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大林宣彦監督作品「野のなななのか(2014)」熱烈雑感とキャラ語り

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大林作品集中履修、ひとまずのゴールがだいぶ近付いてきました。今回は2014年公開の野のなななのかを鑑賞。『青春デンデケデケデケ(1992)』に次いで読みづらいタイトル「なななのか」とは、七×七日=四十九日のことだそうです。

この作品とても良くて、170分という長尺にも関わらず昨晩から今日にかけて2回も観てしまいました。なので一体どんな感想を書いたものやら非常に憂鬱な気分です。いい映画を観るといつも億劫になります。

※結果的にやはり全部吐き出さないと気分が悪いので思いつくまま書きました。最初にかんたんな感想、次いでキャラ語り、最後にどばーっと雑感を連ねてます。

あらすじ

舞台は北海道芦別市。1945年8月15日に終わったと思われている太平洋戦争だが、北海道では玉音放送の後もしばらく戦争が続いていた。ときは現代、ひとりの男が老衰で亡くなり、葬儀のため久しぶりに芦別へ集まった家族。なななのか=四十九日までの間、それぞれに空白の時間を埋めていく。

かんたんな感想

前作『この空の花 長岡花火物語(2012)』でその新境地っぷりにだいぶ面食らってしまったことから、今回はだいぶ覚悟をしていました。しかし意外や、本作『野のなななのか』はだいぶシンプルな美しい映画に仕上がっていました。まあ、結局面食らったことには変わりありません。

本作は、なななのか=四十九日という、公式サイドの言葉を借りるならば「生と死の境界があいまい」な期間をキャンバスとした、大林監督お得意の「生者と死者が入り乱れる」物語。ここまで大林作品を観てきている人なら全く抵抗のないストーリーですし、映像表現のほうもあからさまに奇抜なものはほとんどなく、(比較的)緩やかな流れに身を任せていられる作品でした。

『この空の花』同様に本作でも、第二次世界大戦に関する埋もれがちなほうの歴史が取り上げられます。今回学べるのは、「終戦の日」以降も戦争が続いていたという北海道のこと。この点において、TOHOシネマズの幕間ガールでおなじみ山崎紘菜さんが「戦争を知らない世代」代表として大活躍でした。観客の若い層が知らなくても当然なことは、彼女が代わりに全部「どういうこと?」と尋ねてくれる。そしてそれに対し、まず「知らない」ことをばかにしない、ちゃんと親切に教えてくれようとする姿勢がある、そこが本当に素晴らしい映画だなと思いました。

ここにきて大林監督のインタビュー動画などをいくつも観ていたのですが、大林監督の語り口ってとにかく優しくて親切で丁寧で、難しい話かなと思って聴いていてもいつしか引き込まれてしまうんですよね。そんな監督のお人柄がそのまま出たような映画、という印象です。

「誰かが語り続ける限り、肉体的に死んでもその人は生き続ける」。大林作品の根底にあるこの考えが本作にも強く流れています。わたしは先月の10日に訃報を受けるまで、大林監督の作品をひとつも観たことがありませんでした。亡くなった2日後に初めて『HOUSE/ハウス(1977)』から観始め、そして観続け、なんともう15本目になります。そもそもの作品数が多いというのもありますが、ひとりの監督にここまで心酔したのは初めてじゃないかという気がします。わたしにとっての大林監督は、亡くなった日に始まりました。これはまさに大林作品のテーマそのものかもしれないと考えると、ものすごく不思議な気分なのです。

(2020年83本目/iTunes Store

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iTunes StoreYouTubeムービーで、どちらも400円ほどの課金レンタルで観れます。さて、ここで一旦締めて、また始めます。

はみ出し雑感

本文で我慢した分、おもっきしはみ出しますよ。

キャラクター(おおむね登場順)
  • 鈴木カンナ(寺島咲): 最初に出てくる寺島咲さんが(女優さんとしてのビジュアル込みで)しっくり好みだったおかげで入り込めた。個性的な家族が多いなか、彼女の客観的で動じない目線は安心できた。唐突にタバコを吸うのも、なんかいい。

  • 鈴木光男(品川徹: 冒頭で死んでからが本当の出番(撮影が始まってからそういう脚本に変わっていったらしい)。寡黙なようでちっとも寡黙じゃない大林作品的キャラがよい。攻殻機動隊の荒巻課長って実写だとこんな感じじゃなかろうかと思った。だったろうか! だったろうか!

  • 田中英子(左時枝猪俣南: おお、おお、おおおばさま。高祖叔母。「見た目は10歳くらい若く見える80代」の役を好演した左時枝さんは、入り込むため芦別のヘアサロンで髪をばっさり切ってもらったらしい。少女時代を『この空の花』主演の猪俣南さんが演じていて、トータル30秒にも満たないような出演時間ながら、やはり強烈な存在感を残している。すごい。

  • 鈴木かさね(山崎紘菜: 彼女はてっきり最新作『海辺の映画館─キネマの玉手箱(未公開)』からの出演だったのかと思っていたら前作からすでに登場しており驚いたが、今作ではものすごく大事なポジションで、なんならもしかしたら一番セリフが多いのでは。なお次作にも同様のポジションで出演しており、「晩年」の大林作品を代表するミューズ…とは違うが個性派役者と言えるだろう。ところで、点呼のシーンで名前を読みためらわれるシーンがあるので、もともとは平仮名ではなく「累」とかだったのでは…?

  • 鈴木冬樹(村田雄浩): 今回の村田さんは、ちょっと嫌味の強い役ということで、肩から背中にかけて布を入れたり、眉間にホクロを加えたりと、クセを強める外見的キャラ作りが行われたらしい。光男が亡くなったシーンでカップをソーサーにカタカタさせてるのって3.11を連想させる演出なのかしら。

  • 鈴木春彦(松重豊: 冬樹が「はるひこォ〜」って言うところになぜかラーメンズを感じた(なんか、そんなネタがあったはず。小林賢太郎ソロかもしれないが)。北海道の泊原発で働いている設定。冬樹と春彦が菜の花畑でロマンチックしている終盤のシーンはお好きな方が多いことであろう。

  • 鈴木秋人(窪塚俊介: いい感じの兄ちゃん。冬、春、秋ときて「夏」のつく名前がないなと今書いていて気付いたが、語られる物語は夏(1945年8〜9月)のことだし、劇中で繰り返し読まれる中原中也の詩は「夏の日の歌」。語るべき題材を背景にしてはいけない、という監督の発言があったから、あえて夏を家族の名前=背景にしなかったのかもしれない。ちなみに、調べてみたらカンナは夏に咲く花だった。

  • 清水信子(常盤貴子常盤貴子さん最高。死神のような初登場時から徐々に色っぽさを出していく演出がたまらない。案外いけてる女子高生役、じっとりした女の眼差しがたまらないお母ちゃん時代、どれもよい。四十九日を待つ光男が本来最も「生と死の境界があいまい」なはずなのだが、本作においては彼女が最もその位置にいる。と最後のほうでようやく気付く。じつにおもしろいキャラクター。

  • 山中綾乃(安達祐実: ああもう、安達祐実さんバケモノ。ほんっとにバケモノ。50年後くらいにこの映画を観た若者がなにこの人バケモノじゃん、と驚いてくれるのが楽しみだ。本来ならスクショを撮る手が止まらないところだが、幸か不幸かiTunes Storeのレンタル動画はスクショを許してくれなかった。

製作
  • 芦別市と大林監督の交流は公開時点で20年以上も続いていたらしい。冒頭で唐突に登場する鈴木評詩さんという方が市の職員さんで、鈴木さんの熱望により映画学校(ワークショップのようなもの?)が立ち上げられ、その集大成的作品が本作、とのこと。

  • 冒頭にある通り、鈴木評詩さんは若くして亡くなった。よく見たら『さびしんぼう(1985)』の人形に寄り添った写真が使われていてギョッとしたのだが、鈴木さんは聖地巡礼をするほどの熱烈な大林ファンで、特に『さびしんぼう』がお好きだったとのこと。

  • なんと、製作費約1億円のうち8,000万円を市民が出資しているそう。アマチュアの製作をプロが手助けした自主製作映画と言える。

  • 町おこし映画でありながら、劇中には町おこしを揶揄しているようなシーンもあり、ちょっと可笑しい。カナディアンワールド、知らなかった。(追記:書き終わってから宇多丸さんの評を聴いていてなるほど、と。笑っちゃうところではなかったのだな)

その他諸々雑感
  • 前作『この空の花』に比べて映像が綺麗。いつもの背景合成は多用されているが、『この空の花』のようなあからさまな感じは控えめで、トーンも統一されているためストーリーに集中しやすい。これが大林作品初見でもない限り、特別ギョッとするような演出は極端に少ない。せいぜい「青空に安達祐実くらいである。

  • 大林作品への出演が夢だったという安達祐実さんは舞台挨拶で「自分がグリーンバックにされた」衝撃を嬉しそうに語っている。「一生に一度の経験」だろう、とも。なるほど、ああいうクソコラなシーンは役者に直接グリーン塗ってるのか……。現場に着き、グリーンバックの前で演技している役者たちを見て「私もグリーンバックの前で合成されるんですね」と言っていたらむしろ自分に塗られてしまったというエピソード、かなり笑える。

  • 大林作品にありがちな「そっち透過すんの?!」問題、しかしこれについて大変もっともらしいことを監督がおっしゃっていた。曰く、「戦争を背景にしちゃいけない」。だから代わりに人物を背景にする。安達祐実さんは「君は背景なんだよ」と言われたそう。なんだろう、妙に納得してしまった。騙されているような気もする。

  • 常盤貴子さん演じる信子はどうやらクランクインの段階では「生」側のキャラクターだったようで、キービジュアルにもなっている安達祐実さんと並んで座るシーンを「撮ってみた」ときに監督自身「気付いた」のだそう。曰く、「信子は綾乃のよみがえりで、過去の綾乃が今の信子で、信子の今は死んでるんだ。過去の綾乃が今も生きてるんだ」。これが公式の見解みたいです。

  • 前作から引き続き、本作も3.11がもうひとつのキーワードになっている。光男が死んだのは2013年の3月11日、14時46分。劇中の時計は全て、14時46分18秒で止まっている。監督曰く「3.11から3年目の今(光男が死んだのは2年目、公開されたのは3年目)日本は“なななのか”なのではないか」という考えがあるらしい。

  • 劇中ほとんど止まっていた時計が最後で動き出す、という演出は『廃市(1983)』を思い出すが、そういえば最初のほうで「死んでいくみたい、芦別の町」というセリフがあった。これもひとつの「廃市」の物語か。

  • タイトルはもともと『なななのか』だったが、大林夫人が「『なななのか』じゃ家ん中ばっかりだから『“野の”なななのか』にしてくれない?」と提言し、「分かった、野原の真ん中で“なななのか”だね」と応えたそう。そこからあの終盤のシーンが生まれているわけだから恭子夫人のプロデューサー視点はさすが。なお、菜の花畑はグリーンバックではなくロケとのこと。

  • ちなみに劇中で「なななのか」のワードが初登場するのは約100分が経過した頃である。ついでに言うと安達祐実の初登場は約80分地点だがほんの一瞬で、登場人物としてしっかり再登場するのはそこから30分後くらいのことである。全体通してとにかく時間を贅沢に使っており、内容据え置きのまま2時間尺に収めることも十分可能だと思う。それをせずに済んでいるところが自主製作の強み。

  • 若かりし光男が「なんで着衣の姿を描くんだ、そこは裸身だろ」と激昂するシーンがあるが、ここは大林監督の言葉なんだろうなと思う。「貴女の上を洋服の線や色で汚して隠して、それがなんで貴女なんだ!」。主演女優脱がしがちな大林宣彦の哲学を見た。ま、普通の人が言ったらひっぱたかれるところだが。

  • 光男は「女々しい」キャラとして演出された。戦時中、平和を求める男は非国民とされた。女々しさとは、じつは勇気なのである。「勇気を持って女々しくなろう」。このメッセージは次作にも強く出てくる。

  • 二作連続でチャーチルのVサインが出てくる。大林少年的によほど印象的だったのだろう。お勉強映画の意味では前作より本作のほうがより分かりやすく、そんなことを含めてもやはりトータルでかなりバランスのいい作品だと思う。

  • 好きなセリフその1「苦い……でも……好きになれそう」。髪を耳にかけるところまでセット。至高。

  • 好きなセリフその2「生きることはコーヒーのようにうまい」。本作はとてつもなくコーヒー映画である。

  • 好きなセリフその3「ほとばしって泣きますわ」。超短時間好演賞、猪俣南さんのセリフ。最高。

  • 前作でも音楽を担当したパスカルズの隊列が、本作では要所要所でインタリュード的に登場する。個人的な嗜好としては特別好きでもないのだが、耳に残るのは間違いない。それは中原中也の詩も同じで、あれだけ繰り返されるとさすがに覚える。あるでない。

  • 音楽ではむしろ、山下康介さんの劇伴がかなり好みだった。メインテーマのような曲がとても重厚で、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984』におけるモリコーネの音楽を連想させる(だから好き)。これは山下康介さん、絶対にモリコーネお好きだろうなと思って調べてみたら、ドンピシャで『ワンス〜』などの曲を編曲されていた。ガッツポーズした。

  • この頃のインタビューで大林監督はよく「シネマ・ゲルニカ」という言葉を使っている。ピカソの『ゲルニカ』は、スペインがナチス・ドイツ空爆を受けた悲惨な光景を描いたものだが、これがもしリアルな絵画だったらとっくに風化しているはずだ。キュービズムの手法で描くことで、風化せずに今でも見られている。それこそが芸術の力だ。伝えていかなければ次の戦争が起きる。私の映画は"シネマ・ゲルニカ"。風化しない手法、アートのジャーナリズムだ。映画「野のなななのか」/大林宣彦監督インタビュー「日本は忘れることで平和を手にしようとした」 : 東京バーゲンマニア なるほど、と納得のほかない。

  • おそらく前作から使われている、エンドロール最後の花火を思わせる余韻の音が好き。あんな人工的に「余韻」を作り出すなんて普通ならご法度だろう。

参考にした動画

舞台挨拶の前後編。司会進行を兼ねる大林監督の温かみに落涙。

大林監督のインタビュー。


以上、過去最長の感想でした。2回観るとかなり解像度が上がっておすすめです! 特に冒頭の病室シーンなどは初見と2回目で1と100くらいの違いがあります。本作お気に召した方は、ぜひ。

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