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「ジョジョ・ラビット(2019)」雑感

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『マイティー・ソー バトルロイヤル(2017)』のタイカ・ワイティティ監督最新作ジョジョ・ラビット』鑑賞しました。出演はスカーレット・ヨハンソンサム・ロックウェル、主人公のジョジョ少年には映画初出演のローマン・グリフィン・デイヴィス、ほか。

あらすじ

第二次大戦下のドイツ。子供心にヒトラーナチスが大好きな10歳の少年ジョジョは、母親が家にユダヤ人の少女をかくまっていることを知り動揺する。“愛国心”から密告したところで自分も母も処罰されてしまうのは明白なため、ある条件をつけて見逃してやるジョジョ。その条件は「ユダヤ人の秘密を教えろ」というものだった。

こうして彼は憎っくきユダヤ人の秘密を、そしてそれが自分と何ら変わらぬ人間であるらしいことに気付いていく。

「広めるべきはヘイトじゃない。愛と寛容だ」

タイカ・ワイティティ監督自らヒトラーを演じるという、それだけ聞くと物議を醸しそうなナチスもの映画。ただしこのヒトラーはあくまで主人公ジョジョ少年の「空想上のお友達」で、実際のヒトラー役ではありません。そしてこの映画自体も全体の印象としては非常にハートウォーミングなコメディ作品と言えるでしょう。

108分というコンパクトな尺も相まって、観終わったときには「いい映画を観た」というほっこりした感情を抱けること必至の本作ですが、その実はかなり残酷な内容を扱ったものでもあります。こういうタイプのナチス映画は珍しいんじゃないでしょうか。

「人類史上最も暴力的で無秩序な時代を妙なコメディにしたいわけじゃない。下手をすれば"戦争を笑いのネタにした"と思われる。コメディに埋もれさせず物語や大切なメッセージを前面に押し出した。"広めるべきはヘイトじゃない。愛と寛容だ"」

「広めるべきはヘイトじゃない。愛と寛容だ」 監督・脚本・空想上のアドルフも務めたワイティティが込めた希望に 名演で応える豪華キャスト陣のコメント満載!特別映像解禁! - ニュース|映画『ジョジョ・ラビット』公式サイト

公式サイト(NEWSの頁がさりげなく充実しており必読)で紹介されていた監督のこの言葉がとても印象的でした。思わず顔が緩んでしまうハートフルコメディであると同時に、例えばあの「靴」や最後の銃声など鮮烈に残るシーンがあり、でもやはり同時に「ユダヤ人とか関係ないよ」というぽっちゃりメガネ少年の笑顔も温かく残る、絶妙な塩梅の作品でした。

とにかくトータルで言えば温かい物語なので、予告を観て「おもしろそう」という印象を持ったなら、『マイティ・ソー バトルロイヤル』『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(2014)』などタイカ・ワイティティ作品がお好きならなおのこと、期待通りに楽しめる映画だと思います。

今あらためて予告を観ても「おもしろそう!」と思っちゃいました。監督の作品は予告編からして面白いし、実際観てもそれを裏切らないのがすごい。

眼福な豪華キャスト

本作なかなかキャストが豪華なのですが、先にまずは主人公ジョジョを演じる、そしてなんとこれが初の演技仕事という驚愕の天才少年ローマン・グリフィン・デイヴィスくん12歳。既にキャリアを重ねてるタイプの子役かと思ったら、末恐ろしや…。彼のいいところは特に「目」でしょうか。ウサギのようだと揶揄される弱虫キャラなのだけど、意地のある目がとても泣かせる。終盤、気を強く保って「ニンジンを漁る」伏線回収もよい。

幼い子が車や電車をこよなく愛するように「ヒトラーの大ファン!」という無垢な少年とその揺れ動きをなんの違和感もなく演じきっていて、今後のキャリアにも注目せざるを得ません。

そんなジョジョ少年と運命的?な出会いを果たす屋根裏の住人エルサを演じるのは、トーマシー・マッケンジーさん19歳。ユダヤ人少女というと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984』のジェニファー・神・コネリー様を真っ先に思い浮かべるわけですが、それに通じるような強さを持った見下し型ヒロイン。至高です。

ときに『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け(2019)』終盤の◯◯シーン、世の中では賛否両論飛び交っておりますね。わたしは肯定派なんですが、本作のエルサとジョジョの関係を見ていたら、いやはや、こっちの選択もいいなあと。そういうとこだぞ!って気持ちは分かるわ、と。◯◯しそうでしない、って話です(ネタバレに配慮して何も伝わらない例)。

あと、彼女のシーンで印象的だったのは「ハイル・ヒトラー」のとこですかね。先日観たばかりの『ブラック・クランズマン(2018)』でアダム・ドライバー扮するユダヤ人警官が潜入先にて「ユダ公dis」をしなきゃならなかったあのシーンを思い出しました。

続きまして、ジョジョの母親でありエルサをかくまっていた、本作で最も強い女性スカーレット・ヨハンソン。いやあ…素晴らしかった。スカヨハさんはそれこそ『マリッジ・ストーリー(2019)』に引き続きの母親役(加えてどちらも実質シングルマザー)ということになるのですが、母親役がめちゃくちゃハマるんですね。MCUをはじめとするいわゆる大作映画での無機質な役柄のほうが印象に強かったので、意外でした。

本作では特にコメディエンヌの才能が発揮されていて、なかでも顔に炭をべったり塗ってジョジョの父親に扮するシーンは名作『イースター・パレード(1948)』でアステアと浮浪者ダンスをするジュディ・ガーランドに見えたりして、あらためて往年の名女優の風格があるルックスだなとも思ったのでした。

この母親役は多くこそ語られないものの深みのあるキャラクターとなっていて、表面上がとても明るく気丈なだけに、描かれていない部分を見たくなってしまいます。『ブラック・ウィドウ』もいいですがスピンオフ『ロージー・ベッツラー』もお願いしたいところ。

母親としてナチス大好きっ子のジョジョを見守る反面、自分自身としては別の思想を持っている彼女。公式サイトのコラムによれば、ジョジョの属する青少年組織ヒトラーユーゲントでは「子供たちに両親を無視するように告げ、『彼らの言うことなど聞くな。我々の言うことだけを聞くように。両親が我々と違うことを言ったり、我々のことを批判するようなことがあれば、密告せよ。そうすれば処置する』と言」っていたそう。そんな背景を知ると、アットホームな光景も違って見えてきます。ただ、そうでなくとも靴の伏線は大変ショッキングで、一見ハートフルな描き方でもナチス映画は成立するということが分かります。

豪華キャストとしては他に、ヒトラーユーゲントの指揮官クレンツェンドルフ大尉を演じるサム・ロックウェル! 日本では同週公開の『リチャード・ジュエル』にも出演しており売れてます。相変わらず魅力的なお顔で、っていうか単に好きなだけですが。眼福でした。スカヨハさんに背後から一発入れられるシーンも最高。あの時に大尉がおそらくアップル・シュトゥルーデルを食べていると思われるのも、『イングロリアス・バスターズ(2009)』を連想してようござんした。

楽しみにしていた『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズのシオン・グレイジョイことアルフィー・アレン(さりげなくポスターでも真ん中にいる)は、大尉の付き人?的なチョイ役をシュールにこなしてました。出番は少なくてもあの個性的な顔はちょっと映るだけで満足感あります。「キャプテン、フゥ〜〜〜!!!」みたいな初登場シーンが笑えたし、スク水みたいなシーンも好き。なにあれ。

ジョジョの唯一の親友ヨーキーを演じるアーチー・イェーツくんもよかったですね! トムホスパイディのお友達感。なんでもリブート版『ホーム・アローン』で主役をつとめることになったとか。観たい! 彼の「ユダヤ人とか関係ないよ」というセリフがなんだかんだジョジョ少年差し置いて作品をまとめ上げていたので、ベスト助演賞差し上げたいと思います。

うっかり書き忘れそうでしたがタイカ・ワイティティ監督本人によるアドルフ・ヒトラー役も流石の仕上がりでした。窓から出てくのうける。監督は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』でも主演を張っていてとても面白いので未見の方はぜひ。

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(字幕版)

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(字幕版)

  • 発売日: 2015/06/03
  • メディア: Prime Video

あとはなんでしょ、20世紀FOX(サーチライト)のドラムが…!っていうオープニングとか、ビートルズのドイツ語版とかあったんだ!とか、全体的に望遠レンズが多用されている感じの、パースの付いていないアート的な絵作りとか、奇しくも「逆パラサイト」じゃん!みたいな(これ以上言えない)面白さとか、108分のなかに楽しいこと印象的なことてんこ盛りでございました。当然おすすめです。

(2020年10本目/劇場鑑賞)