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映画「イン・ザ・ハイツ(2021)」感想|ひたすら完璧で心地良いラテン音楽ミュージカル

現在公開中のミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』を観てきました。

海外の注目作が一気に押し寄せてきて全く追いつかず取捨選択を余儀なくされている今日この頃ですが、これは先日TBSラジオアフター6ジャンクション」で宇垣美里さんが「落ちに落ちたときに観て元気付けられた」と言っていたことから優先順位最上位に来た感じです(正確な文脈はPodcastでどうぞ)。

宇垣さん曰く「頼むから観てくれ聴いてくれ、という感じがしております」とのことでだいぶ期待値が上がった状態で観たのですけども、いやはや……めっちゃ良かった……。素晴らしかった。


映画「イン・ザ・ハイツ」ポスター
映画「イン・ザ・ハイツ」ポスター


尺は143分、結構長いんです。しかし一瞬の隙もない。ひたすら完璧。え、ちょっと、「この密度の完璧」でどこまでいくつもり??と心配にすらなる完璧。そしてそれが最後まで続く。一切の妥協なく作り込まれたエンタテインメント。ものすごいです、本当に。

圧倒的なサウンドと圧巻のパフォーマンス、その上で語られるアメリカという移民の国におけるリアルは、総合的に見てもうひとつの『アメリカン・ユートピア(2020)と言えるような作品じゃないかと思いました。

アフロビートの要素が生理的に心地良かった『アメリカン・ユートピア』。対する『イン・ザ・ハイツ』はラテン音楽のミュージカルであるというところが大きな特徴です。クラーベの[3-2]なリズムから始まり、ボンゴやティンバレスの乾いた音が小気味良く全編を彩ります。ダンスフロアに響くのも情熱のサルサ! 古くは『ウエスト・サイド物語(1961)』のマンボなどもありますが、ここまでラテン音楽尽くしのミュージカル映画はわたし初めてです。

台詞全てが歌に乗るオープニングナンバーは初めこそ『シェルブールの雨傘(1964)』を思わせるコテコテっぷりにやや身構えたものの、台詞どころか生活音の全てが音楽になる緻密な演出に、あっという間に引き込まれました。また映像的なファンタジー性、自由度の高さも魅力です。最初に「マンホール」で「おっ!」と驚かされ、リアルなドラマ性を予期させる映画だけど同時に「なんでもあり」なんだ!と期待値が急上昇。その期待は裏切らず、最後までたっぷり楽しませてくれます。

そうそう、触れるのが遅くなりましたが本作の音楽は、というか本作そのものをクリエイトしたのは『ハミルトン』のリン=マニュエル・ミラン。わかりやすく表に出ているところで言うと、『メリー・ポピンズ リターンズ(2018)』でエミリー・ブラントのお相手をしてる方ですね。

『ハミルトン』のときも「天才だよとは聞いていたが、いざ天才の所業を目の当たりにするとちょっと意味わかんない」などと書きましたが、今回もまたその気持ちが強まるばかりでございました。日本での知名度がいまひとつなのは、天才すぎて意味わかんないからだと思う。説明しにくすぎる。「これ全部リンがマニュエルでミランダなんだぜ、意味わかんないだろ」、そんな感じです。そんな感じなので、観てください。

ちなみに、『ハミルトン』観ておいてよかった!とガッツポーズしたお遊びが一箇所。ヒントは「保留音」。一瞬なんだっけと記憶を検索してからの、ふはっ!でした。アイス屋推しとかも知らない人からしたらハテナかもしれないですけど、あの人が天才です、覚えて帰ってください。あと、主役ウスナビを演じたアンソニー・ラモスさんも『ハミルトン』のオリジナルキャストです(そちらの姿もDisney+で観れます)。

もういいか、とりあえずこんなところで。正直あまりにも音楽とパフォーマンス、映像の楽しさがぐいぐい来るもんで、語られていることの読み取りは二の次になってしまったところがあります。もう一度観たら今度は内容がもっと入ってきて、まただいぶ違う見え方をするんじゃないかな……。まあ何はともあれ、まずはとにかく音楽が最高!!なアメリカン・ユートピア』案件なので、ぜひ、ぜひぜひぜひ映画館の音響で堪能してください。

(2021年130本目/劇場鑑賞)