドレン的にずっと気になっていたのです。
ただなんか、時代劇みたいな響きなもんで、時代劇なのかと思い込んでいて。実際は全く違うんですけど。また意外と配信がなかったりして、TSUTAYA DISCASのセールに合わせてようやくの鑑賞となりました(今見たらU-NEXTにあるではないか。最近かな……?)。
で、まあ、膨らんだ期待を裏切らぬ、めちゃくちゃいい映画でした。はい。
ずっと観たかった「横道世之介」をようやく観て、余韻くらって死んでる。よ、よすぎる。吉高由里子ベストアクト……。 pic.twitter.com/XrurgbiZqJ
— 353 (@threefivethree) 2021年7月7日
ざっくり紹介しておくと、高良健吾さん演じる主人公・横道世之介が長崎から上京、大学に入ったところから物語は始まります。友達を作りサークルに入りバイトをし、惚れた腫れたヤったヤらないのありふれたキャンパスライフを送る与之助ですが、ダブルデートで出会った生粋のお嬢様・祥子からぞっこん惚れられてしまいます。当初は戸惑っていた世之介、しかし──といったお話。
主な舞台は1987年。映像がとてもよくできていて、2013年の作品だけど、高良健吾さんが出てるけど、もしかしてほんとに80年代の作品かも?と思ってしまうような、嘘っぽくないレトロ感にまず魅了されます。
ただ正直よくある青春群像劇という感じで、しばらくは特別惹かれるものもないまま観ていくことになるんですが、45分ほど経過したところで衝撃的、電撃的、青天の霹靂な出会いが発生。吉高由里子さん演じる生粋のお嬢様・祥子の登場です。んまあ!もう!この祥子さんが!……最高。
お抱え運転手、白いワンピースにつばの広い帽子、黒のロングヘアーに白い肌、そして第一声「ごきげんよう」。極端にコミカライズされた「ですの調」お嬢様。しかしそれを吉高由里子さんが演じることによる、一周回って嘘臭さも嫌味も一点の曇りもない正真正銘お嬢様像。もはや他のキャストが思いつかないくらいハマっており、とりあえずここでは「吉高由里子のベストアクト」と断言してしまいましょう。
祥子さんはとにかく掴みから最高で、横道世之介ですと名乗った世之介に対し「すてきなお名前! 韻を踏んでらっしゃるのね!」と返すところで120点満点。世之介より先にわたしが落ちました。なんだろうなこの、ヒロインはこの人しかいないと思わせる絶対的な陽オーラ。すごいキャラです。
そこからの展開は、感想としてはいちいち書くのも野暮なくらい胸ときめくものだったし、紹介としても「まあ観てくださいよ」で済ませてしまいたいし、ほんといい映画でしたよね、未見の方はぜひご覧になってみてください。吉高由里子ベストアクトをご堪能ください。
以下、こまい感想を箇条書きで。一応ネタバレは控えめです。
高良健吾さんはとことんバキッとしたお顔立ちを逆手に取った「残念なイケメン」的キャラクターが本当にハマる! 今も大河ドラマ『青天を衝け』で吉沢亮さん演じる渋沢栄一の片割れ・成一郎を好演しておられますが、やっぱりどこか三枚目な要素のある、心の綺麗な青年という感じで。大好きな役者さんです。
少ない出番ながら印象的だったのは綾野剛さん。学生時代もいいのですが、なんといっても時が経ってからの綾野剛さんがですね、美人!! めちゃくちゃ美人!! 美男子とか美形じゃないんですよ、美人!! ありゃたまらんですなと思いました。すばらしき。
池松壮亮さん演じる憎めないダメ友の、「俺はこれから会ったその日に呼び捨てにしようって高校の卒業式で思ったんだ。そのほうが早く仲良くなれるだろ?」「高校三年間、全ての女子をさん付けで呼んだ反省からだ」という大学デビューっぷりがすごく好きです。
ボートピープルや、終盤の展開に関わるとある事件など社会問題がさりげなく織り込まれているあたりには、韓国映画的なものを感じました。ボートピープルのことなんて全然知らなかったな。
吉高由里子さんは学生時代の祥子さんだけでも「すごい役者だ!」と感服するに十分ですが、現代パートがあることで「本当にすごい役者さんだったんだ……」と驚愕させられてしまいました。あの振り幅。いや、未見の方がおられたら一応フォローしておきたいのは悪い振り幅ではないんですけども、まあ成長ということですよね。すごいよ役者さん。あの祥子さんがあそこまで変わるかな、とも思うけど(笑)
中盤、意外なかたちで明かされる「とある事実」。背筋がピリッとする、二度目の「青天の霹靂」とも言うべき展開。あそこと一番最後でしかその事実は語られないわけですけど、あの瞬間トイレに行っていた人、タイミング的に結構いそうだな(わりと長い映画ですし)。35歳。ちょうど今のわたしの年齢。いろいろ考えてしまいました。
最後のカメラ描写も丁寧ですごく良かった。一枚目は白飛び、二枚目は適正露出。ちゃんとその過程を描いてる! あの吉高さん撮りたいなあ。あんな写真撮れたら一生ものだな。
最近の映画だと『佐々木、イン、マイマイン(2020)』と『街の上で(2021)』を足して割ったような味わいの作品という感じがします。特に笑いの要素が『街の上で』っぽい! これは映画館で笑いたかった!
などなど。観賞後数日経ってから書いていますが、どんどん思い出してきて、ああ、いい映画だったなあ。最近ドキュメンタリーを多く観ていて、ノンフィクションで揺り動かされるのもいいけれど、フィクションで揺り動かされるのもやっぱりいいなあと思いました。
(2021年104本目/TSUTAYA DISCAS)