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主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「花筐/HANAGATAMI(2017)」原作も読んでの雑感

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大林作品集中履修、ついに劇場公開済の最新作まで辿り着きました。2017年作品『花筐/HANAGATAMI』。出演は窪塚俊介矢作穂香常盤貴子満島真之介長塚圭史山崎紘菜門脇麦、村田雄浩、柄本時生ほか、といった相変わらずの豪華キャストでございます。

概要と製作の背景

檀一雄の同名短編小説を原作とした作品。佐賀県唐津市を舞台に、太平洋戦争前夜1941年の若者たちを描く。大林監督が長編映画デビュー作の『HOUSE/ハウス(1977)』以前から構想していた作品であり、40年前の時点で映画化の許可も取得済みだったが製作には至らなかった。念願叶った2016年夏のクランクインを前に、監督は肺がんで余命半年ないしは3ヶ月という宣告を受ける。

雑感

前々作『この空の花 長岡花火物語(2012)』、前作『野のなななのか(2014)』と合わせて「戦争三部作」という呼ばれ方をされることもある本作(「尾道三部作」同様、監督本人による呼び方ではない模様)。この所謂「三部作」はともに3時間弱の長尺で、もとより戦争のことを織り込んできた大林映画のなかでもひときわ直接的に「戦争」を扱っている作品たちです。

『この空の花』は圧倒的なパワーでわけもわからず落涙させられる桁違いの映画、『野のなななのか』は一転して穏やかな流れの人間ドラマ、とそれぞれにカラーの全く違う前2作。本作はどう転ぶのかなと思っていると、昭和モダンと言うのでしょうか、ぎりぎり華やかさが残る戦前を舞台に繰り広げられる純文学的な物語でした(純文学、よく知らんけど)。

初見の感想は、前2作に比べて正直あまりピンとこず。窪塚俊介さん演じる主人公のあまりに幼い(=両親の膝の間でほんの子猫のように愛撫されてきた)キャラ設定への生理的嫌悪感と、文学的でわかりづらい内容、さらにはやはり大林監督がステージ4の末期がんを宣告されたなか執念で作り上げた作品であるという余計な先入観による「楽しめなさ」というのもあったり。鑑賞後、こんな感想ツイートをしていました。

ピンとこないまま終わってしまおうかとも思いましたが、舞台挨拶の映像を観ていたところ驚くことに出演者のみなさんが口々に「一回観ただけでは正直よくわからなかった」という旨の発言をされていて、そうか出演者でもわからんのかと。なので、もう一回観てみることにしました。すると今度の感想は「刹那的で美しい」が脳内トップに。主人公の幼さは免疫ができているのでもはや気にならず。おそらく、もう一回、もう一回、と観ていくうちに表面的な違和感はこそげ落とされ、もっと本質が見えてくるのかもしれません。

『この空の花』は戦争を知らない世代の話。『野のなななのか』は戦争を知らない世代と、かつて戦争に青春を貪られた若者たちの話。『花筐』は今まさに青春を戦争に貪られているさなかの若者たちの話。個人的には、本作がいちばん切ないかなあという気がします。

檀一雄「花筐」

本作の原作である、檀一雄の「花筐」(こちらの読みは「はなかたみ」で、『HOUSE/ハウス』以前に出来上がっていたという脚本も「花かたみ」。今回はなぜ『GATAMI』と濁らせたのでしょうか)。じつは過去の大林作品にも登場していて、それが1994年の『女ざかり』。吉永小百合さん扮する主人公が冒頭から「何それ気持ち悪い!」と一蹴するのが、まさに本作のラストでも読まれる遺言の手紙なのでした。なお、これに限らず監督曰く4〜5回くらいは登場させているとのこと。超、超愛読書なのですね。

短編とのことで、せっかくなのでKindle版でさくっと読んでみました。月曜の昼休みから純文学に触れちゃいましたよ。

P+D BOOKS 花筐(はなかたみ)

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「歯痛ですか、腹痛ですか?」が原作ままだったことにまず驚きつつ(笑) 全体的に映画は意外や原作をちゃんとなぞっていて、あくまで大林監督はその行間を広げただけだということに結構驚きました。もっとぶっ壊してるのかと思った。常盤貴子さんは原作を読んでみたときの感想として「純文学ってこんなに『行間』広いんだ!」と笑っていました。

また、映像から先に入っているので当然ではあるのですが、キャスティングも見事だなと感じました。特にやはり怪演オブ怪演、長塚圭史さんの吉良! いやあ、これしかない。これしかないよ。長塚圭史さん、好きになってしまいそう。常盤貴子さんの旦那さまなんですね。あの眼の虜になったら離れられないでしょうね。

この映画化にあたっては運命のいたずら的なエピソードがどうやら多くあって、例えば「40年前『花筐』の映画化権をもらいに行ったとき、檀一雄がまさに肺がんのステージ4だったこと(そして大林監督はその共通点にむしろテンションが上がってしまった)」などは思わず笑ってしまうほどのエピソードです。

また、劇中で言及されたエピソードとしては檀一雄が「花筐」出版予定日に令状を受け出征した、というものがありますが、大林監督が『海辺の映画館─キネマの玉手箱』公開予定日に亡くなった、というのもある種ちょっと、です。

原作では具体的な舞台が設定されていませんが、どこで撮るのがいいでしょうかと大林監督が檀一雄に尋ねたところ、ヒントとして提示してくれたのが佐賀県唐津市なのだそう。そのくせ物語に登場するような例えば断崖絶壁などは一切なく困ったようですが、町の人たちの精神に触れてなるほど納得、となったとか。つまり、劇中でとても印象的なお祭り「唐津くんち」は原作に登場しません。そのへんの脚色センスがすごいですよね。

檀一雄唐津を思い浮かべつつあくまで架空の町として物語を書いた。と聞いて連想するのは、『廃市(1983)』の原作となった福永武彦の「廃市」。こちらも確か、福岡県柳川市をモチーフとして思い浮かべつつあくまで…というかたちのファンタジックな町だったはず。大林監督は自然とそういうお話に惹かれているんですね。「唐津くんち」が非商業的な祭りであるところに惹かれたというエピソードもまた、長岡花火に同様の魅力を感じて作った『この空の花』を連想します。大いなるアマチュアへのシンパシーなのでしょうね。

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矢作穂香さんほか女性の面々がひたすら美しくてスクショ60枚くらい撮っちゃったよ、なんて話は今回は抜きにして、以上『花筐/HANAGATAMI』2回鑑賞&原作読んでの感想でした。いや、ほんとめちゃくちゃ美しいです女性陣。それだけでも超必見です。

(2020年84本目/PrimeVideo)

花筐 HANAGATAMI

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