353log

主に映画の感想文を書いています

尾道探訪記【1日目② 大林映画の世界に迷い込む 〜転校生の階段、時かけのタイル小路〜】

ゆっくりじっくり尾道探訪記、2本目です。前回の記事はこちら。

憧れの尾道をひたすら歩き回り、大林宣彦監督作品の世界に迷い込んでゆきます。作品ごとに巡っているわけでも作品ごとにまとめているわけでもないのでごちゃ混ぜですが、エリア的には比較的近いあたりでまとめてあります。

今回登場するのは--

わりと地味です。ではどうぞ。

「あの」時計?

宿に荷物を預け、カメラバッグのみの身軽な装備でいよいよ尾道を歩く。まずは宿にほど近いところから、かつメジャーなところから向かうことにする。尾道三部作のはじまり、『転校生(1982)』のあの階段へ行こう。

とその前に、『時をかける少女(1983)』にまつわる時計店が現れる。芳山和子が時をかけるときに逆回転する、あの時計がある店。地味すぎてぎょっとするほど、かなり味気なく存在する。

2階に手作りの巨大な(窓ほどの大きさの)文字盤がついている。
時計はおそらく止まっている(実際には14時半ごろ)。

ただし劇中に登場する時計店とは別物らしく(実際のロケ地は竹原市にあるらしい)、またこの巨大な文字盤も、映画スタッフが作った物だとか撮影後に塗り替えているとか諸説あり。有名なスポットとされているものの、後追いファン的には厳密な関連度がいまいち分からない。イメージソングぐらいの存在と思ってよろしいか。

『転校生』の階段

あらかじめ仕込んでおいたGoogleMapを頼りに、細い路地に入る。鳥居へと向かう曲がりくねった階段に胸が高鳴り、その先に見える門はおそらくあの門に違いないと緊張が走る。わたしはこういうとき、つまり「この角を曲がったらあの風景がそこにあるはず」みたいなご対面のシチュエーションにおいて、とても緊張するたちだ。

御袖天満宮参道へと続く細い路地。
尾道の路地へ、初めて踏み込む。

鳥居へと向かう長い階段。
尾道の階段を、初めて上っていく。

階段の先に、どっしりとした門が上半分ほど見えている。
おそらくは知っている「あの門」が見えてきた。

勾配のハードさに早くも息を切らしながら、じっくり距離を詰めていく。まだ尾道歩きは始まったばかりだが、滞在中はこんなアップダウンの連続かと思うと、ボルタレンローションを持参し忘れたことが痛い。

そんな雑念も抱きつつ、上りきって振り返る。ここだ。間違いなく、あの門と、あの石段だ。『転校生』で斉藤一夫と斉藤一美が抱き合って転げ落ち、入れ替わったあそこである。

長い石段を上りきった眼下に、入ってきた門が見える。
撮影当時と全く変わらぬ姿。

正式名称は御袖天満宮尾道の「大林宣彦的」観光名所としては上位のスポットだと思うのだが、どこかで遊ぶ子供たちの声が聞こえるのみで、驚くほどに観光客はいなかった。ただひたすらに静かな、穏やかな空気が流れていた。よく晴れた土曜日の昼下がり、決して人のまばらな条件ではないはずだが、これが尾道かと、幸せな気持ちになった。

深緑の茂る境内。
静かな境内。
ラスト、身体を取り戻した一美は奥の階段から帰っていく。

上りきった先に拝殿の屋根がちらりと見える。
転げ落ちた石段を下から見上げる。
かなり急で、入れ替わるどころではない。

「おのみちロケ地案内図(尾道三部作編)」のイラストマップには監督の字で「立小便は映画の中だけのもの……」と書いてあった。劇中の立小便は不思議と感動的なシーンなのだが、それはそれ。当時は聖地排尿をする不届き者がそこそこいたのかもしれない。

落ち着きなく階段を上り下りしたり、最下段で倒れ込んだ目線になってみたり、ひとしきり楽しんだのち、そのまま周辺を巡っていく。尾道といえば墓だ。いたって普通な顔をして墓がそのへんにあるし、禍々しい感じもしない。いい感じの墓地を何気なく撮る。

墓石がひしめく墓地の向こうに、社殿の大きな瓦屋根。
墓地と屋根のバランスが美しい。

帰ってきてから『転校生』を観直していて驚いたのだが、この場所(福善寺)はずばりこのアングルで『転校生』に登場する。斉藤一夫が「殺した」斉藤一美のおばあちゃんは、この墓地に眠っているのだ。同じ墓石も見つけることができた。ちなみに『東京物語(1953)』でも使われているらしい。

時かけ』のタイル小路

さて、資料によれば『時をかける少女』の「タイル小路」もこのあたりにあるはず。カランコロンと下駄で駆けてきた芳山和子が何者かに襲われるシーン、きらきら光るタイルが印象的だ。しかし、どうもそんな小路はありそうにない。

縦横無尽に歩き回っていると、わずかながら、化石レベルのタイルが目に入った。

地面に埋め込まれた、小さめのタイルたち。
おや? もしかして。

追ってみると、確かにタイルが敷かれた小路といえば小路のようなものが(想像より遥かに荒んだものが)あった。こんなところを通ってもいいのだろうかと思いながら一応通り抜け、一応写真も撮った。

ちらほらと埋められたタイル。雑草と、室外機。
小路といえば小路。

整然と並べられた、長方形のカラフルなタイルたち。きれいなカッティングの施された菱形のタイルも印象的。
奥に進むと、それなりに敷き詰められてはいる。

そしてやはり帰ってきてから『時をかける少女』を観直す。カランコロンと芳山和子が駆けてくる。またしても驚いた。知った上で見れば、間違いなくあの「こんなところ」を彼女は通り抜けていた。あそこに……原田知世がいたのか……。現地ではあまり思うところがなかったが後から謎の感慨が湧いてくる、マニアックなスポットであった。

平たい小石のようなタイルたちが並び、青々と葉が茂る。
なんにせよタイル自体は撮影当時のものではないらしい。
現在の姿はあくまで「跡地」と言える。

なお、このあたりの民家の壁に、大林監督から観光客へのメッセージが貼ってあった。

監督直筆のメッセージ(のおそらく縮小コピー)がラミネートされて民家の壁に貼ってある。
最初にこのメッセージを読めてよかった。

「ゆっくり、ゆっくり、お行儀よく、この町を旅して下さい。」--身が引き締まる。尾道の山側はとにかく曲がりくねった細い道、密接した家屋、いつの間にか私有地に侵入していそうな場所ばかりなのである。気をつけねばならない。

さて、この調子でやっていたらいつまでかかるのだろう。まだまだ序盤、しかし一旦ここまで。次回「あの歩道橋」などを見に行く。 というか「あの歩道橋」だけの話となった。