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映画「天国にちがいない(2019)」感想|小鳥をどかすシーンだけで永遠に見ていられる

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アップリンク吉祥寺にて、映画『天国にちがいない』を観ました。デザイナーの大島依提亜さん(本作のパンフレットも担当)がTwitterでおすすめしているのを見て、これは観に行こうと思っていた作品です。


「多幸感」ってワード、弱いんですよね。「機能しないピタゴラスイッチ」も、観た今となっては分かる。

どんな映画かというと、エリア・スレイマン監督自ら扮する「エリア・スレイマン監督」が、脚本を売り込むため世界を旅する。ただそれだけの物語(ですらないかも)なのですが、まさにキャッチコピーの「この世界は、かくも可笑しく、愛おしい──。」が言うとおりです。観てる間中ずっとニコニコな、最高の多幸感を味わうことができました。

シュールな「観察」の映画

本作、主人公たる「エリア・スレイマン監督」は喋りません。ただし主人公が目を向けるとそこでは必ず「何か」が起きていて、動的なそれと静的な視線の対比がおもしろ可笑しい空気をかもし出す。そんな映画です。

とにかく主人公の視線の先にある「何か」がいちいちシュールでたまらなくて。その「何か」もまた実際見せられたところで「……何なの???」ってなるようなのが大半で。わたし的にはまず「セグウェイ警官」のくだりで肩が震えてだめでした。

基本的に「何か」と「視線」はある程度ディスタンスを保っているのですが、イレギュラーに間合いの詰まったケースが「小鳥」。タイトルにもしてしまいました「小鳥をどかすシーン」。この小鳥がもうね、かわいくてかわいくて、可笑しくて愛おしくて、劇場全体が微笑まし〜〜いムードになってましたね。きっとみんな孫を見るような顔をしていたと思う。小鳥のためだけにでも観てほしいです。

パレスチナのことは分からないのだけど

パレスチナ人である監督が作った本作ではパレスチナ問題も描かれていて……と言ってみたところで、恥ずかしながらパレスチナ問題」のことを全然よく知らないわたし。中東=物騒くらいのイメージしかなかったりする。

でもどうやら監督が言わんとしているのは、おそらくはわたしのような人が「物騒なんでしょ、危険なんでしょ」と勝手に特別視している中東の問題も、じつは皆さんの国の問題と多かれ少なかれ共通のものですよ。そういうことのようです。

主人公がパリで脚本を持ち込むと、映画会社の人に「これはどこでも起こりうる話で、パレスチナ色が弱い」と言われてしまう。そう、だから、どこでも起こりうる話なんですってば。あなたの言う「パレスチナ色」って一体なんなの。

この映画は「パレスチナ人監督がパレスチナ問題を描いた映画」というワードから想像したのとはまるで違う、ただただ「可笑しく愛おしい」映画でした。すごく身近なものとして楽しめる作品でした。じゃあ裏を返せば「パレスチナ問題」って、思いのほか身近なんじゃないか。知らないなりに漠然とそんなことを考えたりしました。

最後に強調しておくと

ほんっとにこれ、シュールで楽しくて旅行気分も味わえる素敵な映画なので難しいこと抜きにおすすめです。というか難しい要素はないです。おじさんと小鳥がかわいいだけの映画と言ってもいい。そう、おじさんも愛おしいのだ、わりと。

また、静かな映画ではあるものの要所要所で意外とダイナミックな「轟音」が効果的に使われているので、音響設備の優れた映画館で観ると楽しみ倍増なはず。地響きが来るたび「今度は何???」ってなれます。

(2021年27本目/劇場鑑賞)