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主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「野ゆき山ゆき海べゆき(1986)」雑感

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配信のある大林作品を全て観尽くしてしまい(※1)どうしたものかと思っていたところに、ちょうど池袋の新文芸坐さんにて大林監督追悼特集の第一弾として『野ゆき山ゆき海べゆき』が上映されていたので行ってきました(※2)。2020年6月現在、配信では視聴できない作品です。ありがたい…!!

なお本作は「質実黒白オリジナル版」「豪華総天然色普及版」の2種(つまるところ白黒かカラーか。椎名林檎に通じるセンスである)が存在しているそう。今回は豪華総天然色普及版=カラー版で鑑賞しました。

※1 配信のある大林作品ガイド記事を書きました。


※2 新文芸坐さん初利用の感想、同時上映『さびしんぼう』の感想はこちら。

あらすじ

この作品、なぜだか妙にあらすじが書きづらくて。わんぱく少年たちのケンカ遊び、魅力的なおねいさんへの憧れ、そこへ忍び寄る戦争の影。まあ、そんな感じの物語です。

雑感

終盤で大きくテイストが変わってしまうことを除けばこの映画、なかなかの「おねショタ」だと思いました。魅力的な年上のおねいさんと、女風呂に入ることが許されるくらいの可愛い少年。大林作品的には珍しい部類に入るんじゃないでしょうか。

魅力的なおねいさん「お昌ちゃん」を演じる鷲尾いさ子さんは本作が映画デビュー作。その長身と、じつにおねいさん的な厳しくも優しい(強い眉とタレ目の絶妙なバランス!)表情で、これ以外考えられないほどのキャスティングです。なお当初お昌ちゃん役には富田靖子さんを予定しており、代打での抜擢だったのだとか。いや〜〜〜、結果論でしかないけどそれは違う気がする〜〜〜(笑) 富田さん用の衣装をそのまま着せたからつんつるてん、ってとこまで結果的に完璧でございます。ヌードを拝見できる行水シーンや、透け浴衣で川下りをするシーンなどもたいへん麗しゅうございました。

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スクショを撮れないのが残念

彼女にときめく可愛い少年・須藤総太郎クンを演じるのは、こちらも本作が映画デビューの林泰文さん。林さんといえば大林作品では『青春デンデケデケデケ(1992)』のイメージが強いですが、こんなバリバリ子役の頃にも主演していたんですね! しっかしこの須藤クンは危険です。万人をショタに目覚めさせる力がある。問答無用で「可愛い」んですよ。お昌ちゃんからいっぱい恥ずかしいことされて文字通り「可愛いっ」とか言われちゃうところなんてもう、劇場たまらず大爆笑でしたよ。映画では基本的に女性しか見てないわたしでも、本作に関しては「“林泰文クン”が可愛い」というのが悔しいかな最も記憶に残ったところかもしれません。

ところでおねいさん、ちゃんと同世代の彼氏がおりました。それもなんと尾美としのり! この尾美さん、めっちゃ身体絞ってて、別人のようにシュッとしてます。前年公開の『姉妹坂』『さびしんぼう』なんかとそう離れてないはずなんですけどね、どういうわけか頭身まで違うように見えます。あと面白かったのが、『廃市(1983)』といい尾美さんは船頭の役柄になるとシリアスになるんでしょうか。『さびしんぼう』との2本立てで観るにはギャップが激しすぎです>新文芸坐さん。

物語のほうでは、戦争ごっこのくだりがまず印象的でした。どのように戦争が始まりどのように泥沼化していくか、ということを少年たちの微笑ましくもあるごっこ遊びから学んでいくコーナーで、のちの「戦争三部作(参考リンク)」を予感させる内容とテイストになっています。

続く「お昌ちゃん奪還作戦」のくだりも当然印象的ですが、しかしこれはかなり衝撃的でもありました。焼身自殺って数ある犠牲的な行いのなかでもトップクラスにいやな後味を残すものだと思いますし、そのままラストのキノコ雲まで、あんなにコミカルで楽しかったはずの映画がまるで悪夢のように終わっていく。大林監督にしては飛び抜けてビターで尖った後味の映画だと感じました。さらには、最後にかかる「東京ブギウギ」。完全に『博士の異常な愛情(1964)』ラストのヴェラ・リンみたいで悪趣味です(一応褒めてる)。


(2020年97本目/劇場鑑賞)

野ゆき山ゆき海辺ゆき DVD SPECIAL EDITION

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  • 発売日: 2001/06/21
  • メディア: DVD