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映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争(2020)」感想|作り込まれた非現実的世界で起こるミスマッチな現実がつらい

映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』を観てきました。棒読み、無表情、曲がり角は直角に。「かなり変な映画」だという評判は聞いていたので楽しみにしていたのですが、これが想像以上に曲者でした。


映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」ポスター
映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」ポスター


町境である一本の川を挟んで〝朝9時から夕方5時まで″規則正しく戦争をしている二つの町。川の向こうの町をよく知るひとはいない。だけど、とてもコワイらしい。映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』オフィシャルサイト


シュールにシニカルに「戦争」を想起させるような内容の作品なのかなと思っていたのですけど、蓋を開けてみればそのものずばり戦争をしているお話。つまり「メタファー」的な描き方ともまた違う。なんだろう、とにかく不思議な映画です。まあ変な映画は大好物なのでいいとして、曲者だったのがその毒気。

初めのうちはコントのごとき不条理喜劇が楽しくてへらへら口角を上げていましたが、石橋蓮司さん演じる「町長」のあまりにもストレートなハラスメント、きたろうさん演じる「指揮者」のあまりにもリアルないじめ(よくあんな台詞が書けるな…!)、特にこの二つから受ける胸糞の悪さは筆舌に尽くしがたいものがありました。

映画に不条理は付き物です。でもそれは起承転結の一要素として、その不条理に立ち向かう何かがあるからこそ楽しめるもの。本作の登場人物たちは感情を抑えた棒読み・無表情の演技をしているため、言われっぱなし・されっぱなし。怒りも泣きも叫びもしない。これがとにかくきつい。

なすすべのない不条理とはイコール現実世界。非現実的演出で作り込まれた「きわめて映画的な映画」こと本作において、しかしこれほどまでにトゲトゲした現実を突きつけられることが異様な不快感を生むのかもしれません。

それに加えてあのラスト。そこまでのトーンとはミスマッチなほどの「2発」で唖然としたところに、重々しいピアノと不思議なイラストのエンドロール。極端に重い、非常に後味の悪い幕引き。ビターエンドどころではありませんよビターズエンドさん(※配給会社。最後まで屈しないもの、という意味らしいですが)

一つ救いがあるとすれば、前原滉さん演じる主人公の立ち位置がやや俯瞰的で、何事にも巻き込まれないでいてくれること。また、彼が川岸で奏でるトランペットとそれに呼応する対岸のトランペット。国境を越えた二つの音色がこの上なく穏やかに重なり合う「美しき青きドナウ」は、ビターエンドながら清涼剤です。前原滉さんのアテフリ(ピストンを押す指の動き)も素晴らしい。

なお未見の方に誤解していただきたくないのは、「胸糞」とか「不快」とか書きましたけど別に胸糞で不快な映画というわけではないんですよ。ただ、表面上すごく面白い映画となっているだけに「なんだこの現実?!」と拒否反応が出てしまう、そんな映画かなあと。ストレートな「反戦映画」ともちょっと違う気がして。これはいろんな人の感想を聞いてみたくなります。

(2021年140本目/劇場鑑賞)

本編は予告編の雰囲気そのまま。これがピンと来た方は是非どうぞ。公開時期は過ぎてますが、唯一シネマ・チュプキ・タバタにて8/31(火)まで上映中です。バリアフリー活弁士・檀鼓太郎さんによる音声ガイドがとても楽しいです。鉛筆ポイッ(あのシーン、地獄だけど大好き)。