この記事の続きです。
京都国際映画祭2020の特集『大林宣彦の玉手箱─ワンダーランドな空想映画館─』では、レアな映画作品も上映(配信)されていました。ここでは以下の3本について書きます。
目次
海外特派員 ある映像作家の場合(推定1968)
遺品整理の過程で発見されたという、恭子さんも千茱萸さんも何も知らない全く謎の短編映画。結果的に、京都国際映画祭2020の目玉作品のひとつとなりました。
あるスウェーデン人の目線でこの映画は語られます。その人物は日本の文化に憧れて来日しましたが、コマーシャルにまみれた高度成長期の日本を目の当たりにして失望。しかしあるとき、海で出会った撮影隊に心動かされます。それはまさにCM撮影中の大林組だったのでした。
というわけで、本作は「大林監督自身が『大林監督』をドキュメンタリックかつ理想的に描く」異色作です。映画祭の公式動画にて、大林映画と関わりの深い奥山和由プロデューサーはこの作品を「『自分がこうありたい』というモデルとして、きわめて個人的に作った映像作品なのではないか(大意)」と推理しています。なるほど、普通の人が目標を紙に書いて壁に貼るような感覚で作った映画ということか……。すごく有り得る説だと思いました。
単純に、CM作家時代の活気が伝わってくる記録映像としても貴重です。また晩年のメイキング映像と比較しても、たとえば「レールの上にカメラと役者を乗せて丸ごとスライドさせて撮る」なんていう独特の撮影技法は40〜50年前から確立されていたんだなと驚かされます。
四月の魚 Poisson D'avril(1986)
Poisson D'avril=ポワソン・ダブリル=エイプリル・フール。高橋幸宏さん主演の映画。既発作品のなかではこれが最もレアでしょう。なにせVHSでしかリリースされていません。なんでも5つくらいの会社が製作に関わっており、そのため上映やリリースが権利的にとても難しかったのだそうです。非常に観たかった一本なので狂喜したのですが、だいぶ想像とは違う作品でした。
ざっくりの内容としては、ユキヒロさんがフランス料理を作ってくれるMVです。千茱萸さん曰く、オシャレなフランス映画みたいな日本映画がなかった頃にそういうものをイメージして作った作品だそう。ユキヒロさんをキャスティングしたのも千茱萸さんで、YMOメンバーがタキシード姿で漫才をする「トリオ・ザ・テクノ」を見て「これはいけるかも」と思ったのだとか。
とはいえ実際のところはなかなか失笑の、今から見ればすっかり前時代的なコメディ。話によれば本作と『天国にいちばん近い島(1984/こちらにもユキヒロさん出演あり)』は並行して作られていたそうですが、にわかに信じらないくらい違うタイプの映画です。ファン的には貴重だけれど、まあVHSから先に行かなかったのも納得ではあるかなと思ってしまいました。
マニア的な見どころとしては、ラストシーンにおける唐突な飛行機の虚構は『北京的西瓜(1989)』を連想せずにはいられません。また、こんなコントみたいな映画においても中原中也が出てきたりするあたりはさすがと言わざるを得ません。
マヌケ先生(1998)
これは厳密には大林宣彦監督作品ではなく、製作総指揮大林宣彦による内藤忠司監督作品でした。そうだったんだ、初めて知りました。観てる限りは大林映画としか見えません。まあ普段だってカメラマンも編集マンも実作業をするのは別の人なわけですから、どこかで息がかかっていれば大林映画になるのでしょうね。
さて本作は、大林監督の自伝を映画化したものです(そういう意味では『海外特派員』的とも言えます)。原作となった本以外でもことあるごとに監督は同様のエピソードに触れていますから、ある程度のファンであれば「本で読んで知っていることがどんどん映像化されていく愉しみ」で大満足できる一本でしょう。

- 作者:大林 宣彦
- 発売日: 2020/07/17
- メディア: 文庫
監督の遺作『海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)』劇中でも本作の映像が多く引用されており、わたしの場合はそこで初めて本作に触れたのですが、実際にフルで観てみるとこれが思いのほか『海辺の映画館』の姉妹編的な映画で驚きました。広島県産業推奨館(原爆ドーム)、無法松の一生、東京ブギウギ、まだまだあります共通点(なお主演俳優が厚木拓郎/役名「馬場毬男」であることも共通)。あわせて観たい作品です。
ちなみに『海辺の映画館』で桜隊メンバーの宿舎として使われているお宅はなんと本作における馬場毬男の家として使われていたお宅! 最初は偶然だったようですが、そんなところから本作の引用アイデアが出てきたりしたらしいです(でも「ターザン」ネタはそれ以前から入っていたり、など大林監督の脳内は謎だらけ)。
次の記事では、メイキング作品等について書きます。