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映画「クライ・マッチョ(2021)」感想|このシンプルさはイーストウッドにしか出せない

クリント・イーストウッド監督&主演の新作『クライ・マッチョ』を観てきました。タイトルの語感がダサいとかいう理由であまり気乗りしてなかったのですが、なんとなくスルーした作品が最後にでもなったらひどく後悔しそうなので行ってまいりました。


映画「クライ・マッチョ」ポスター
映画「クライ・マッチョ」ポスター


いやはや、イーストウッドすごいなあとしみじみです。本作はずばり「老人と少年とニワトリ1羽のロードムービー」。車を乗り換える回数だけ数えるとそんじょそこらのアクション映画に引けを取りませんが、振り返ってみればほとんど何も起こってない「凪」な映画でございます。こんなにシンプルな映画、キャリアがあったってそうそう作れるもんじゃない。並の人ならもうちょっと何か添え物でもしないと怖くて出せないと思いますね。

あれがよかったこれがよかったってのはいくつもあるんですけど、そのどれもがささやかで、触れたら壊れそうな優しさ温かさで、ここに書くことすら野暮だなってなっちゃうのでしまっておきます。なんせいちばん笑ったシーンが「ニワトリにコケコッコーで起こされるイーストウッド」ですし。まあ一応そこ文字通り「クライ・マッチョ」なシーンでもあるんですけども。いかに凪かってことで。

しいてひとつあげるなら、コミュニケーションの話なのかなと思ったり。英語とスペイン語、健聴者と聾唖者、人間と動物、老人と少年、権力者と一般人、親と子、男と女、いろんな対話が出てきます。少年がずっと通訳にまわってくれてるのもよかった。喧嘩中なんだけどそれはそれとして通訳はする、みたいな律儀さが好き。礼拝堂での過ごし方にはうるさいのも好き。

とにもかくにも、いい映画だったなあとエンドロールでふんわり浸れる質素な良作でした。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でイーストウッドを知った身としては、この子を帰さにゃいかん!と思いつつもクララと出逢っちゃったドクじゃん、とか思ったりもしましたね。

(2022年16本目/劇場鑑賞)

原作小説は1975年に出版。イーストウッドに映画化の話が初めて来たのはなんと1988年のことだそうで、ものすごく紆余曲折あった模様。そのわりにさらっとシンプルに仕上げてあるのが、やっぱりイーストウッドはすごい。