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映画「愛なのに(2022)」感想|今泉力哉×城定秀夫コンビによる、倫理観ぐちゃぐちゃ群像劇。

愛がなんだ(2019)』『街の上で(2021)』などの今泉力哉さんが脚本を担当し、『アルプススタンドのはしの方(2020)』などの城定秀夫さんが監督を務めた映画『愛なのに』を渋谷シネクイントにて観てきました。

今泉力哉×城定秀夫によるR15+のラブストーリー」というこの激アツなコラボは「L/R15」と銘打たれ、脚本と監督が入れ替わった『猫は逃げた』も近日公開となります(追記:観ました)。


映画「愛なのに」ポスター
映画「愛なのに」ポスター


本作、まずキャストが豪華です。主人公の瀬戸康史さんは説明不要として、彼に想いを寄せる女子高生役で河合優さん。いやはや、今ほんとに、どっち向いても河合優実さん出てますからね。『佐々木、イン、マイマイン(2020)』『サマーフィルムにのって(2020)』『由宇子の天秤(2020)』どれも超印象的なキャラクターです。本作鑑賞の2日前には『ちょっと思い出しただけ(2022)』でも拝見。ドラマ『夢中さ、君に。』にも伊藤万理華さんとサマーフィルムコンビで出ていました。毎回違う雰囲気なのもおそろしいところで、本作の彼女は『時をかける少女(1983)』の原田知世さん再来かと思いました。

それからこちらも注目の個性派俳優、中島歩さん。わたしがしっかり認識したのは『いとみち(2021)』からでしたが、『偶然と想像(2021)』の嫌〜〜〜な感じの元カレ役は強烈なインパクトでしたし、今作もそっちラインでより磨きをかけているという感じです。

そして彼の結婚相手役、さとうほなみさん。この方、ゲスの極み乙女。のドラマーほな・いこかさんなのだと観賞後に知りました(役名が一花〈いっか〉なのはちょっと掛けてるんでしょうか)。オーラのオンオフ自由自在なお芝居が非常に女優で、魅了されました。「群を抜いて」の台詞がたまらぬ向里祐香(こうり・ゆうか)さんも大変素敵でしたが、眼鏡キャラなのもあってお顔をまだ認識できていないと思うのでまたいつか。

はい、というわけで先にキャストのことを書きましたけども、全体的な感想としてはとにかく面白い、好きな映画でした。今泉力哉監督や濱口竜介監督などの作る群像劇・会話劇が好きな方にはジャストでハマるんじゃないでしょうか。笑い、張り詰め、不思議と後味は良く。こういう日本映画ほんっとにわたし好きだなと腕組みしてひとり大きく頷くような作品でございました。

例によってあらすじすら入れずに観たので、河合優実さん演じる女子高生の突飛な行動に主人公ばりの仰天をできたのも良かったですし、対する一連のマリッジブルー情事たちも、さすがはピンク映画職人の城定監督という感じで堪能。まあ正直かなり倫理的に逸脱した要素の多いストーリーなので、人によってはアウトかもしれません。個人的には「ひっでえ」と思いつつ大好きでした。

劇中、ダスティン・ホフマンの『卒業(1967)』が出てきます。花嫁強奪展開の元祖と言われている作品で、ウエディングドレス姿でバスに乗り込むシーンが有名です。本作もバスに乗ったり乗らなかったり、を何度も見せてきますね。なおこちらも倫理的に大概な映画だった記憶がありますが、本作も引けを取っておりません。マリッジブルー的な意味での引用かと思いきやそっちかいと笑ってしまう、ナイス小ネタです。使わせてくれたチャペル寛大だなあ……。


ちなみに、倫理的な「引っかかる」行動・行為については、劇中でわりかし抵抗を持って描かれてはいて。ただし落としどころは意外と全肯定だったりもして。ここ好みの大きく分かれる部分だと思いますが。きっと、正しくはないけど、間違ってもいないのかも。少なからず「気持ち悪い」と思っていた自分に少しだけ反省したりもしました。本人たちの気持ちが大切。

で、この映画について数日間考えていたときにふと気付いたんです。わたしがこの映画に感じる「好き」と、いちいち倫理観云々と言い訳めいたことを付け足してしまう「後ろめたさ」は、ウディ・アレンだ。わたしすごくウディ・アレン好きだったのだけど、本作なんてそれこそ『マンハッタン(1979)』みたいな話だから当然好きなわけだけど、そうもシンプルに言っていられない状況になって。結局よくわからないので本を買って読んだりして。でも結局よくわからなくて。

少なくとも今の奥さんとの関係は『愛なのに』なんだろうなと思ったりもして。押しかけてきたあの両親がミア・ファローに見えたりして。なんか、再びモヤモヤしています。という、まさかの着地。

(2022年31本目/劇場鑑賞)

空白(2021)』を連想して怖くなってしまう予告編。やっぱりこれは好きな映画。好きなものは好きでいい。そしてやっぱり河合優実さんが『時かけ』の原田知世さんに見えて仕方ない。次回のムービーウォッチメンが本作になったのだけど(どうも最近、順調にウォッチできている)、かつて『時かけ』の原田知世さんに熱狂していた宇多丸さんなら同じことを言うのではないか?と期待している。