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主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「その日のまえに(2008)」雑感

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配信されている大林作品を全て観る(ことに最終的になった)マラソン、ついにゴールです。なぜかHuluでしか配信されていないその日のまえにが最後の一本。珍しくウェットな内容と相まって、なかなか感動的なフィニッシュとなりました。ではでは、しゅっぴゃつしんこうです。

あらすじ

イラストレーターの夫・健太南原清隆と青空のように快活な妻・とし子永作博美、それに元気な子供たち。まさに理想の家族だが、とし子は余命宣告を受けており、来たる「その日」に向け支度をしていた。ある日とし子は最後になるかもしれない一時帰宅を使い、結婚したての頃に暮らしていた町を健太と訪れる。

雑感

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本作は大林映画にしては異例のウェットさを持つ、正攻法で泣かせてくるタイプの物語でした。「なんだかよくわからないけど涙が出ている」的な作品が大林映画には多いなか、これは目頭が熱くなるのも当然なストーリー展開となっています。それもそのはずで、重松清さんによる原作小説がとにかく「泣ける」ことで有名らしく、大林監督の奇抜な映画化手法をもってしてもその感触は据え置きとなったようです。

そう、正攻法と言ってもあくまで「大林作品比」。むしろぶっ飛び度で言えば当時トップクラスなのではと思わせる強烈なシーンが序盤からインサートされ、かなりの一見さんを振り落としたことでしょう。個人的には「あ、よかった(普通のドラマじゃなくて)」とにやにや安堵しましたけど(笑) もはや大林映画は、最初の悪印象からどれだけひっくり返されるか、丸め込まれるか、を楽しみにしているところがあります。

永作博美さんの演じる妻とし子は余命わずかながら生きることに喜びを見出し、かつ「その日」に向けて着々と支度をしています。大林監督最後の著書となった『キネマの玉手箱』という本を最近読んだのですが、ステージ4の肺がんを宣告されても悲観せず、その治療を楽しんでいるようにすら見える姿勢に驚かされました。永作さんの役は、はからずも10年くらい後の監督と重なっているなあと思いました。

キネマの玉手箱

キネマの玉手箱

  • 作者:大林宣彦
  • 発売日: 2020/04/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

次作からの通称「戦争三部作」への流れを感じさせるような要素も本作にはいろいろあって、特にびっくりしたのは花火大会のくだり。まさに『この空の花 長岡花火物語(2012)』へ繋がっていく花火と供養の関係性、そしてビジュアル。リアルタイムに追っていたら「あれっ、今度の新作、なんかどこかで見たような」と感じてたんじゃないかという気がします。

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先日『野のなななのか(2014)』の感想で、山下康介さんの劇伴が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984』あたりのモリコーネっぽい!と書きましたが、今回もやはり、メロウなテーマが一転ひょうきんなアレンジになるところなど、非常に思わせるところがあります(例:「Childhood Memories」1分ぐらいからの感じ)。

類似点はそれだけではなくて、終盤でとし子が化粧落としに感情をぶつける印象的なシーン。これ同じく『ワンス〜』終盤でヒロインのデボラが化粧落としをする、それを鏡越しにデ・ニーロが見ている、というやはり印象的なシーンがあるんですよね。音楽からインスパイアされたかは別として、オマージュなんじゃないかなあと。

毎度のごとく書きたいことが尽きない、安定の大林映画です。ナンチャンの俳優業もすごくよかったです。彼に泣かされたところが沢山ありました。泣かされ具合でいうと本作直近の『転校生-さよなら あなた-(2007)』とか、名作『異人たちとの夏(1988)』なんかに近いですかね。今日は泣きたいんだ……という夜に最適な一本です。ただ一応、「妙ちきりんな映画」度では「戦争三部作」寄りなので、“大林映画耐性”をある程度つけてからの鑑賞をおすすめします。

(2020年95本目/Hulu)

さて、というわけで配信されている大林映画21作品を全て観終わりました。おめでとう、ようやくまとめ記事が書けるね。