
引き続き大林作品履修期間として、1988年公開『異人たちとの夏』を観ました。出演は風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子ほか。これはお盆ごろに観るべき映画だったかもしれません。
あらすじ
売れっ子シナリオライターの主人公(風間杜夫)は景気付けに立ち寄った生まれ故郷の浅草で両親(片岡鶴太郎/秋吉久美子)と遭遇する。否、そんなはずはない。彼の両親は30年近く前に事故で死んでいるのだ。しかし彼は誘われるがまま両親のアパートを訪ね、若い二人と幸せな時を過ごしてしまう。いけないことと分かりつつも逢瀬を重ねるうち、彼はひどくやつれていることを周囲に心配されるようになる。
雑感
これもまたキービジュアルで敬遠していた作品のひとつで、いやーしかし、よかったです。毎度こんな手のひら返しばかりしていると狼少年のように思われてしまいそうですが本当なのだから仕方ない。半信半疑で観始めると結局いつも引き込まれてしまう、いまのところ大林作品にはそういう共通点があります。
ちなみに敬遠していた理由は「ランニング姿」。タンクトップではありません、ランニング。わたしランニングってすごい苦手で。そもそもノースリーブの服が好きじゃなくて。でもこれはランニング姿であることに意味があるのだなあ。許す。
“今半”泣き
泣ける映画です。超ざっくり言うと、幼い頃に死に別れた両親と30年ぶりにどういうわけか再会し童心を取り戻していく、いわば「すごくいい夢を見たんだ…」みたいな状態をずっと続けてしまうようなお話。
若き日の親と会ってしまう、ということでは過去作『さびしんぼう(1985)』を連想させます。自分と同世代もしくは年下であろう親がなぜか目の前に現れ、しかもそのリアリティラインは意外と高く(周囲から見える、「異人」の自覚を持っている)、「母親」との間にはやや倫理観に触れる感情が生じかねない危なさがある、など。
特にリアリティラインのところが絶妙で、物語が進むにつれ、この両親は自分たちが本来ここに在ってはならない存在であると自覚していることがわかってくるのですが、それが切ない……。なんといっても感情的クライマックスは「今半のすき焼き」ですね。今後わたしは「今半」「すき焼き」と聞いただけでパブロフ泣きしてしまうことでしょう。そういえば『さびしんぼう』でも理科室の器具でうまそうにすき焼きを食うシーンがありましたが、大林監督はすき焼き表現のスペシャリストですね。
まだその「自覚」のあたりが曖昧な序盤は、正直けっこう気持ち悪いんです。いくら暑い夏だからといえ、初対面レベルの来訪者の服をいきなり脱がそうとしたり(家族なんだから下着姿でいいじゃないのよ、ということなのだけど)、拭いてあげるわねと濡れタオルで全身ものすごい拭かれたり、また母親の秋吉久美子さんが可愛くて、うっかり変な気を起こしてしまいそうな際どさがあって。でもその明らかに何かがおかしい状況のなかに刹那的な「絵に描いた幸せ」のようなものもあって。なんか、気が狂いそうになります。
本作における「泣ける」感、すごく近い感情になった映画があるなと記憶を辿ってみたところ、細田守監督版の『時をかける少女(2006)』かもしれないと思いました。夏、自転車の事故、そしてもちろん「異人」。映画の内容をすぐ忘れてしまうわたしはこの細田版『時かけ』がどんなストーリーでどんなふうに泣けたのかいまいち覚えていないのですが、とにかく泣けたのだけは覚えていて、共通の要素だけ抜き出してみても多分同じような感情の揺さぶられ方をしたんじゃないかと。細田監督がアニメ化の際に本作の要素を無意識にしろ入れた可能性は十分にあるので、自分のなかではそういうことにしておきます。
もうひとりの異人
名取裕子さん演じるヒロイン的存在のケイ。主人公を現実に引き戻してくれる役割なのかと思ったらあんたもそっちかよ!
本作、ひとつ前に観た『天国にいちばん近い島(1984)』と同じく、大林監督にしては「普通にいい映画」なんですけど、終盤でいきなり大林印のホラー展開が炸裂します。ああ!ここまでいい調子だったのに!笑 ケイってひと、別にこっちの世界の人間でもよかったんじゃないかしら〜。あの設定と演出、要る???
…まあ、こういう語り草な部分がワンアクセントあることで語り継がれるような効果もあるでしょうからいいですけど。その突拍子もない演出をフォローするかのように、最後の最後には「どうかしてたんですよ」と念を押されるのが可笑しいです。
ちょっと驚いたのが、ホラー展開へ向かう一連のシーンがのちの作品『理由(2004)』の序盤と酷似していたこと。大雨の日、マンションの管理人と第三者、居住者不明の一室で何事かが起きる……。そっくり! あれはセルフパロディだったのか?と思うくらい。
あ、そうだ、もういっちょ。『天国にいちばん近い島』と本作とで、すごく似たような構図がありました。並べてどうぞ。


体育座りの男性と、スカートの裾を綺麗にぺったり広げた女性、衣装は白基調。並べてみると、より似てる。ちょこんと出た指先とか。監督の強い何かを感じますな。
そんな感じで、だいぶ脱線しましたがいい映画でした。はっきり明言はされないものの明らかにお盆を感じさせる物語なので、いつかまた夏にビールなど飲みながら、甘さ控えめのバニラアイスなど食べながら(この2アイテムは欲しくなります)観て、泣きたいです。
(2020年71本目/U-NEXT)
少し調べているなかで、こちらの記事がおもしろかったので貼っておきます。

