353log

主に映画の感想文を書いています

「フォードvsフェラーリ(2019)」雑感

f:id:threefivethree:20200112111744j:plain

え、そんなシンプルなタイトル、と予告で拍子抜けしてしまった『フォードvsフェラーリ観ました。慣れると硬派で格式高くすら思えてきました(チョロい)。なお原題も『Ford v Ferrari』です。

あらすじ

フォード社がまだセダンのイメージを持っていた1960年代半ば。ブランド戦略の一環として無謀にもカーレースへ参入することにしたフォードは、元レーサーで現カーデザイナーのキャロル・シェルビーマット・デイモンに協力を仰ぐ。そしてシェルビーは知る限りの敏腕レーサー、ケン・マイルズクリスチャン・ベールをドライバーに選任する。気性の荒いマイルズを会社は疎ましく思うが、このミッションを達成できるのは彼しかいないとシェルビーが都度説き伏せ、ル・マン24時間耐久レースに臨む。

時は少し戻り、当時ル・マンで敵無しだったフェラーリ社は、しかし財政が苦しかった。その難を救済し、かつ技術力を買おうと狙ったフォード社はフェラーリに買収交渉をするが、決裂。シェルビーに声をかけることとなる。こうして犬猿の仲となったフォードとフェラーリ、1966年のル・マンは2社が決着をつける場ともなった。

雑感

とても面白かったです、いい映画でした。車やレースに特別興味があるわけではないのですが、以前観た同ジャンルの作品『ラッシュ/プライドと友情(2013)』が良かったので今回も観てみようと思った感じです。ちなみに『ラッシュ』は本作より10年後、1976年のF1世界選手権を主な舞台に、スターレーサーのジェームズ・ハントニキ・ラウダを描いた映画。

どちらも実話ベースの作品で、共通して言えることは「車やレースのことを知らなくても十二分に楽しめる!」ですね。例えばショウビズ界を舞台にした物語などと違って、出てくる用語や名前がことごとく分からないので、冒頭からしばらくは状況が掴めないわけです。大丈夫かな〜これ〜と不安に思いつつ、数十分が経過して「把握したぞ!」と思った頃にはすっかり没入しているという、麻酔の効きみたいな。なのでどなた様でも美味しく召し上がれます。

ドラマ映画とカーアクション映画、どの面から切っても非常にクオリティが高い作品で、ドラマ面ではまずマット・デイモン演じるシェルビーとクリスチャン・ベール演じるマイルズの友情・信頼の物語であり、また家族を描いた物語でもあります。マイルズと息子ピーターの父子がとっても良かったです。夕暮れの滑走路でのシーンとか、あまりにも美しい。しかもわたしが観た時、映画館で隣の席に父子が座ってたんですよ。上映前にスマホで予告編見せて予習してたりして。スクリーンに涙しながら左隣を思ってさらに涙するという感動の4DXみたいなことをしてしまいました、はい。

あと特筆すべきは奥さんです。ベスト奥さん賞2020、先日『パラサイト 半地下の家族』からチョ・ヨジョンさんが早速ノミネートされたところですが、今回、クリスチャン・ベールの奥さんモリーを演じるカトリーナ・バルフさんもノミネート、そして暫定一位となりました。映画史上最高レベルの奥様なのでぜひご覧くださいと力説したいです。ていうかもうトロフィーあげます。シェルビーとマイルズが取っ組み合いの喧嘩をしてるシーンで受賞されました。おめでとうございます。

カーアクション映画としてはもう、めちゃアツですね。手に汗握りまくるし、うまいことにそのタイミングが映画の中とも一致してるんです。こっちの拳に力が入ると、あっちでピーター少年がラジオをぎゅっと握りしめている。だよね!握るよね! やっぱりこういう、作り手と観客側の温度差がないものが「いい映画」なのでしょう。レース中は結構王道のレーシングゲーム的な音楽がかかるのですが、そのマッチングも最高。ギアチェンジと踏み込みと音楽のコンビネーションが神懸かり的なところがどこかで一度あって、ブチ上がりましたね。『ワイルド・スピード』シリーズがお好きならマストですね。

速さの表現も巧みでした。なんせ最高時速300キロで走ったりする「車」なわけですよ。駅伝とかと同じで、引きで見てるぶんにはその速さをさほど実感できないけどじつは…というやつ、つまりめっちゃ速いってことですよね。それを一度観客にも体験させておこうということで代表して助手席に乗せられたのが、フォード社の社長ヘンリー・フォード2世。ハイリスク尿リターンと名付けたあのシーン、めっちゃくちゃ笑ったし、怖さ、凄さ、伝わりました。OK、心して見守ります。と気を改めてからの66年ル・マン。なにせ24時間走りっぱのレースを、プロダクションノートによれば「映画の終盤40分は主にこのレース」とのことでかなり圧縮率低めで見せてくれるパート。圧巻。

数分で一周できるようなコース(このコースは全てオープンセットで作ったらしい)をひたすら走り続けるという気の遠くなるようなレースですが、コース脇の時計が常に見えていることで、16時からスタートして、うわまだこれしか経ってないよ、うわまだこんなに残ってるよという疲労感を疑似体験。こちらもだんだんドライバーズハイになってきます。そういえば印象的だったのがスタート方式。ル・マンのスタートダッシュは本当に「走る」のね、っていう。「ル・マン式スタート」と呼ぶらしく、危ないのでこの数年後に廃止されたそうです。

淡々と走り続けるなかで、日が暮れ、真夜中になり、雨が降り、ここにきて上層部の余計な口出しが入り、と疲労はマックスなわけですが(とはいえ悪人キャラがひとりしかいないのは精神衛生上とても良い)、最高時速を出せるロングストレートで無の領域に達したマイルズが「ふむ、そうだな…」と下した判断、涙ダバーッでした。ベスト減速賞。そこからのほろ苦いエンディングもまた良きかな、です。実話だから仕方ない。あのね、最後のテストドライブで、気持ち良さそうな広大なコースを白いフォードが走っていくじゃないですか。あれが『ワイルド・スピード SKY MISSION(2015)』のラストシーンを彷彿とさせたんですよね。と思ったら、ですよ。もはや白いスポーツカーがパブロフの犬ですよ。

というわけで、いざ書いてみると思った以上にアツい映画だったことが分かりました。おすすめです。ぜひ映画館の前方ど真ん中でかぶりつくように観てください。

(2020年6本目/劇場鑑賞) 公式サイト、読み物が充実してます。Wikipediaでは、ざっと読んでみたところシェルビーの会社「シェルビー・アメリカン」のページがマイルズのことも含めて内容濃かったです。あの空港みたいなところは本当に空港の敷地を買い取ったものだったんですね。シェルビーが飛行機操縦するとこ楽しかったなあ。まだまだ書きたいことが溢れてきた…。