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主に映画の感想文を書いています

原節子さん生誕100年の日に観た「東京物語(1953)」雑感

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お恥ずかしい話ですが、「小津」を観たことがありませんでした。観たいな、観なきゃな、とずっと前から思っていたのに手をつけられなかったのは、やはりあまりにビッグネームだからでしょうか。なにかと“きっかけ”を求めがちなわたしに、昨日6月17日、朗報が入りました。原節子さん、生誕100年! 今だ! というわけで大変遅まきながら小津安二郎監督作品デビュー、代表作東京物語からの鑑賞です。

あらすじ

子供たちに会うためはるばる尾道から東京へやってきた周吉笠智衆ととみ東山千栄子。しかし子供たちはみな忙しく、あまり構ってあげられない。そんななか、戦死した次男の嫁・紀子原節子だけは全身全霊で義理の両親をもてなした。

多少煙たがられながらも東京の家族たちと思い出を作って二人は尾道へ帰っていったが、程なくしてとみの危篤を知らせる電報が東京に届く。

雑感

ここのところ大林宣彦監督の作品をずっと観てきたのでもはや尾道という地名にときめきを禁じ得なくなっているのですが、この『東京物語』も尾道から始まり尾道で終わります。しかも、大林映画と違って変なことが起こりません。なんかもう最近は、奇妙な展開をしない映画に疑心暗鬼すら覚えるようになってしまいましたね……。

展開がスピーディ

小津監督の映画はゆっくりと時間が流れそうなイメージがあったのですが、一見そう思わせておいて、じつはかなりスピーディだな?!という印象を強く受けました。それは序盤から顕著で、尾道から汽車に乗って東京へ行くよとしっかり荷造りまで描いておきながら汽車のシーンはなかったり、息子から風呂の誘いを受けておきながら風呂のシーンはなかったり、初日は豪華な夕飯と思わせておいてそんなシーンはなかったり、いつの間にか泊まる家が変わっていたり。

さらに終盤では、「夜明けまで持てばいい方」という病状の説明がなされた直後に夜が明けていたり(そして……)。とにかくポンポンポンポン次へいく。それでいて全体的には静的な印象を纏っているわけで、おもしろいなあと思いました。

どんだけ引いてるんだ……

影技法の面では、よく話に聞く望遠寄りでの撮影がやはり独特でした。望遠レンズで遠くのものを撮影したときに距離感が乏しくなる「望遠圧縮効果」というものがあります。一番わかりやすいのは野球中継のピッチャー視点でしょうか。バッターとの間はすごく離れているはずなのに、まるで距離を感じさせない映像になっていますよね。あれです。あの映像を撮るためには、結構な後ろにカメラを設置する必要があります。ピッチャーの真後ろにカメラがあったのでは、あの感じになりません。

本作でも、登場人物たちが部屋の中でそのピッチャーとバッターのような距離感でいることがよくあります。例えばこんなふうに。

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かなり人がひしめいているように見えるシーンですが、障子などを見るとじつは奥の玄関から手前の縁側(多分)に至るまで3つ4つのエリアをぶち抜いたショットであることが分かります。そんでもって一番手前の引き戸がピッチャーだとするならば、カメラの位置は、手前にあるであろう庭よりもさらに手前側でないとこの構図は撮れないわけです。

ということで、どのシーンを見ても「どんだけ引いてるんだよこれ……」と思ってしまうのでした(前置きが長い)。屋内はセット撮影だそうなので、かなり手前から撮影できるような、なかなかに特殊なセットが組まれていたのかもしれません。

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ところでこれは尾道の家の玄関ですが、前景から背景までのっぺりとした距離感のなさ、一切パースのつかない真っ直ぐな画面、じつに望遠感があります。なぜこれを貼ったかというと、大林宣彦監督の『花筐/HANAGATAMI(2017)』で満島真之介が桜舞い散らせながら登校してくる教室の入り口ってまさにこんなじゃなかったでしたっけ。視聴期限切れてて確認できないんですけど……(そのうち確認するように>自分)。

原節子さん

を目当てに観たはずが、他の部分でだいぶ気を取られてしまいました。さて原節子さん、多分初めて拝見いたします。お顔もちゃんと認識していなかったのですが、なるほど一度見たら忘れられない顔立ちです。勝手に想像していたよりもハリウッド女優的な顔だと感じたのは、眉毛あたりが関係しているでしょうか。

全編通してほぼ笑顔の仮面をつけた「紀子」が、劇中ほんの1%くらいダークな表情をのぞかせるところ、ゾクッとしました。好きでした。えっ今の顔なに??とリプレイで確認してしまったほどです。いや〜でも人間そんなもんですよね、たまに会うぶんには実の子供よりも義理の子供のほうが「親」に優しくできるかもしれないし、実の子供には使えない「仮面」というアイテムもあってさらに有利。でも危篤の親のもとへ効率よく喪服持参で見舞いに行けるのは実の子供だからこその特権だったりして……。フクザツ。いいですねえ。

それにしても、もし子供がいたら人生の最期はこんなふうに世話になったり看取ってもらったりできるのかなあ、迷惑かけるのはしのびないけど幸せそうではあるなあ。などといったことをぐるぐる考え始めている、配偶者なし子なしのわたしです。

(2020年94本目/U-NEXT)

東京物語 ニューデジタルリマスター

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  • 発売日: 2013/11/26
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