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映画「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち(2020)」感想|その歴史から失禁ドライブ体験まで。映画ファン必見のドキュメンタリー

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「車に撥ねられる練習は、実際に撥ねられるしかない」「火だるまは得意」──予告編で見たパワーワードの数々に、これは絶対観なきゃと思っていたドキュメンタリー映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』を観てきました。

映画やドラマのスタントを生業とする女性たち、通称スタントウーマン。映画のなかで女性が危険な目に遭っている時、または血湧き肉躍るアクションを魅せている時、そこにはスタントウーマンたちがいます。

予告から期待するメイキング的な面白さはもちろんとして、もうひとつ軸となっていたのは性差別、男女格差の根強い問題でした。「これは女性には危ないから」とウィッグをつけた男性スタントマンが女性役を演じるなんていうことも日常茶飯事だったんだそうです。プロなのにそんな扱いを受けるなんて。全く知らなかったので驚きました。

また、衣装的に女性スタントのほうが総じて危険度が高いというのも、言われてみればその通りなんですが考えたこともなくて目から鱗でした。どういうことか、つまりこうです。ワンダーウーマンキャプテンアメリカを思い浮かべてください。いや、ちょうどいい比較画像を作ったので貼っておきましょう。

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仮に、両者とも戦闘能力は同等とします。危険度は、言わずとも一目瞭然ですね。保護パットのひとつも付けられないワンダーウーマンに比べ、キャップのなんと全身ガードなことよ。いくらでも仕込めるじゃん。

これは女戦士という極端な例ですが、一般人役だとしても男性と比べたら地肌の露出度は概ね高い。スカートであればそれだけで動きづらいだろうし、ミニスカートにハイヒールなんてざらなわけです。そのスタントをするとはつまり、その服装で落ちたり撥ねられたりなんだりしなきゃいけないということ。リスペクト……。

本作には大ベテランから若手まで多くのスタントウーマンが登場します。なかでもクローズアップされているのは、初代「ワンダーウーマン」リンダ・カーターさん(『ワンダーウーマン1984(2020)』にカメオ出演していた方)のスタントを務めたジーニー・エッパーさん。だいぶご高齢だと思いますが、若い頃にはガラスを突き破ったりビルから飛び降りたりしていた、本物のワンダーウーマンです。彼女がキャリアを振り返って涙するシーンではもらい泣きしてしまいました。

またもうひとり、カースタントを得意とするデビー・エヴァンスさん。彼女の代表作はこちら!

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ワイルド・スピード』1作目の「トレーラー潜りカーアクション」です! こんな履歴書見せられたら即採用じゃろ。

んでもってこの車のドライバーであるレティを演じたミシェル・ロドリゲスさん、じつは本作の製作総指揮です。ドキュメンタリーのなかで自分のスタントであるデビー・エヴァンスさんに会いに行くのですが、ここで彼女が助手席に乗せてもらって体験することになる「失禁ドライブ」が最高すぎて、劇場で拍手喝采したかった! 『フォードvsフェラーリ(2019)』かよ!っていう。はー、かっこいいなあ。

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ただ、男女格差しかりこの仕事は輝かしさだけではありません。スタントの暗部「事故」についても踏み込んでいきます。監督の希望だとしてもスタントのプロとして事故の危険性を感じたら中止させる勇気が必要だと何度も語られます。防げたかもしれない事故で仲間を亡くした悲しい経験をスタントマンの多くは持っているそうです。

最悪の事態には至らずとも、大事故がそのまま劇場公開されているケースもままあるとか。例として、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2(1989)』のホバーボードのシーンが挙げられていました。そういえばなんか聞いたことあったかも……。

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この人がまさにこの瞬間大怪我をしたという話

これまでスタントウーマンというとタランティーノ組のゾーイ・ベルさん(『デス・プルーフ in グラインドハウス(2007)』では本人役で登場!)ぐらいしか存じ上げませんでしたが、この機会に彼女たちの勇敢な仕事を知ることができてよかったです。今後も大いに楽しませていただきたいのと同時に、どうか皆様、ご安全に。

(2021年14本目/劇場鑑賞)

出演しているスタントウーマンのプロフィールを細かく載せている公式サイト、素晴らしいです!