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主に映画の感想文を書いています

「まちの本屋」「ようこそ革命シネマへ」ほか、22年1月後半シネマチュプキ鑑賞メモ

4作品のポスター

東京・田端のシネマ・チュプキ・タバタにて、1月後半のプログラムを滑り込みで4本ハシゴしてきました(毎度宣伝にならぬタイミングですみませんと思いつつ)。なおわたくし非常にばたついている時期のため、4本まとめてのざっくり感想となります。観た日に勢いで書いたツイートも添えていこう。


『まちの本屋(2020)』

兵庫県尼崎市、ご夫婦が切り盛りする素朴な本屋さん“小林書店”にカメラを向けたドキュメンタリー。出前のように一冊から本や雑誌を宅配し、ふらっと訪れるお客さんには適当に本を見繕い、店の一角では専門店さながらの品揃えと商品知識で「傘」を売り、年末には「しめ縄」作りのワークショップを開き……、まさしく地域に根付いた「まちの本屋」。

本屋だがコミュニティスペースでもある小林書店は、小さな小さな「まちの映画館」シネマ・チュプキとも重なる。皆から愛される温かい空間にはそれを維持するための見えない苦労がたくさんあって、この一年ほどチュプキと深く関わらせていただいている身としてはそういう意味でも共通のものを感じる作品だった。店主業のかたわらスマホをいじる小林由美子さんと、チュプキ代表・平塚さんの姿がだぶって見えた。

まんが日本の歴史は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の副読本として購入。おすすめです。


『ようこそ革命シネマへ(2019)』

映画という娯楽が失われて久しい軍事政権下のスーダンで映画館を復活させようと奔走する映画人たちのドキュメンタリー。砂埃を被ったフィルム、映写機、スクリーン。ご覧、これがかつて存在した映画というものだよ。さながらディストピアのようだが紛れもない現実であり今現在である。

明るい作品ではないが重苦しいとも違うのは、翻弄される映画人たちが希望と同時に諦観も持ち合わせているからかもしれない。モスクのスピーカーから大音量で鳴り響く礼拝の放送に映画の上映前アナウンスが力なくかき消される場面などは、笑うしかない。

冒頭、スーダンという異国の映画人たちがしかし『サンセット大通り(1950)』のワンシーンを再現していたり、再開した映画館のこけら落としにかけようとしているのがタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者(2012)』だったり、といった国境のなさには不思議な感動を覚えたりもした。


『サマーフィルムにのって(2020)』

これは封切り時に観ており、今回はシネマ・チュプキならではの「音声ガイド」を主な目的として鑑賞。本作の音声ガイドを手掛けているのはバリアフリー活弁士・檀鼓太郎さん*1。エンタメ性が高くかつアクション実況も専門!な檀さんのガイドはもう間違いなく期待通りの楽しさで、殺陣シーンに差し掛かったときの「待ってました!」な感じは唯一無二。

映画そのものも、やはり良かった。ツイートでも書いたが、ブルーハワイの一件を皮切りにそれぞれの「好き」が全肯定されていく展開は本当にどういうわけか涙が出て仕方ない。2回目の鑑賞で印象的だったのは、文化祭でステージに上がった花鈴がガチガチに緊張しているところ。ああ見えて彼女はきっと、非常に不器用な映画人なのだ。


『映画大好きポンポさん(2021)』

こちらも封切り時に観ていて、今回は音声ガイド目当ての再鑑賞。『サマーフィルムにのって』のツイートでお名前を出している「まなさん」が本作の音声ガイド制作者で、わたしもとてもお世話になっている方。なんならわたしが『ようこそ革命シネマへ』音声ガイドの編集作業(ノイズ取り)をしているとき、隣でまなさんが本作のガイドを作っていたりした。

そんな先輩の力作、期待値を上げて拝聴したのだが、期待以上に素晴らしくて大興奮だった。まなさんご本人が元々ポンポさん的なキャラクターなのもあり、始終ポンポさんがナビゲートしてくれるような、え、むしろこれ標準装備じゃないの?このガイドがついてないポンポさんもあるの?なんて乱暴なことすら思ってしまうほどのフィット感。いつか公式に吸い上げられてほしい。配信とかでもこのガイド聴けるようになってほしい。

ところで本作、初見時からもちろん満足度は高かったのだけどそこまで「刺さる」とかいう作品でもなくて、普通に面白かった程度の作品で、でも今回はびっくりするくらい刺さってしまった。劇中でも語られる「映画の中に自分を見る」という経験をドンズバしてしまった。何がどう刺さったのかは早くも忘れちゃったけど、こんなにいい映画だったっけ……。再鑑賞の機会があって本当によかった。

余談ですが……本作の音声ガイド、わたしがほんのちょびっとだけ声の出演をしていました。先に書いた「まなさんが隣で作ってた」日に、ポンポさんばりの強引さで「これを読んでほしいの!」と原稿を渡されマイクの前に立たされて。読んだのはニコ動のコメントみたいな部分で、まあ一瞬で過ぎ去るのだけど、絶対ここだけクオリティ下がってる……!!(申し訳なさ)

以上4本でした。シネマ・チュプキと出会ってまもなく1年。ようやく、1年。気付けばガイド音声のクレジットに名前を入れていただくような関わり方もできていて、これはまさか映画業界的なるものに片足を踏み入れているのか?と思う日々。コミュニティスペースとしてのチュプキにもとても助けられています。そういった意味で、いずれも重ねられる要素の多い作品たちでした。

(2022年20〜23本目/劇場鑑賞)

現在チュプキはメンテナンスのため休館中で、2/11(金)から営業再開。気になってた『梅切らぬバカ』、何気に観たことない『ジョゼ虎』、観逃してた『海辺の彼女たち』など、楽しみです。

*1:ちなみに今思い出したのですが、『サマーフィルムにのって』感想記事内で書いている「誰かの『良かったよ』」は檀さんでした。一度だけ檀さんとたっぷりお話ししたことがあって、その時にサマーフィルムめっちゃよかったよと教えていただいたのでした。檀さん、ガイドもめっちゃよかったです!