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映画「ベルファスト(2021)」感想|ポップで温かい、血が通った“最新型”の白黒映画。

先日のアカデミー賞(こんなところでなんですが濱口竜介監督、国際長編映画賞おめでとうございます!)では7部門ノミネート、うち脚本賞を監督のケネス・ブラナーが受賞した映画ベルファストを観てきました。


映画「ベルファスト」ポスター
映画「ベルファスト」ポスター


ベルファストと言ったら『ゲーム・オブ・スローンズ』のロケ地でしたっけくらいの偏った認識かつ、なんか地味な白黒映画っぽいなーといまひとつ食指が動かなかったのですが(あなた『ROMA/ローマ』好きだったでしょ)(ひとつ前に超お気に入りテンションで書いてる『春原さんのうた』も超地味な映画やぞ)、いざ観てみたらすっごいよかったです。はい、まあ大抵そんなもんです。

未見の方向けにちょっと書いておくと、本作は監督・脚本ケネス・ブラナーの自伝的作品ということで映画やテレビをはじめとした1969年当時のエンタメ作品が多数出てきますので『ニュー・シネマ・パラダイス(1988)』的物語としても楽しめます。また、主人公の少年バディを演じるジュード・ヒル君がまあかわいい。全体のテイスト的にも、『ジョジョ・ラビット(2019)』などお好きな方は絶対好きだと思います。時代背景は決して穏やかではありませんが「子供目線」でライトに見ることができます、お気軽にどうぞ。


さてまず、これ特大ネタバレですけど「カラーなの?!」っていう驚きですよね。最初にタイトル出ててもなお、ちょっとキョロキョロしちゃった。『子供はわかってあげない(2021)』以来の戸惑い。あとなんか、曲の「Uh---」だか「Ah---」だかにいきなり合わせてくる「顔のアート」とかね、あ、これ案外ポップだな、少なくとも地味な映画ではなさそうだな?と思わせてくれる楽しいタイトルバックでした。

そしてスムーズに、ちょっと『フレンチ・ディスパッチ(2021)』なども連想させるような感じで白黒世界へ移行。そこからの本編オープニングがもう最高の掴み。小さな町に飛び交う「ごはんよー!」「ごはんだってよー!」。ここいら地域一帯が家族みたいなもんなんだと一瞬で伝わってくる引き込み力、ザ・多幸感。これがミュージカルだったら『美女と野獣』の「朝の風景」ってとこでしょうか。

しかしそんな多幸感にもいきなり影が。それも特大の影が。普通に考えたらあまりに凄惨なシーンなのですけど、意外やケロッと「それでも生活は続く」。実際には厳しい状況下にあるベルファストの町が、一連のオープニングで最大限魅力的に「離れがたい町」として描かれることで、のちの展開と「躊躇」に観客もしっかり感情移入できるようになっています。「電話とギネスとダニーボーイがあればいい」、そう言ってくれるような仲間がいるからこそ悩むよね。

ベルファストの町や人々を温かく切り取る白黒映像は、地味どころか惚れ惚れする美しさです。白黒だからこその温かさというのもあるだろうし、ところどころ「色味」が入ってくるのも素敵でした。さらに、これ気のせいではないと思うのですが、後半バスの中でシビアな話をするシーンなど、「目」の毛細血管には赤みがかかっていたりして。こんなパートカラーの使い方初めて見た!と。勘違いだったら恥ずかしい。いや、でも、確実に血が通っていたと思う。白黒映画の最新型って感じ。

先にも述べた通り、決して古き良き時代のお話ではありません。少年目線で見せつけられるのは、現在にも通じる「争うこと」のばかばかしさです。ただ同時に、少年目線では古き良き、いい時代の思い出な面も多分にあるのでしょう。第二次大戦下・広島の市井をほのぼのと見せる『この世界の片隅に(2016)』しかり、非常事態における尊い日常を描いた作品はいま特に、響いてくるものとなっています。

(2022年57本目/劇場鑑賞) 時代背景について詳しく知りたいな〜と思ったときに頼れるのは、やっぱり町山さんです。今回もラジオでかみくだいた解説をしてくださってました。助かる。

今回は「はみ出し雑感」割愛しとこうと思いつつ、でもちょっと言いたい。バディのママ、好きです。カトリーナ・バルフさん、フィルモグラフィ見たら『フォードvsフェラーリ(2019)』のあの奥さんだった! 自分でも忘れてたけど、わたし当時カトリーナ・バルフさんにベスト奥さん賞2020暫定一位差し上げてたよ。これでいよいよ殿堂入りかもしれない。どんだけ好きなんだ。