大林宣彦監督作品「時をかける少女(1983)」雑感
『HOUSE/ハウス(1977)』に引き続き、訃報を受けての大林宣彦作品履修をしています。今回は超有名タイトル『時をかける少女』。「尾道三部作」と呼ばれる三作品の二作目ということで、本当は一作目の『転校生』から観たかったのですがどこも配信がない…。こういうとき、近所にレンタル屋さんがなくなってしまったのは痛い。
『時かけ』のお話自体は細田守監督のアニメ版で知っているつもりでしたが、だいぶ違う印象の作品でした。というか、まっとうな映画と見せかけて、ところどころクセが強い(笑) まだ『HOUSE/ハウス』しか観ていないけれど大林監督の「作風」は把握した気がします。たぶん。
あらすじ
高校生の芳山和子(原田知世)は快活な女の子だが、あるとき理科実験室で気を失って以降、少し変になっていた。時間の感覚がおかしいし、時には同じ一日を繰り返しているように思えることもあった。幼馴染の同級生に相談すると、それは「タイムリープ」の能力ではないか、と言う。
雑感
クセはいきなり冒頭から強くて、まず最初に見せられるのが正方形寄りアスペクト比のチープな白黒映像。スキー場のシーンらしいけど、ゲレンデというよりは月面着陸の映像みたい。ここからあの『時かけ』が始まるのか…??
スキー場のシーンが終わり、『HOUSE/ハウス』でもあったような和気藹々の列車に揺られての帰路。ここでは部分的にカラーだったり、まだ白黒のところもあったり。パートカラーというわけでもなくて、目がおかしくなったかな…?という感じの、なんとも独特の技法。タイトルバックの頃にはすっかり色付き、いつの間にかアスペクト比も見慣れた横幅に。
本編の映像は基本的にとても美しく、日本映画の名作を観ている気持ちになれる、のですが、その映像美の中で妙なことが起きるSF感。例えば、ヒロインの和子が寝起きに時計を見たら「9:87」と表示されている、とか。突然ティーカップに熱々の紅茶が満ちている、とか。好き。
奇妙な演出もいろいろあって、どう見てもポルターガイストなホラー描写がじつは地震、とか。幼少期の綺麗な思い出のはずが、なぜか吸血鬼みたいなオカルト描写になってたりとか。
タイムリープのシーンになると今度はあからさまにチープな合成映像(“作風”を強く感じる)が多用され、さらには悪夢のような光景を見せられて。いくらなんでも暗すぎでしょ?!な現実に唖然。細田版にはこんな暗い現実は、なかったよなあ…。記憶曖昧だけど。めっちゃ泣いた記憶はあるけど。ちなみに何度か名前を出している「細田守監督のアニメ版」はこちらです。
ていうか、アニメ版ヒロインの叔母さんは「芳山和子」だったのか…。あらすじを読んでいて初めて知る。久々に観てみたらおもしろそうです。それと、2010年の仲里依紗バージョンは和子の娘がヒロインのようで。しかも評価が良さげ。仲里依紗好きなので観てみたくなりました。
83年版ヒロインの原田知世は今の目で見るとだいぶ野暮ったいんですが、当時から時代錯誤な(古風な、という解釈でいいのだろうか)ヒロインとして演出していたっぽいのでそう思うのが正解なのかも。わたしの好み的にはやや乗り切れず。ただし最後の、11年後の姿。あれは別。できるんじゃん!!全編それで見たかったわ!!
ジュディ・ガーランドと原田知世
和子の部屋にはジュディ・ガーランドのイラストが飾ってあって、さらには『オズの魔法使(1939)』のポスターも貼ってありました。そういえばあれは結局なんだったのかな、別に和子自身は女優を志しているとかジュディのファンとかではなさそうだけど、と後から調べてみたところ、思わずぎゃーと叫んでしまうような「共通点」を書いている方が。
それはずばり、「白黒からカラーになる」。ぎゃー。ほんとだ……。もうちょっと自分で考えて自分で気付きたかった……。『オズ〜』をリコメンドするとき必ずアピールするポイントがそこなのに……。
一応改めて書くと、前述の通り、オープニングで白黒の画面から徐々に色付いていくという演出をこの『時をかける少女』はしているわけです。そして『オズの魔法使』も同じく、白黒(セピア調)の画面から始まって、ジュディ・ガーランド演じる少女ドロシーが部屋のドアを開けるとフルカラーの世界がそこに広がるという演出があるのです。確かにこれは、オマージュに違いない!
となると「ドア」も共通点ですね。本作でも「理科実験室のドアを開ける」ことから物語が展開していくわけで、キーアイテムなんですよね。
また、大林監督が原田知世にジュディ・ガーランドを重ねていた、という記事もありました。「結局なんだったのか」の答えとしてはこれなのでしょう。ここには書かれてませんが、ジュディがドロシーを演じたのは16歳、原田知世が芳山和子を演じたのも16歳、そんな共通点もあるみたいです。
大林監督は原田を見いだした当時、米映画「オズの魔法使い」で鮮烈なデビューを飾ったジュディ・ガーランドに例えて将来性に太鼓判を押していたという。(大林宣彦監督「また青春ものをやろう」新作構想語っていた 盟友・角川春樹氏明かす : スポーツ報知)
さらに言うと、その年齢で歌った曲が自身最大のヒット曲になる(「虹の彼方に」と「時をかける少女」)のも共通点。本作のエンドロール、素晴らしかった…。本編撮影時にMV用の映像も撮り溜めていく、という計画的なスタイルでのエンドロールは真っ先に『メリーに首ったけ(1998)』を連想しましたが、あっちのほうが後か!と驚き。わたしこういうカーテンコールっぽいの弱いんです。泣いてしまうんです。終わり良ければすべて良し。
(2020年55本目/U-NEXT)
【追記】後日、観直してみると……
「終わり良ければすべて良し」だった感想が「すべて良し」に、驚くほど変わったという話。ヒッチコック映画『めまい(1958)』からの流れで書いています。