大林宣彦監督作品「青春デンデケデケデケ(1992)」雑感
大林監督作品履修期間、今回は1992年公開の『青春デンデケデケデケ』を鑑賞。デンデケ-デケデケとはベンチャーズ・サウンドでお馴染みの、あの奏法です。1960年代、バンド活動に高校三年間を費やした少年たちの物語。ギター抱えて、一緒にベンチャーズ練習しながら観ました。
あらすじ
ラジオから流れてきたベンチャーズの「パイプライン」によって“エレクトリック・リベレーション=電気的啓示”を受けた竹良(林泰文)は、高校に進学するや同級生たち(浅野忠信ほか)を寄せ集めてバンドを結成。彼らと共に青春をバンド活動に捧げる。三年生になり、自分以外のバンドメンバーが家業を継ぐことにしているなか、ひとり大学進学を目指す竹良は一抹の寂しさを覚えた。そんな彼のもとをメンバーたちがサプライズで訪れる。
雑感
男の友情よりは可愛い女の子が観たい、ベンチャーズあんま興味ない、そもそも音楽映画はけっこう地雷。そんな理由でさほど期待せず観た一本でしたが、いやあ、男の友情っていいものですね。ベンチャーズの魅力も分かった気がします。そしてなにより、かなり堅実な音楽映画だった!ということで雑感まいります。
ギターを持つまで40分
舞台は1965年の田舎町。まだ「バンド」も「エレクトリックギター」も市民権がないようです。そんななか、電気的啓示を受けバンドやろうぜ!と相成った主人公ちっくん(竹良=ちっくん、と呼ばれている)と同級生たち。しかしなにせ、練習スタジオもないような環境で生活する彼らです。最初の一音を出すまでにだいぶ時間がかかります。
まずはバイトをして、楽器と機材の購入から。ギター2本にベース、それぞれのアンプと、ドラムセット。ドラム以外は全部グヤトーン(ギター、特に浅野忠信が使ってる白のグヤトーンがかっこいい!)。今ならアンプとドラムは買わなくても、って感じですが前述の事情によりまずそこから買わないとどうにもならんわけですね。コンボアンプではなくヘッドとキャビネットが分かれた本格的なアンプで、初期投資がしっかりしており好感です。これだけの機材を揃えていた町の楽器屋さんも褒めたい。
さあアイテムが揃いました、早速ガツーンと鳴らしてみるんかな?と思ったら、なんとこの子たち、先立って個人練習をしているじゃないですか……。えらすぎる……。電気を通したらすごいんやろなあと想像しながらペケペケと練習する姿、ときめきます。添い寝、するよね。長方形のハードケースに入ってるのも堪りません。『ちゅらさん』の恵達を思い出しました(分かる人だけ分かってほしい)。ここまで40分。堅実です。
そしてついに「合奏」の日がやってきました。ちゃんと機材運搬から描かれます! そう! 練習は運搬が大変なのよね! 練習場所に紆余曲折ありながら念願のバンドサウンドが田舎町の空気を揺らします。できてる、できてるよ、できちゃってるよな、と満足気な表情で「パイプライン」を演奏する彼ら。おめでとう! おめでとう! あれだけ個人練習してたんだもの、できちゃって当然よ!
この映画の最も評価できる点は「練習」をしっかり描いているところだと思います。どれとは言いませんが、過程を描かず結果だけで感動させようとしてくる音楽映画の多いこと。練習や打ち合わせがあってこその華々しい舞台なの! 原則は!
裏方さんが入る
はいからさんっぽく書いてみたけど伝わらない。さて、初の合奏を済ませた彼らは場所を転々としながら練習に励むのですが、外へ外へと追いやられた結果どんどんMVみたいなシチュエーションになっていくの、うける。でもさ、そんなとこじゃ電源どうすんの。と思った直後にはしっかり「街灯から電源を取るカット」があったりして、抜かりありません。信頼できる映画だぜ。
バンド活動が順調に走り出した頃、新キャラが登場します。なにやらインテリっぽいこの彼がもしかしてバンドに不和をもたらすのでは?? やめて?? などと心配していると、なんと彼はエンジニアとしてバンドに加わることになります。これすごくないですか。『映像研には手を出すな!』の金森氏みたいなものですよね。あちらはマネジメントですが、バンドならやはりマニピュレーターとかテックとかが必要になってくるわけで。そこを描いてるのは信頼度ますますマシマシです。
他にも細かいところで気が利いてるなあと思ったのは、例えばマイクスタンド入手のくだり。町のスナックの開店パーティーで演奏させてもらった彼らが、お金はあげられないけど代わりに、とマイクスタンドを2本もらうんですけど、これかなり嬉しいプレゼントですよ。思い返してみると、譜面台にマイクくっつけて歌ったりしてるシーンが確かにあるんですよね。おかげで晴れ舞台の文化祭ではしっかりこのスタンドを活用しています。
なお、演奏自体は後からプロがアテレコしているそうなんですが、このアテレコもかなり巧い。見た目と違う音が鳴ってることがほぼほぼないので、気をそらされることなく観れてよかったです。普通に本人たちの演奏だと思いましたもん、たどたどしいなりに上手いなあって。たどたどしいなりに上手い演奏のフリが巧かったわけです、プロの皆様。
ファンタジーばりに平和
大林作品における「学校」というのは妙に元気はつらつ平和な学び舎、の体をしていて好きです。本作の高校もひたすら平和。影のある展開がひとつもありません。割烹着姿の女生徒が妙に印象的ですが、ああいう世話焼きオカン系女子、好きねえ(監督が)。
そしてバンドメンバー。彼らも最高に愛おしい男子たちです。特にあの、お寺の子が大好き。『さびしんぼう(1985)』の尾美としのりと違って継ぐ気満々の、これが天職よ!という感じが痛快。それでいて学ラン似合うんだよな〜〜。ベースがMCなのも既視感あっていいよな〜〜。そういや本作での尾美としのりさんは元々わたしが知ってたほうの尾美さんに近くなっててちょっと寂しくも思いました。すっかり少年時代を見慣れてしまっていたからな。
主人公ちっくんもかわいい。ちょいちょいこちら側に話しかけてくるので、これ洋画だったらマシュー・ブロデリックあたりかなあ、って。『フェリスはある朝突然に(1986)』久しぶりに観たくなりました。
最後の終身バンドリーダーは涙。そのシーンまではウェットなところのない映画だったんですが、あの授与のところでちっくん同様泣きました。ていうかめちゃくちゃいい仲間だよ、大事にしなよ! ちっくん!
書きたいことが多くて終わらない。文化祭の最後に演奏し大盛り上がりを見せた「ジョニー・B・グッド」。『バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)』で1955年のマーティが「君たちにはまだ早すぎると思う」と演奏した曲。そういやあのマーティも高校生なんだった。時代が追いついたね、と脳内のマーティに目配せしました。おわり!
(2020年74本目/iTunes Store)
青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)
- 作者:芦原 すなお
- 発売日: 1992/10/01
- メディア: 文庫
- 発売日: 2020/08/07
- メディア: Blu-ray