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中国映画「こんにちは、私のお母さん(2021)」感想|興行収入世界2位?! 親不孝娘のバック・トゥ・ザ・フューチャー

『こんにちは、私のお母さん』という中国映画を観てきました。これ、なんと2021年の全世界興行収入ランキング第2位の超メガヒット作品だそうで、ちなみに『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021)』や『ワイルド・スピード/ジェットブレイク(2021)』が後に続きます。謎多き中国のエンタメ界、恐るべし……(1位は同じく中国のプロパガンダ映画らしいです)。

追記:Box Office Mojoによれば年末本国公開の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(2021)』がぶっちぎっていったようで、最終的には3位みたいですね。なんにせよすごい。


映画「こんにちは、私のお母さん」ポスター
映画「こんにちは、私のお母さん」ポスター


それにしても個人的にはあんまり興味を惹かれないタイトルなのですが、観ることにした理由は大きく2つ。まずはライムスター宇多丸さんの週刊映画時評「ムービーウォッチメン」にて本作が当たったこと。番組ファンとして、都合の許す限りこのコーナーで扱われた作品は観ておきたいんですよね。年末に振り返って盛り上がるのが楽しいんです。

それからもうひとつは、この映画観ようかなどうしようかなっていうときにFilmarksのレビューを流し読みする習慣がわたしあるんですけども、今回もざっと目を通していたら『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の文字が見えまして。この文字に弱いんですよわたしは。時をかけられたらイチコロなんですよ。「そういうやつなら観る!!」。そういうことです。

んで実際に観たうえで、具体的な感想を書く前に必要最低限のキャッチコピーを付けておくとすれば「親不孝娘のバック・トゥ・ザ・フューチャーてなところでございましょうか。ありそうでなかったお話になっているのがミソです。あと、エグいくらい泣かされます。アトロクの蓑和田ディレクターが本作をプッシュするにあたり「立派な映画かどうかは置いておいて催涙力がすごい」とコメントしていたのも頷けました。ご興味ある方は、ぜひ前情報はこのぐらいにして劇場へどうぞ。


映画「こんにちは、私のお母さん」本国版ポスター
映画「こんにちは、私のお母さん」本国版ポスター


さて、ここから具体的な感想。正直、序盤はかなりキツかったんです。理由はいくつもあるのですが、特に「笑いのネタ」が、2022年現在もはや面白いとされていないタイプのもので。視覚障害者のふりをする、とか、円形脱毛を笑い物にされる、とか。ギョッとしました。まあ過去パートは1981年、現代パートでも2001年だから20年前の感覚、そういうことならと思えなくもないものの、でも2021年に作る映画としてはどうなんだろうなって。中国ってそのあたりどういう感じなんでしょうね。

──というようなモヤモヤが非常に最初のほうはあったのですけども、わたしの場合はその後の展開にすっかり力技でやられてしまったので、うーん、不本意ながらチャラにしてしまったところがあります。大林宣彦監督の名作『さびしんぼう(1985)』で前半は凍りつくようなキンタマコメディなのに後半むせび泣いてしまうようなものかしら……。って書いてから気付きましたけど『さびしんぼう』も若かりし日の母親に会う物語だ。好きなのか、こういうのが、結局わたしは。

追記:後日放送された宇多丸さんの評はこちら(Spotify)。笑いのところは概ね同じ評価でした。わたしのこのへんの感覚は宇多丸さんおよびアトロクに育てられたようなところがあるのかもしれません。


※以下ダイレクトにネタバレしますのでご注意くださいね。


この映画、前述のとおり基本は『バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)』的物語です。自分の生まれるより以前にタイムスリップして若かりし日の母親に会っちゃう、ってやつです。

本作のヒロインは元気だけが取り柄のポンコツ娘で、アンタはいつになったら母さんを喜ばせてくれるのよ!なんて日頃怒られていました。そんななか不意に過去へ飛び、うら若き娘時代の母親とちゃっかり友達になれちゃった彼女。よ〜しじゃあこの時代で母さんを喜ばせちゃうぞ〜とお節介に奔走していると、ある日「母」に縁談が舞い込んできます。が、それは「父」ではない誰かだったのでした。

これは『BTTF』的物語であれば当然「阻止」せねばならない事件です。だってそうしなきゃ自分が生まれてこないから。でもここでヒロインはいちばんの「親孝行」を思い付くのです。そうだ、生まれてこなければいいんだ。

序盤の大減点によりすっかり斜に構えていたわたし、しかしこれは想定外でありまして。彼女の思考に「気が付いた」とき、カッと目頭が熱くなるのを感じてしまいました。一度こうなってしまうと嫌な予感しかしません。崩壊です、涙腺崩壊の合図です。結論、だめでした。完全敗北でした。ありがとうマスク。ありがとう不織布。

それに加えてこの映画が侮れないのは、「もうひと捻り」あるんですよ。「同時多発タイムスリップ」によるボーナスお涙チャンスがね、もう勘弁してくれって感じで。悪趣味なほど怖い絶叫マシン(の泣き版)に乗せられているかのようでした。やってくれるぜ中華人民共和国……。知った状態で二度目観たらどういう感情になるのかなあ。冷静に観れるのか、序盤から泣けてしまうのか。泣きコンテンツこわい、超こわい。


ひとつ余談があって、この日はkino cinéma横浜みなとみらいにて鑑賞したのですが、どうやら後ろの列が中国系の家族連れだったっぽくて、めちゃめちゃ反応がいいんですよ。日本語字幕では笑いどころが分からないようなところで大爆笑してるんです(名前の読み方とか言葉ネタの部分で特に笑っていたので、原語に反応していたのはほぼ確実)。

劇中でも1980年代の映画館で恋愛映画にヒューヒュー大盛り上がりしてる中国のニューシネマパラダイス的光景が出てきますけど、同じような鑑賞スタイルを中国の人たちはまだ持ててるのかもしれません。すごくいいなって思うと同時にちょっと悔しくなってしまいました。それはさておき、本国で話題沸騰な映画がやっと日本で観られる!ってことで来ていたのでしょうか。図らずもいい映画館体験ができました。

追記:なんと宇多丸さんも全く同じ体験をしていた…!(Spotifyに飛びます。開始1分ぐらいから) もしかすると今どこの劇場でもこの状況わりと体験できるのかもしれませんね。

(2022年17本目/劇場鑑賞)