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映画「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(2021)」感想|極上密度でひたすら幸せなB級スプラッターコメディ

新作洋画渋滞中の8月、ようやく『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』を観ました。最低&最高でした。ネズミNGな人以外には全力でお勧めしたい、この夏のNo.1です。


映画「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」ポスター(ハーレイ版)
映画「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」ポスター(ハーレイ版)


悪評高い2016年版の『スーサイド・スクワッド』をジェームズ・ガン監督の力技で仕切り直した本作、といった文脈は正直あまり重要ではないでしょう。なぜならアメコミ知識とか関係なく、単純に最強のB級映画だから。もう、ひたすら幸せな映画だから。

ただし念のため補足しておきますと、言うてもこの映画スプラッターコメディなので、はっきりと己のダブルスタンダードが露呈します。わたしとしても厭戦反戦の思いを強めた8月に、人体破壊の限りを尽くした映画で口角を上げている。こんなにひどいことはない。でも楽しい。嗚呼、人間とは複雑也。

もしドラマシリーズ『ザ・ボーイズ』がお好きで本作は未見という方おられたら、これは観ない選択肢がないと思います。ああいう路線です。スースクは2016年版がアレだったからな〜と敬遠している方も然り。別の意味でアレではありますが。

逆にちょっとおすすめできないのは、冒頭でも触れた通り「ネズミがマジで無理」って方。陰か陽かで言えば陽のネズミですけど、とはいえ恨まれても嫌なので少なくとも映画館ではやめておいたほうが吉です。あとはまあ「なにがなんでも頭部粉砕ほか人体破壊NGです」って方も当然おひかえください。

それ以外の方はぜひ今すぐ映画館へ。個人的にはこれ365日レイトショーでかかっててほしい。クサった日にこれでリセットしたい。レコメンドは以上となりますが、かいつまんでいくつか雑感をば。

アバンタイトルの無駄遣い

予告編かと疑うほどにサクサク進む編集。この投球スキルが後半で活かされるんだな??と思いきやワーナーブラザースの餌となって終わる男。笑ってはいけない第一決死部隊(ウィーゼルまじ反則)。宇多丸さん曰く、ここで「最低!でも最高!!」と拍手喝采できない人はこの映画、やめておいたほうがいいかも……とのこと。そうですね。

ハーレイ以外知らない顔だらけの決死部隊その名も「スーサイド・スクワッド」──と見せかけたオトリ部隊のほぼ全滅は、もしかすると2016年版を葬っているのかもしれません。

それにしても本作の密度はめちゃめちゃすごい。アバンからラストまで全てが見どころで全くダレない、驚愕の全力コメディ。先日『イン・ザ・ハイツ(2021)』を観た際に「『この密度の完璧』でどこまでいくつもり??」なんて驚きの声を上げましたが、同じことをもう一度言います。ちなみに『イン・ザ・ハイツ』もこの夏のNo.1です(いくらでもあるのさ)。

ハーレイ・クインの華麗なる確立

2016年版からドブネズミのように生き続けているマーゴット・ロビーハーレイ・クイン。前作『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(2020)』もこの上ないくらい最高でしたが、今回はさらにその上をいくキュート&クレイジー。もはや特別扱いもされていない、シスターフッドとかにすら縛られない、説明不要でそこにいる新時代のマッドヒロイン。すごくいいなと感動しました。

見どころとしては、まずなんといってもあのマリオカート野郎案件と、前作の銀テープ砲を思わせるフラワーパワー脱獄案件、さらには驚愕の水中シーン(with毛細血管)等々、ますますフォトジェニックなハーレイ・ファッ★ン・クインを観ることができ大満足です。

なお公式サイトにたっぷり掲載されている解説によるとジェームズ・ガン監督は「今回ハーレイは戦いに臨むので、短パンはやめてほしい」と衣装スタッフに依頼したとか。『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち(2020)』を観た後だとその意味はよく分かるし、しっかりアップデートされている現場が素晴らしいですね。

愛くるしい生物たち

予告でもたっぷり登場しておりました、サメちゃん。車内でお留守番させられるしょんぼり感とか、巨大水槽でトモダチと出会うところとか、最高に可愛かったよナナウエ。

それからあまりにも愛くるしいネズミちゃん。服なんか着せてもらっちゃって明らかにあざと可愛い系なので嫌鼠派の方でも懐柔されてしまうかもしれませんが(ラスト、ブラッドスポートの変化に涙)、とはいえ対KAIJU戦での大群は人が人なら失神モノでしょうから警告しておきました。ていうかタイカ・ワイティティ最近いっぱい出てんな!

あとヒトデ。恍惚としてしまうB級感(しかし映像のクオリティは凄まじく高い)。一方で、あのへんのくだりには奇しくも2021年現在のアフガンを思わせる描写なども。B級スプラッター×社会問題、というのがジェームズ・ガン監督の偏愛する「トロマ映画」の特徴らしいですが、そういうところもしっかりオマージュされているようです。


映画「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」ポスター(ナナウエ版)
映画「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」ポスター(ナナウエ版)


最近わりと堅めの映画を観ることが多かったんですけど、じつはそういえばタランティーノとか大好きだった自分がむくむくと蘇ってくるような、映画の愉しみって幅広いなあとしみじみしてしまう一本でした。

聞くところによれば全編IMAX撮影だそうで、ううむ、ここまでドンピシャな映画ならIMAXで観直したくなってしまうではないか。思いのほか暗い画作りだったこともあり、初見時の劇場では黒がうまく出てなかったんですよね。おかわりしたいなあ、ただでさえ回数減ってるのに厳しいかなあ……。

(2021年142本目/劇場鑑賞)


後日、本物の「トロマ映画」も観てみました。