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映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に(2019)」雑感|広島原爆投下から75年の日に

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広島原爆投下から75年の日、片渕須直監督によるアニメーション映画作品『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観ました。2016年に大ヒットを記録した『この世界の片隅に』に約40分の新たなシーンを追加した、アナザーバージョンの作品です。8月5日よりダウンロード型動画販売サービスでの取り扱いが始まっています。

2016年のオリジナル版は当時劇場で観たのですが、どうしようってくらい嗚咽してた記憶があって、それゆえ一種のトラウマ映画として記憶していたくらいです。とにかく泣いたのでもう観たくない、という(笑)

当時は、正直なところ戦争の歴史というものにあまり関心がありませんでした。今ほど映画を趣味の中心に置いていたわけでもなく、映画からいろんなことを学んでいく以前の段階だったと思います。わたしがそのへんのことに興味を持てるようになったのは恥ずかしながら本当に最近です。太平洋戦争に関連する本を偶然いくつか読んだことや、一貫して戦争のことを語ってきた故・大林宣彦監督の影響などを大きく受け、遅まきながら考え始めました。

本作、超ざっくりのあらすじは、広島の呉に嫁いできたハタチくらいの娘“すずさん”がのほほんと暮らすなかで1945年8月6日を迎えてしまうお話です。戦時下だろうとそれぞれに日々の暮らしがあったんだよ、というのが大筋ですが、この長尺版では主にすずさんの描写を掘り下げることで、のほほんとしているだけではない彼女の内面がより垣間見えるようになっています。

オリジナル版を観たときからすごく印象に残っているのが、生と性の描き方。頭身低めのキャラデザでほんわかとしているのに、キスをする、夜の営みがある、幼馴染と一線を超えそうになる、欲望が口から飛び出る。今回改めて観て、やはりそこが本作最大のギャップであり魅力だなあと思いました。このタッチのアニメでこの描写は、なかなかないでしょう。生きてるって感じです。

長尺版ではリンさんという遊郭の娘がクローズアップされることですずさんが内面を吐露する場面が増え、もとからあったシーンも違う見え方をするようになっていたりします。すずさんが女性としてそんな葛藤を抱えていたのか……とか、そんなことがあってからのあのシーンだったのか……とか、孤児を引き取ることにした終盤のくだりもただ晴美ちゃんの代わり的な印象だったのが全然違って見えたりとか。行間を足すと、同じ物語でもだいぶ変わるのですね。

そんなふうに個人の描写がより充実したぶん、爆撃機からの俯瞰ショットにフレームインする「逃げ惑うすずさん」がただの白い丸にしか見えなかったのはすごくいやな気持ちでした。もちろんこれは監督の意図どおりです。

あんな不意打ちで来るんだったっけと驚いてしまったのが、原爆投下のシーン。左上に出る日付も逐一見ていたつもりだったのに、もしかして8月6日だけ出てなかった……? 観直してみたら、7月28日まで出ていてその次は「その9日後」。なるほど、これが油断か。空襲警報発令、解除。発令、解除。そんな日々が当たり前になって、特別なんとも思わなくなった頃にピカッ。ああ、リアルだなあ……。あと、光った何秒か後に衝撃波が来るじゃないですか。奇しくもレバノンの爆発事件の映像をいくつも見たあとだったので、その感じも非常にリアルだったりしました。

まあレバノンの事件はあまりにタイムリーすぎるかもですが、そうでなくともコロナ禍で「緊急事態宣言」であるとか「外出自粛要請」であるとかそんなものがひどくありふれたワードになってしまった今、2016年に観るよりも身につまされる部分は確実にありました。大林宣彦監督は現代のことを戦後ではなく「戦前」だと言い表しています。この半年ほどで、多くの人がその表現に大きく頷けるようになってしまったのではないかと思います。

と大林監督の名前で終わるのもなんなので、あらためてこの作品、アニメーション作品としてもトータルで素晴らしい作品でした。優しい絵、優しい音、そのなかに見せるエグみ。なにより“すずさん”というキャラクターを超、超、超魅力的に具現化させている能年玲奈=のんさんが本当にすごいなあと再確認した次第です。「しみじみニヤニヤしとるんじゃ!」が大好きです。

(2020年126本目/U-NEXT) 各種配信サービスにて2,500円程度で購入視聴できます。U-NEXTは月額が高いぶんポイントを利用できるのでこういう時いいですね。

日本の戦争映画 (文春新書)

日本の戦争映画 (文春新書)

トラウマを振り払って今回観ることにした最終的なきっかけはこの本。「戦争映画の現在地」と題して、片渕須直監督と春日太一さんの対談が掲載されています。ちなみに今回はほとんど泣きませんでした。涙腺とはわからんものです。