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主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「この空の花 長岡花火物語(2012)」雑感

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そう遠からず公開日が再設定されるであろう『海辺の映画館 キネマの玉手箱』を万全の状態で受け止めるため、引き続き大林作品履修ノンストップでいきます。今回はついに2010年代の作品に突入! 『この空の花 長岡花火物語』鑑賞しました。これはやばい。

あらすじ

1945年8月、広島・長崎に先立って空襲の被害を受けた新潟県長岡市。その復興と慰霊、伝承のため、長岡では毎年決まった日に花火が上がる。ときは現代、花という女学生猪俣南反戦をテーマにした演劇「まだ戦争には間に合う」を企画、花火の日に上演することとなった。同じ頃、九州から訪れた新聞記者の玲子松雪泰子も長岡の地を興味深く取材していた。

雑感

わたし、わかった気になってました。もう10作以上大林監督の映画を観てきて、その個性的な部分にすっかり耐性をつけた気でいました。全然でした。2010年代の大林監督、やばい……。

始まらない

大林作品は大きな「A MOVIE」の文字から「映画ですよ」と宣言して幕を開けるのが恒例ですが、今回は何やら開けても開けても幕があっていつまで経っても始まらないというシュールなオープニングから早速“掴み良し”です。冗談なのか真面目なのか、なげえな前口上!っていうところをまずお楽しみください。楽しみました。

オールデジタルのクセが強い

本作は大林監督にとって初のオールデジタル作品なのだそうですが、いやデジタルだからって普通そんなパキッとしないでしょ、ってくらい全編パッキパキの絵作りになっておりクセすごいです。デビュー作『HOUSE/ハウス(1977)』のクソコラ感をそのままデジタルにした感じ。ここまで回帰できちゃうことってある……???

これまでの作品はギョッとするような部分こそあれど映像自体は味わいが深かったり、主演女優の魅力を最大級に映し出していたりしたものですが、今回はそれもなかなか見いだせません。このテイストのままで果たして楽しめるだろうか……。不安を抱きながらの鑑賞でした。しかも160分。長いんだ。

お勉強映画?

序盤は主に「長岡空襲」について、松雪泰子さん演じる新聞記者や長岡のベテラン花火師さんなどを通じて知見を広げていく内容。広島・長崎の影に隠れてあまり知られることのないこの長岡空襲、当然わたしも全く知らず、純粋に勉強になりました。大林監督自身も知らなかった、とのことです。

クセの強い演出も挟みつつ、しかし基本はかなりドキュメンタリック。映画的な映像美とは対極にあるテレビ的で現実的な質感もあいまって、これは本当に「映画」として展開していくのだろうか? と、やはり不安を禁じ得ない導入部です。

怪優 猪俣南 大登場

そんな不安は謎の女学生「花」の登場により、不安混じりの期待、くらいに変わります(まだ不安)。花を演じる猪俣南さんが、すごい……! なんだかよくわからないけどすごい……! 芳根京子さんをより強くしたようなデフォルト上目遣いの強烈な眼力が、観終わった今も脳裏にこびりついたままです。

ここまでのドキュメント感から一転、この「花」はセーラー服にロングヘアーという王道の大林映画的キャラクターとして演出されており、かつ何故かいかなる時も一輪車に乗っているという設定が最強にMOVIEです。猪俣南さんは国際一輪車大会で優勝しているほどの超チャンプだそうで、どの時点でこの一輪車要素が本作に入り込んできたのか知りませんが、結果的にとんでもないマリアージュだったんじゃないかしらと思います。

まだ戦争には間に合いますか

なんだかずるずるずるずると引きずり回され、映画は大団円へ。書き忘れていましたが本作は字幕も特徴的、というかクセが強すぎます。情報過多です。どうでもよさげな字幕がやたら出ます。なんならそう、いかにも大団円なシーンに突入するや「大団円」と。親切。

で、さて、この大団円を飾るのは花たち学生が企画・準備していた劇『まだ戦争には間に合う』。演劇作品全体を見せる構成ではないのですが、何故か力づくで泣かされます。正体不明の圧倒的なパワーで、涙が出ます。え、こわ。小一時間前に「果たしてこれは『映画』として展開していくのだろうか?」と不安がっていたわたしは、ああそうだったこれが大林映画だったと、もう何度目にもなる嬉しいため息をつくのでした。

と、きれい目に書いてみたものの、この劇やばいです。映像としては無法地帯、クソコラの嵐。キャストは全員一輪車。悪夢のような出来事を描いた劇なので当然といえば当然ながら悪い夢でも見ているかのようなカオス。それでもラストの問いかけ「まだ戦争には間に合いますか? まだ戦争には間に合いますか?」では不思議と涙が溢れてきてしまうのです。クソッ、また結局きれい目の文章に落ち着くのです!

しいて言うなら、映画というよりもまさに演劇そのものを観ているような消耗がありました。

これは感想の、ほんの一角にすぎず。全部書こうとしたら大変なことになっちゃうので終わります。公開間近の最新作まで残り2本。これ以上ぶっ飛んでいると受容できる自信がありません。監督がさらなる新境地へ行ってしまっていないことを願いつつ、でも新境地が見れなければそれはそれできっと残念という複雑なファン心理。

(2020年81本目/iTunes Store

iTunes StoreYouTubeムービーで、どちらも400円程度で配信レンタルできます。

いかに妙ちきりんな映画か、というところは宇多丸さんの評がかなりノッてて爆笑しきりでした。そう!そう!!って膝叩きまくりなので鑑賞後にぜひどうぞ。

長岡市運営のサイトに掲載された大林監督のインタビュー、良かったです。