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映画「戦場のメリークリスマス 4K修復版(1983)」感想|ボウイはロレンスじゃないんだ?! 〜はじめての戦メリ〜

シネマ・チュプキ・タバタにて戦場のメリークリスマス 4K修復版』を観てきました。坂本龍一さんによる同名のテーマ曲はあまりにも有名ですが、それ以外のことをあまりにも知らなすぎたこの映画。そもそも日本人監督の作品であることすら知りませんでした(っていうレベルの感想を書きます)。


映画「戦場のメリークリスマス 4K修復版」ポスター
映画「戦場のメリークリスマス 4K修復版」ポスター


知らなすぎる人が他にもいると信じて、一応基本情報を。監督は、『愛のコリーダ(1976)』などでも有名な(でも、もちろん未見です)大島渚監督。出演はデヴィッド・ボウイ坂本龍一トム・コンティビートたけし北野武)ほか。ボウイと教授なのは知ってましたけど、たけしさんは完全に初耳。すごいキャスト!

舞台となるのは太平洋戦争真っ盛りな1942年、日本統治下のジャワ島に設置された捕虜(俘虜)収容所。デヴィッド・ボウイ演じる捕虜セリアズと坂本龍一演じる陸軍大尉ヨノイが軍事裁判の法廷で出会うところから始まります。本来は裁くべき立場でありながら、セリアズの放つ不可解な魅力に翻弄されてしまうヨノイ。二・二六事件で死に遅れたコンプレックスを持つエリート軍人たる彼の、セリアズに対する矛盾と葛藤が見どころです。

ただ、開始早々わたしは驚きます。あれ? ボウイは「ロレンス」じゃないんだ?! 曲名としても有名な英題「Merry Christmas, Mr. Lawrence」にある「Mr.ロレンス」は、トム・コンティの役だったのです。でも主役はボウイと教授(セリアズとヨノイ)であろうから、第三者っぽいロレンスがタイトルにまで昇格するとはどういった展開なのだ…?

観ていくと、どうやらビートたけし演じるハラ軍曹とロレンスの間に矢印が向き合っているらしく、え、待って、この調子だとたけしが言うの?? マジか。うわ、言った。そう、世にも有名な「Merry Christmas, Mr. Lawrence」とは今や世界の北野武が放った台詞なのでした。砂に埋まったへぇボタンを連打したい気持ちです。

お話としては正直わたし端正な男たちのBL的な(と簡単に表現するのは躊躇われますが)お話って興味がないのでセリアズ×ヨノイには特別ときめくこともなく観ておりましたけども、一方でロレンスとハラのほうは格別好きな類のブロマンスでときめきましたねえ。トム・コンティもたけしも素晴らしかった。立場が逆転したラストのやりとりには、ただただ「戦争って嫌だなあ」と思うばかりでした。

ハラの顔面どアップで終わるインパクトは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984』ラストのデ・ニーロ大写しを連想させるものでしたが、公開ほぼ同時期なんですね。1年程度じゃ関係はないかしら。あとセリアズの「首」も、こちらは最近の『異端の鳥(2020)』キービジュアルを思い出したり。何かと顔が印象に残る映画でありました。切腹の作法も知らなかったなあ。あの台(三方)、そうやって使うんだ……。

楽家坂本龍一を代表するテーマ曲『Merry Christmas, Mr. Lawrence』は劇中であらためて聴くとさすがの風格。同時期の久石譲さんなどにも言えることですがこの頃の電子音はチープなのにどしんと重厚で、代え難い質感があります。余談ながら最近予告で流れている映画『MINAMATA(9/23公開予定)』の主題歌、一聴して教授かな?と思ったらやはり教授だったという。

今、この流れだと観たくなってしまいます。

(2021年141本目/劇場鑑賞)

都内では現在シネマ・チュプキ・タバタのみで、8/31(土)まで上映されています。フィルム収蔵のため大規模な劇場公開はラストチャンス?らしいです、ぜひ!

あ、ちなみにチュプキで現在併映の作品はうっすら関係性のある映画ばかり。例えば「戦場を映さない戦争映画」こと『戦メリ』に対し、「グラウンドを映さない野球映画」こと『アルプススタンドのはしの方(2020)』。こっそり饅頭を食べたり蛾が頭にとまったりする『戦メリ』に対し、全く同じ要素が奇しくも出てくる『きまじめ楽隊のぼんやり戦争(2020)』。そんな紐付けハシゴ鑑賞もおすすめです。