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イラン映画「ジャスト6.5 闘いの証(2019)」感想|穴と犬と、ペルシア語の語感が最高

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新宿K's cinemaにて、イラン映画(!)の『ジャスト6.5 闘いの証』を観てきました。本作は2019年の東京国際映画祭(TIFF)で最優秀監督賞ほかを受賞しており、この度正式に日本で配給されたかたちです。

同年のTIFFでお披露目された海外作品というと、最近観たなかでは『異端の鳥(2019)』などがありますね。個人的には、唯一観ることのできた『列車旅行のすすめ(2019)』が非常に好みだったので配給待ちなのですが……果たして叶うでしょうか。

ヨルゴス・ランティモス系の妙ちきりんな映画で最高だったんです。もう一度観たい!

前置きはまだ続きまして。この『ジャスト6.5』、当ブログおなじみのラジオ番組『アフター6ジャンクション』でも2019年にTIFFプログラミングディレクターの矢田部吉彦さんが今注目のイラン映画!と紹介しており、番組内ではその後も宇多丸さんの感想が話題に上がったりしておりました。

※放送の模様はスマートフォンアプリ「ラジオクラウド」にて聴くことができます(アーカイブチャンネル内)。谷田部さんの紹介は【19.10.23】カルチャートーク:矢田部吉彦さん(第32回東京国際映画祭の見どころを紹介!/宇多丸さんと日比麻音子さんの感想は【19.11.06】水曜OP:イラン映画「ジャスト6.5」を語る。

なのでおそらく「アトロク」リスナー的にはこの頃から馴染みのあるタイトルになっていたんじゃないかと思いますが、何が言いたいかというと今回の正式公開タイミングで「ムービーウォッチメン」の課題映画に選ばれましたよと、そういう話です*1。わたし的には前述のようにTIFF2019では未見だったので今回ようやく観ることができました。

掴み、最高。

イランの麻薬戦争を描いた物語、ぐらいの前情報しか入れずに観たのですけども。ちょうど先週、パレスチナ出身エリア・スレイマン監督の最新作『天国にちがいない(2019)』を観て「中東」に少し親近感を覚えていたところだったので、そう身構えなくてもいいだろうとは思っていました。

蓋を開けてみると、掴みはかなり良かった! 特に序盤の2案件が最高だったのでさわりだけ書いておきましょう。

案件1。アバンタイトル、男二人による本気の追いかけっこを見せられます。おー走る走る。速いのう。なんで逃げてんのか、誰と誰なのか、当然わかりゃしませんがとにかく勢いはすごい。前を走る男が金網をよじ登る、飛び降りる。とそこは工事現場の深い穴で、ありゃ、これはあなた逃げられませんねえ。残念でした。からの、強烈な展開。

案件2。麻薬Gメンがディーラーの住処を突き止め、個人宅へ突入。しかしそこには怯えた妻子しかおらず、何も知りません夫はやってませんの一点張り。困ったことに、家中ひっくり返しても本当に何も出てこない。麻薬犬も反応しない。帰ってきた夫も手ぶらだった。ううむ、確かな情報なのだが……。諦めて帰ろうとしたそのとき、犬が吠える。

この2点はめーっちゃ面白かったです。この勢いで最後までいかれたらこれは傑作と言わざるを得ない。ただ残念ながら、わたしはこのあと何度か寝落ちました(14時くらいって、眠いよね)。

イランの言葉は心地良い

本作はかなりの部分が会話劇になっているのですが、使われてる言語はペルシア語でして、やたらと言葉数が多い。簡潔な字幕に対して聴覚情報の「まくし立て」がすごい。あれは原語だと一体どれくらいの長ゼリフなんでしょう。息もつかせぬ、って感じでしたけど。

で、さらにその語感が、うるさくはあるんだけど妙に心地が良くてですね。なんとなく日本語に聞こえてくることも多々あったりして。そのたび、気付けば目を閉じておりました。久々にあんな寝てしまった。喧騒の中で寝たい人にはおすすめできます。

意外とつらく、しんどい映画

まあそんな感じで「寝ちゃったな……」と思いながら途中からは立て直して観ていたところ、中盤以降の主要人物となる麻薬王が存外いいキャラで。ナヴィド・モハマドザデーさん、かな、イラン映画界では大スターらしいです。この方が、すごく好演してらして。終身刑待ったなしの極悪人なんですけども、すごくまともな人間なんじゃないか、助けてあげたい、とすら思えちゃうような描き方なんですね。

対する、ペイマン・モアディさん、かな(いちいち自信がない)、の演じる刑事がいまして。これがフィジカルな暴力は使わないものの、言葉の暴力でとことん追い詰める的な(そう、先程わたしを眠らせた「まくし立て」の男です)わりとグレーな暴力刑事の類でして、なんか麻薬王とどっちもどっちだなみたいな感じになってきたりします。

でまあ、泥仕合だなあとぼんやり見ていると、最終的に行き着くところが、全く意外性はないはずなのだけど、でも「あ、そこ行っちゃうんだ……」と落胆するようなところで。なんともダークな気分で劇場をあとにするかたちに。

「ノンストップ娯楽作」なんて書かれてたりもしますが、個人的にはあんま娯楽作ではないかなあと思いました。わりと重いです。

(2021年32本目/劇場鑑賞)

都内どころか関東圏唯一の公開館、新宿K's cinemaさん、初めて利用しましたが非常に駅近で、清潔で、この時点では1席空け対応もされていて、すごくいいミニシアターでした。新文芸坐さんをひとまわり小さくした感じかも。