大林宣彦監督作品「転校生-さよなら あなた-(2007)」雑感
ついにオリジナル未見のままリメイクを観てしまいました。まだまだ続くよ大林作品履修期間。今回は2007年公開『転校生-さよなら あなた-』の雑感です。蓮佛美沙子さんの映画初主演作!
あらすじ
幼少期を過ごした長野へ尾道から越してきた斉藤一夫(森田直幸)は、転入先のクラスで幼馴染の斉藤一美(蓮佛美沙子)と偶然再会する。その日の放課後、幼い頃よく遊んだ水場でうっかり池に落ちたふたりは[脚注:うっかりすぎだろ]、どういうわけか心と身体が入れ替わってしまう。困惑しながらも騙し騙しで当面を乗り切ろうとしていたが、一夫の心を持った一美の身体はいつしか不治の病に冒されており──
雑感
さて、まずこれは大林監督の超代表作とされる1982年公開の『転校生』が圧倒的オリジナルとして君臨している上でのセルフリメイク作品なわけですが、このオリジナルの『転校生』は「大林作品のなかでも非常に見やすい」などと言われているわりに配信が全くなく、「非常に見にくい」作品なのでございます。そんな事情でオリジナル未見での感想となることご了承ください。
※最近までDVDも在庫なしが続いていたはずですが、今見たら潤沢に入荷していたので(特需で増産してくれたのかも)観るすべありますね。でも買うならBlu-ray出るまで待ちたい……。
大林ワールドの異様さを再認識できる作品
ここまで概ね年代順に大林作品を追ってきました。70年代、80年代、90年代、そして2000年代。『時をかける少女(1983)』におけるキャラクターの喋り方は「古風」だとよく言われますが、1986年生まれのわたし的には、果たして83年にあの喋り方がどういう印象を受けたのかというのは肌では感じられないわけです。
それが、今回こちら2007年公開の本作、びっくりするくらいフィルモグラフィ初期のテイスト、特に学校の描写なんかはそのままやっておりまして。良く言えば「妙に元気はつらつ平和な学び舎」、悪く言えば「なんじゃこりゃ」。「2007年のリアル」は肌でわかるので、どう考えても異様だということがよーく理解できた次第です。そして80年代に大林作品を観た人も「80年代のリアル」に照らし合わせて多かれ少なかれ「なんじゃこりゃ」と思ったであろうことが想像つきます、これでようやく。
大林作品で非常に印象的な「思春期の少年少女がよく喋る(それも年齢錯誤、時代錯誤なノリで)」っていうのすごく好きなんですが、本作に関しては2007年にこれ公開するもんじゃないよ!と正直思ってしまいました(笑) 普通の青春映画と思って観にきた人は面食らったんじゃないかしら……。まあ『時かけ』もそうだったのか……。大部分が乾いた笑いと気まずさと、しかし最後には丸め込まれて感動しちゃうのも、同じだな……。
なお、さも不満かのように書いてますが、まったくまいっちゃうなあ、という感じでたいへん満足しています。この感覚こそがきっと大林作品。
入れ替わりのクオリティは要審議
『転校生』は、後世に大きな影響を与えた「元祖入れ替わりもの」。80年代にオリジナル版がヒットし、2010年代には最たる後継作品『君の名は。(2016)』が空前の大ヒット。日本人は男女入れ替わりものがお好き、ということが証明されました。
オリジナル版では小林聡美さんと尾美としのりさんが入れ替わるふたりを演じていて好演であろうことは想像に容易いのですが(こういうところで未見による説得力の無さが出る)、本作はちょっと、そこんとこは難ありかなあと思いました。
ここまで書くタイミングがありませんでしたがわたくし本作のヒロイン斉藤一美さんこと蓮佛美沙子さんのお顔がたいへん好みでございまして、じつは大林作品の履修始めたときからずっと観たいの我慢してたんですよね。それでようやく観て。この流れだと蓮佛さんに何かダメ出しをしそうですが、ありません。蓮佛美沙子さま最高です。好きです。
ということはもうひとり、「一夫くん」のほうですね。監督の演出がよくないのか役者本人の技量や解釈の問題なのかがわからないのでなんとも言えないところなのであえてキャラクターに対する不満点を述べますけども。一美ちゃん、入れ替わってもそうはならないだろという違和感がかなりありました。入れ替わる前の一美はもうのっけから強烈に飛ばしまくりの男勝りなキャラじゃないですか。それが、入れ替わったら妙にしゃなりしゃなりとステレオタイプな女の子像になっちゃうわけです。そこが結構ノイズになってしまったなあと。
ただこれに関しては前向きな解釈も考えました。ふたりの心と身体は完全に入れ替わったわけではなく、たとえば一美の身体には歌唱力や想像力が残っておりそのコラボレーションであの歌が生まれてるんですよね。それで言うと、入れ替わる前の一夫はそれなりに口調を荒げることもあるものの全体のイメージとしてはおとなしめな印象を受ける(第一ボタン閉めてるし)。ならば彼の身体に入った一美が少しおとなしくなるのも腑に落ちる。反対に、一美の身体に入った一夫が元の性格よりてやんでいな感じになるのも納得できる。問題は、細かい演出をつけないと噂の大林監督がそこまで細かい演出をつけているかどうかという点(笑)
はみ出し雑感
「死にいたる病」は『SADA(1998)』にも出てきたなあ。他にも出てくるのかしら。
子供達しか知らない、という状況が結果的になんだかすごくよかった。エピローグを観ていると何か通過儀礼のメタファーのようにも感じる。
元カノと今カレが混ざってくることによるなんとも言えないあのくすぐられる感じがたまらぬ。
蓮佛ちゃんの脱がし方がなかなか、フェチが強い。設定上は自分で触っているわけなのだが、いや〜〜〜!!!だけどさ〜〜〜!!!ってなる(もちろん嫌いじゃない)。
相変わらずのドリーズーム使いがブレない。
事前に知っていた「斜め」については案外違和感なく見れた。というのも、わたしが写真を撮るときの癖によく似ていたから。画角を広げるために傾ける癖。何枚もそれが続くとクドくなる。そのクドいのをやったのが本作。でも意外とクドくなかった。
ほんの数カットしか映らないラストの尾道、それでも一見して「尾道!!」と分かるすごさよ。あんな、おそらくなんてことない港町の光景であろうに。これは尾道に対する大林監督のものすごい貢献だ。
いつも以上に冒頭の「A MOVIE」が効いていたなあと思った。斜めになって始まるところ、大林監督の言葉で幕を閉じるところ、そして2007年にこの演出!というところなど、「映画だよ!」感が一段と強かった。
ラストで直筆サインとともに現れる監督からのメッセージ。この頃にはかなりめそめそ泣かされていたのもあり、この映画を作った人はもういないのだなあと不思議な気持ちになった。でも、「人の命には限りがあるが、物語の命は永遠だろう。」そういうことなのである。
そんなわけで、ぐじゃぐじゃ書きつつ結局のところ「よかった」のです。もし「セルフリメイク版から観ても大丈夫かしら」と思っている方がおられたら、他の作品を何本か観てからであれば大丈夫だと思うわよ、と申し上げておきます。いきなりこれから観たら、たぶん2007年の映画とは到底思えないはずなので……。
(2020年79本目/U-NEXT)
PrimeVideoでも会員特典で観れます。これはキービジュアルが作品のイメージと相違ないレアパターン。ふくれっ面の蓮佛ちゃんが可愛い。