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大林宣彦監督作品「恋人よ われに帰れ(1983)」雑感|沢田研二・大竹しのぶ主演、直球の反戦ドラマ

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池袋の名画座新文芸坐さんの大林宣彦監督追悼企画にて、1983年のテレビドラマ作品『恋人よ われに帰れ LOVER COMEBACK TO ME』を観ました。本命は同時上映の『はるか、ノスタルジィ(1993)』で、本作のことはじつは存在すら知らなかったのですが、期待していなかったぶん予想外にいいものを観れたなあという作品でした。

本作の特筆ポイントは、まず「沢田研二×大竹しのぶ」の豪華キャストでしょう。また、終戦直後の広島から朝鮮戦争勃発までを背景とした直球の反戦ドラマであることも挙げられます。

沢田研二×大竹しのぶ

大林監督とはこの一作品でしか縁のなかったお二人です。ザ・タイガース沢田研二さんと共に活動していた岸部一徳さんは大林組の超常連ですが、大林監督は岸部さんと沢田研二さんが同じバンドにいたことすら知らなかったといいます(そして、わたしも知りませんでした笑)。

大竹しのぶさんはとにかく若い。20代半ばです。ツヤツヤです。でも既に間違いなく「大竹しのぶ」なのがすごいです。沢田研二さん演じる日系アメリカ人の米軍兵(複雑な役柄…!)と大竹しのぶさん演じる広島の被爆少女が本作の主役となります。

直球の反戦ドラマ

大林監督は本作の企画に関わっておらず、あくまで雇われ監督として、用意された脚本も95%は変えることなくそのまま撮っているそうです。そんなこともあってか、大林作品としては珍しく真正面から敗戦直後の日本を描いています(主な舞台は広島の焼け野原と東京の闇市。朝ドラかというくらい定番のシチュエーションです)。

ただ登場人物たちの設定は結構複雑で、前述したようにまず沢田研二さん演じる主人公は進駐軍として日本に滞在する日系アメリカ人の米軍兵。大竹しのぶさん演じる広島の被爆少女と彼はひょんなことで出会い、のちに東京で再会。いろいろありつつ結婚することになるのですが、幸せも束の間に彼女は原爆後遺症の白血病で倒れ、一方で主人公は朝鮮戦争に駆り出されてしまいます。

主人公の上官(白人の米軍兵)もまた複雑な役柄。彼は広島の原爆で日本人の恋人を亡くしており(実際はいろいろややこしいのですが省略)、恋人を殺した犯人たる原爆を知るためにビキニ環礁の核実験まで見てきた、そして自らも被爆者になった、という男です。

朝鮮戦争勃発に伴う軍需で日本の景気は上向きに。しかし劇中の恋人たちは引き裂かれ、さらに白血病で倒れた彼女は、自分の故郷は朝鮮だと言う……。よくもまあここまで複雑にしたものだなと思いましたが、そんなわけでなんともビターに「反戦」を感じる物語となっています。

サイドストーリーとしては泉谷しげるさん演じる元ミュージシャンの男がジャズクラブを作るエピソードなんてのも盛り込まれておりまして、映画のタイトルになっている「恋人よ われに帰れ/LOVER COMEBACK TO ME」をはじめとしたジャズのスタンダードをたっぷりと聴くことができます(シンガー沢田研二も見れます)。戦前戦後のMGMミュージカル映画大好き!なわたしとしては嬉しいところでした。

また、全体的に「大林色」控えめではあるのですけど、後述する本のなかで監督自身も「僕の正体がこぼれていた作品」と評しているように、油断しているとポンポンポンポンお囃子が鳴ってきたりして笑ってしまいます。83年にして既に『花筐/HANAGATAMI(2017)』のにおいがします。やたらずっと水の音が聞こえるのは同年の『廃市(1983)』を思わせますし、最初と最後にキノコ雲のイラストが使われているのも大林流でありましょう(『野ゆき〜』あたりと通じますね)。

なかなか手軽に観れるものではなさそうですが、機会があれば観て損はない一本です。こんなニッチな作品まで上映してくれた新文芸坐さんには頭が下がります。

(2020年192本目/劇場鑑賞)

A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る (立東舎)

A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る (立東舎)

映像ソフトは見当たらなかったので、本作についての言及もある書籍『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』を紹介しておきましょう。全フィルモグラフィーを網羅した最新かつ最後のインタビュー本です。総ページ数およそ750ページ。まだ四分の一も読めてません!

おまけ「ホワイト・ラブ(1979)」

ホワイト・ラブ

ホワイト・ラブ

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
ちょっと前に観て書きそびれていたモモトモ映画。『ふりむけば愛(1978)』の翌年公開となるこの作品には、大林監督がゲスト出演しています。役どころはそのまんま「CM監督の大林さん」。撮影現場のシーンで「弁当はなんだ? オカズによって演出が変わるぞ〜」とかなんとか言うだけのカメオですが、上記の『全自作を語る』によれば「監督として一番大事なことを言ってくれ」という指示を受けての大林監督なりの一言だったそうです(自作ですらないこんな細かいことまで書いてあるの、すごい)。

なおストーリーは『ふりむけば愛』よりよほどしっかりおもしろく(言い方)、こちらも機会があればおすすめです。

(2020年181本目/WOWOW