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映画「ひまわり(1970)」感想|ウクライナで撮影された、図らずも再び厭戦を伝える名作。

ヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作『ひまわり』を観ました。ヘンリー・マンシーニによるテーマ曲はもとより大好きだったのですが映画は観たことがなく、これが初見です。


映画「ひまわり」50周年HDレストア版ポスター
映画「ひまわり」50周年HDレストア版ポスター


風にそよぐ一面のひまわり畑から始まりそして終わるこの映画、2020年には公開50周年を記念したHDレストア版が公開されています。しかし今再び注目を集めているそうで、その理由は、この印象的な「ひまわり畑」がウクライナで撮影されているということ。



ひまわりはウクライナの国花で、また今現在わたしたちが毎日のように見ている黄色と青の国旗も「ひまわり畑と青空」がモチーフのひとつになっているのだとか(小麦畑と青空、が主流のようですが)。やけにシンプルな国旗だと思っていたものが、そう言われてみると違って見えてきます。加えてこの壮観なひまわり畑もただ美しいだけではないことが映画を観ると分かります。

物語の舞台は第二次大戦終結後。ソ連戦線に送られたきり戻らない夫アントニオを探し続ける妻ジョバンナと、彼女を待ち受ける悲哀の結末を描きます。メロドラマではあるもののテンポの良い編集が特徴で、ジョバンナの心境や世の中の空気感、時の流れなどを主演ソフィア・ローレンの風貌から一目で読み取れる演出も秀逸です。

印象的なシーンとしてはまず序盤の幸せな日々、卵24個の巨大オムレツに爆アガりするも次のコマでは「卵なんて一生食わねえ」と死んだ目している漫画感。なかでも卵の殻を腕まるごと使ってバスケットに放り込むシーンは、まるで昔読んだ絵本かのような懐かしさとときめきを感じさせる「初見にして名場面」でした。

そして悲哀のほう。レア・セドゥみたいな奥さんと出会って、駅でついに……、しかし汽車へ飛び乗り見知らぬ乗客の前で泣き崩れる。そこまで頑に気持ちを保っていたジョバンナの心が折れるシーン。正直ずっと彼女には感情移入できていなかったのが(あんまりにも仏頂面だし)ここで突然心に入ってくるっていうか、物語と受け手が合わさる転換点になっていたと思います。

それからマンシーニの音楽。嗚呼、これぞ映画音楽。

わたし幼少期から宮川泰さんの手掛けた『宇宙戦艦ヤマト』の劇伴を浴びて育ってきたのですが(書きかけで止まっている気まぐれ自叙伝に詳しい)、宮川泰さんが『ヤマト』に書かれた数々の泣きメロたちは今聴くと非常にマンシーニ的なのですよね。『ひまわり』のテーマ曲がたまらなく好きな理由はそれも大きそうです。

本当はもっとジャスト!な曲もあるのですけど、サブスクに全然入っていないのでとりあえずこれを。これはこれで、イントロから転調まで含めて分かりやすくオマージュしてる感あります。ハネケンのピアノで聴きたいなあ。

今回はU-NEXTで観ましたが、前述の理由により50周年HDレストア版が各所で劇場再公開もされているようです。上映の一部売上金は人道支援のための寄付に充てられるとのことで、タイミングが合いましたらぜひ。

(2022年58本目/U-NEXT)