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映画「子供はわかってあげない(2021)」感想|あんまりわかってあげられなかった感想

現在公開中の映画子供はわかってあげないを観てきました。

横道世之介(2013)』『おらおらでひとりいぐも(2020)』などの沖田修一監督作品ということで、この2作がとても気に入ったわたしとしては期待値をかなり上げていたのですが、ツボとか好みってなかなかシビアだなあと思ったりした次第。つまり、ちょっと合わなかったな〜寄りの感想となっております。


映画「子供はわかってあげない」ポスター
映画「子供はわかってあげない」ポスター


さて本作、オープニングが非常にざわつきます。映画間違えたか?!と本気で思った。なんていうか、普通にクオリティの高いアニメが始まるんです。しかも「これは劇中劇演出……ではないのかも……??」と不安になるくらい長くやる。でもまあなんか妙に『まどマギ』っぽいし諸々脈絡不明なので多分劇中劇だろうと自分に言い聞かせ、ようやく上白石萌歌さんが大写しになった瞬間の安堵よ。ただでさえトリュフォーと取り違えるような映画なのにこれ以上の撹乱はやめてほしい。

待望の実写パートに入ると、今度はまた定点観測の時間が長い長い。そうでした、沖田監督は長回しが長いことで有名なのでした。魔法少女系アニメのエンディングダンスをテレビの前で一緒に踊る父娘とかいうまたなんとも不自然な描き方を、と思ったらなるほど、そういう事情でしたか。ゆるゆる日常系と見せかけて、そこそこ重いテーマがありそうなこと了解です。

期待値は依然高いまま観続けておりますが、水泳部顧問のキャラあたりでいやな予感。ううん、今回の作品は、特に笑いのツボが合わないかも、なっ。田島列島さんによる同名コミックが原作とのことで、未読ですけども多分コミックだとしっくりくる笑いやキャラ付けなんだろうなと想像します。


よかった部分もあるので、先にマイナスなほうの感想を書いておきましょうね。まず、どうやらわたしフィクション作品内において「架空のアニメキャラでオタク的に盛り上がられるの苦手」らしいです。サブイボ立っちゃう。あとは、法を冒しながら美談っぽくされるのもすごく嫌。今回なら、そう、酒ですね。

で、これ最近『サイダーのように言葉が湧き上がる(2021)』でも同じような感想を抱きました。やはり導入部で架空のアニメキャラが祭り上げられ、落書きという違法行為を美談とする。最後の最後で「落書きは違法です」「未成年の飲酒は違法です」と興醒めな断りを出すくらいなら、違法じゃないことで美しく語ってほしいものです。お父さんが美波に「水だよ」って耳打ちするだけでも全然違ってくる。新興宗教と水なんて結びつき強いんだしさ。

「お父さん」を出したついでに脱線すると、高校生なりの全財産をはたいてまで実父に会いたいと思うようになる心の動きがいまひとつ描写不足だった気がします。いや、本人も多分最初は単なる好奇心だったんだと思うのだけど、単なる好奇心であんな全財産注ぎ込むかな。まあ自分でも理解不能な感情だったんだろうな……。そっか……。

あとは細かいところで、ちょいちょい小学生レベルのシモに走るところがなんとなく嫌だなとか、千葉ちゃんのトランス女性役はすごく美人で良かったけどでも『トランスジェンダーとハリウッド』を観たあとだと複雑なんだよなとか、もじくんがトレンディにチュクチューンするとこはいくらなんでもダサいだろとか(かっこよくある必要もないけど)いろいろ肯定的ではない目で見てしまった箇所が多かったです、はい。


ではいいところ! 一番お見事!と思ったのは「書こうとしている文字が察せる」演出ですね。「暗殺」と「もじくん」の2箇所。前者はほぼほぼ半紙が見えない角度、後者はモップの動きしか見えない角度。でも間違いなくそれを書いていると確信できる流れ。「名前を書くと出てくる」のパターンもファンタジーみが強くて好きでした。

なんだかんだお父さんの家に長居してしまうくだりの「夏休み感」もすごくよかった。縁側で昼寝したい、と心から思いました。わたしあんまり田舎暮らしとか、そもそも昼寝とか好きじゃないんですけど、この映画を観ている間だけはモードがすっかりスローライフに。手作りの美味しいご飯も恋しくなって、観終わった足でそのまま大戸屋へ入りました。

それからトヨエツ。前日に『鳩の撃退法(2021)』でヤクザなトヨエツを見ていたばかりだったので、今作での振り幅には驚かされましたね。こんな役も来るのか〜〜。振り幅狭いほうで言えば、品川徹さんも出番は少ないながら持ち前の「佇まい」だけでインパクト大。「もじくんです」知ってた。

ピュアすぎるラストは、やはりどこか似ている『サイダーのように〜』よりも気恥ずかしかったかな。できればああいうシーン、寸止めしてほしいタイプなので。屋上に駆け上がって終わってほしい。何度でも何度でも言うけど『君の名は。(2016)』は電車がすれ違ったところで終わってくれていい。みなまで言うてくれるな(そのくせ『サイダー』はみなまで言うところが気に入っていたのだけど)。

良くも悪くもスピーディではない間延びした編集が沖田監督作品の特徴らしいですが、『横道世之介』がもう間延びでもなんでもいいからこの世界にずっと居させてくれと感じたのに対し本作は「まだ終わんないのかな」となってしまった。そして同じ感想を『横道世之介』で持った人も当然いる。映画の好みとは、シビアです……。

(2021年146本目/劇場鑑賞)

いま初めて予告見たんですけど、すごい面白そう。そして実際間違ってない、全然予告編詐欺ではない。これを見ていれば突然のアニメに困惑することもなく、大筋も分かってるからすんなり楽しめそう。多分この映画、予告見てから観たほうがいいやつ。ていうかやっぱり映画は2回以上観ないといけないんだろうな。わかってるんだけど生き急ぐわたしは初見の印象でどうしても判断してしまうよ。反省してます。