是枝裕和監督作品「歩いても 歩いても(2008)」雑感|希林さんのおかげで俄然明るくなった是枝作品
是枝裕和監督の作品履修を『誰も知らない(2004)』から再開したはいいものの、早速その次の『花よりもなほ(2006)』が一切配信されていないという壁にぶち当たりました(笑) 配信時代のこのもどかしさはなんとも言いがたい。そんなわけでいきなり飛ばして、2008年の『歩いても 歩いても』を鑑賞です。
出演は樹木希林、原田芳雄、阿部寛、夏川結衣、YOUほか。希林さんは本作が是枝作品初出演でしょうか。『歩いても 歩いても』というタイトルは、劇中にも登場する『ブルー・ライト・ヨコハマ』の歌詞から取られています。
さて、ここまで基本的に「かなり暗い」印象の強かった是枝映画ですが、本作は一転して比較的明るい、風通しのいいホームドラマとなりました。気乗りのしない里帰り、父と息子のヒリついた関係性、嫁の気苦労。どこかで見たような、と思ったらこれそのまんま『真実(2019)』じゃないですか。是枝作品のライトサイド(要素は暗いけど)の系譜ですね。
この「明るさ」を出しているのは間違いなく樹木希林さんの存在でしょう。もともと作り込まれた会話劇的な脚本ではあると思われますが、もはや希林さんを中心とした役者たちのアンサンブルを楽しむのみ!の映画に仕上がっております。生け花を見て「お義母さん、何流なんでしたっけ」「自己流よお」なんて超絶どうでもいい会話だけで可笑しい。やっぱりわたしは台詞の多い映画が好きだなあと。
監督の著書『映画を撮りながら考えたこと』によれば、本作の撮影にあたり成瀬巳喜男作品を参考にしたとのことですが、高台から望む海沿いの町と鉄道、というロケーションはむしろ小津監督の『東京物語(1953)』や大林映画における尾道のような印象を受けました。是枝監督はあまり言及しないものの尾道巡礼をする程度には大林作品にハマっていた若き頃があったようで(大林監督の著書『キネマの玉手箱』あとがきより)、劇中のああいった風景はそのへんにルーツがあってくれたらいいな、などと思っている2世代目大林チルドレンです。
(2020年167本目/PrimeVideo)
- 発売日: 2018/05/25
- メディア: Blu-ray