大林宣彦監督作品「廃市(1983)」雑感
すっかり大林作品に魅了されてしまった今日この頃、さらにその思いを強める一本と出会えました。1983年公開『廃市』。「はいし」と読みます。『転校生(1982)』で映画デビューを飾った小林聡美さんが引き続きの主演。一見とても地味そうな映画ですが、果たしてどんな物語なんでしょうか。
あらすじ
ある町が火事であらかた焼けてしまったという記事を読んだ主人公は、自身が大学生だった頃のことを回想する。彼は卒業論文を書くため、ひっそりとした田舎の町でひと夏を過ごした。知人のつてで旧家に滞在し家族たちと親しくなるも、田舎の人間関係は複雑で、たいへんな事件に巻き込まれてしまう。しかし夏が終わり東京へ帰った彼は、この記事を読むまでその町と人々のことはすっかり忘れていた。
雑感
幅の狭いアスペクト比に、白黒の画面。望遠で捉えたローカル線と、水の音。おっとこれは、本当にかなり地味な映画かも、と少し不安に感じながらしばらく観ていると、もはや大林作品の署名的な意味合いすら感じる“部分的な色付き演出”を経て、本作の舞台と思わしき堂々たる旧家の門前で画面はカラーに。
主人公が「ごめんください」と玄関先で声をかけるところまではまだ先の見えない不安があるのですが、ほどなくして若い女性が駆けてきて「さ、どうぞ」と案内してくれるや一気に緊張がほぐれます。その女性とは本作のヒロイン、若かりし小林聡美さん演じる安子。ひっそりした田舎町において貴重な陽のオーラを携えた彼女は、この先も常に「この子がいれば画面上は明るい」とつい依存してしまうほどの頼れる存在となります。
離れの一室に落ち着いた主人公は、快活で世話焼きな安子によくしてもらいながら卒業論文の執筆に勤しみます。東京から来た彼にとって田舎の空気感、それも「日本のベニス」と呼ばれる水の都であるこの町(福岡県柳川市の設定)はとても魅力的に映り、ことあるごとに「いいところですね」と褒めるのですが、そのたび安子は「この町は死んでいるのよ」「いずれこんな町は完全になくなるんだわ」などとその明るい性格からは予想もつかないような黒い返答をするのです。
鑑賞後丸一日ほど経って、終末系SFみたいな物語だったなと思いました。町というよりも、なんなら舞台は「星」。銀河系の外れの小さな星に立ち寄った主人公が「ここはいい星ですね」と言うと、その星の人たちは「この星はもうすぐなくなってしまうんですよ」と返す。どうかお引き取りくださいと頭を下げられ、飛び立った汽車のなかでほろりと涙を流す星野鉄郎……鉄郎……?!(なにかが見えた)
まあなんか、そういう世界観に置き換えてみるとなんだかしっくりきました。ラスト、また来ますよと言った主人公に対してヒロインがニコッと笑いかけ、一呼吸置いてから淡々と話し始める別れの言葉。こんな終末感溢れる見送りがあるかよ、って感じなので未見の方はぜひご覧いただきたいです。ただでさえ駅のホームってだけで『ビフォア・サンライズ(1995)』ばりの切なさがあるというのに。
小林聡美さん(推定18歳)が可愛い
さて、特集コーナーです。未だ『転校生』を観れていないわたしにとって本作が初めてしっかり拝見する「若かりし小林聡美さん」だったんですが、いやはや、可愛かった。魅力的だった。
絶世の美少女というわけではないけれど、旅先でこんな子に出会って親しくしてもらえたら、と想像すると恋心が芽生えてしまうこと必至です。しかも博多弁で喋るとよ。
そんな小林聡美さん推定18歳を誠に勝手ながらここにアーカイブしておきます。
かわええやろ、俺の聡美かわええやろ。
はみ出し雑感
本作は大林監督的には異色なほど全くホラーだとかB級な要素がない。しいていえば冒頭の蛍シーンが唯一の「一瞬ホラー」か。
主人公の山下規介さん、菅田将暉だな〜と思いながらずっと観ていた。それにしても彼の無神経な首突っ込みっぷりは結構うざい。所詮は大学生である。あと論文それかよ。
「生きてる人と死んでる人の区別がつかない」という安子の台詞があるが、これってそのまま大林作品のほとんどに通じる要素な気がする。
田舎、家族、突然の死、家庭の事情に巻き込まれ……、この要素への既視感もしかして『サマーウォーズ』?! 細田さん大林チルドレンなのだから十分あり得るなあと思った。
時折チーンと鳴る時計か何かの音は『叫びとささやき(1973)』を連想した。大林作品で『叫びとささやき』オマージュと思わしきものに出くわす率高い。ベルイマンはあまり相性良くなさそうだけどこれだけは観ておいてよかったなとすごく思う。
小林聡美とは『転校生』タッグなはずの尾美としのりが今回はほぼ背景キャラ。無言で全てを見ている本作の尾美としのりは、うまく説明できないけれどとても大事な役割。家のお手伝いさんも含めて「使用人たちの目」みたいなのがなかなかに怖い。そしてラストのあれにはびっくりである。
そんなわけで。すごく好きな、心に残りそうな一本でした。大林作品、どう転んでもなかなかハズレに当たらなくて、どんどん観てしまいます。むしろそろそろハズレに当たって安心したい。相性良すぎるのも心配になる……。
(2020年73本目/PrimeVideo)
- 発売日: 2019/02/13
- メディア: Blu-ray
追記:このインタビューがとてもよかった…。