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映画「鳩の撃退法(2021)」感想|2時間たっぷり「分からない」を楽しめる至福のミステリー

現在公開中の映画『鳩の撃退法』を観てきました。佐藤正午さんによる同名小説が原作とのことですが、文学に疎すぎるわたしは本作の予告編で初めてそのタイトルと対面。なんだ鳩の撃退法って、えらくかっこいいタイトルだな! KIRINJIのこれまたかっこいい主題歌も相まって、楽しみにしておりました。

公開2日目の劇場は、大きめのスクリーンでほぼほぼ満席。原作パワーなのか、主演の藤原竜也さんパワーなのか、それとも何だろう。しかしこれ結構振り落とされた人もいるんじゃないかと思います。分からないこと、振り回されることを楽しめる人向けの映画でした。というわけでわたし、クリーンヒットです。

※以下、ほとんど内容には触れてないのでネタバレらしいネタバレは多分ないです。


映画「鳩の撃退法」ポスター
映画「鳩の撃退法」ポスター


まずは冒頭から掴まれます。いかにも虚構じみた、台詞っぽい台詞の応酬。突如「いささか」に当たるスポット。超個人的な話ですが「いささか」という言葉には思い入れがありまして。所属楽団の演奏会で毎年司会進行をお願いしているMCの方に、まさしく毎年「いささか」といういささか話し言葉らしからぬワードを定型文として発していただいているのです。なので「いいよね! いささか!」と固い握手を交わしたいオープニングでした。

からの、どどーんとそびえ立つ立山連峰! なんか最近よく見る気がしますね、富山。『あのこは貴族(2021)』にも出てきましたね。望遠で街の背後に圧倒的な存在感を見せつける立山連峰の、なんと映画映えすることでしょう。大自然なのに虚構感も強くて、えも言われぬ良さがあります。開始数分、この時点でもう大満足です。

さて、状況の見えないまま映画は進んでいきますが、主人公がデリヘル嬢を送迎しているところで連想したのが韓国映画チェイサー(2008)』。元々『鳩の撃退法』というタイトルに韓国映画っぽさを感じていた(『建築学概論』とか……)わたし的には、もしチェイサーとなるとこれはかなり覚悟して観進めないといけないわけです。そんな緊張感もあって、分からないなりに必死で喰らい付くことができました。


※韓国ノワールの大傑作『チェイサー』、併せておすすめしておきます。


「分からないなりに」本格的に楽しくなってくるのは、カフェで主人公のリアリティラインがいきなり揺らぐシーンあたりから。予告にもあったので驚きはしませんでしたが、それでもワクワクしてしまいます。「一体どんな映画になっていくの?!」という胸の高鳴り。ああいうの大好きなんです。

リアリティラインといえば、主人公を演じる藤原竜也さん。藤原さん主演の映画ってほとんど観たことがなかったのですけど、すごく「フィクション顔」だなあと。特に巻き込まれ役をやらせたら右に出るものはいないのでは、くらいに思いました。悪い意味ではなく常にどこか「滑稽」なのでどんな展開もノイズに感じさせないのですよね。虚実はどうでもいい、今そこにあるリアリティラインを常に大地とすることができる。超今更ながらファンになっちゃいました。

脇役でことのほか気に入ったのは、西野七瀬さん演じる「沼本(ぬもとだよ!)」。ひとつ間違えればうすら寒くなってしまいそうなキャラクターですが、この「沼本」は2時間という短い尺のなかでも生き生きと、1クールのドラマを生き抜いてきたかのような当然さでそこにいる。すごく良かったです。あと、ハマケンさんのちっちゃいヤクザもコワカワで好きです(笑)

ミステリー的な意味では、単純にわたし理解力が乏しいので分からなかった部分も多いです。でもそんなことより「分からない」を2時間しっかり楽しませてもらうことができた、それで十分だと思います。

最後に、音楽! 堀込高樹名義の劇伴はときにルーズでときにノワール、スリリング。そしてラスト、予想外の某曲カヴァーで面食らった先にはKIRINJI feat.Awich名義の強烈な主題歌『爆ぜる心臓』。いやはや、本当に音楽が素晴らしい。インストバンドLITEが劇伴を担当した『騙し絵の牙(2021)』とも通じるマリアージュでした。


そんなところですかね。個人的にはとにかく会話劇の塩梅が気に入ってしまって、内容の細部は二の次!みたいな全肯定モードでの鑑賞でした。ダークな風間俊介さんやペヤングの土屋太鳳さんも好演でしたが、特に土屋太鳳さんは前作が『哀愁しんでれら(2021)』ですからね、どうしても印象としては薄くなります。やむなし。

(2021年145本目/劇場鑑賞)