「まちの本屋」「ようこそ革命シネマへ」ほか、22年1月後半シネマチュプキ鑑賞メモ
東京・田端のシネマ・チュプキ・タバタにて、1月後半のプログラムを滑り込みで4本ハシゴしてきました(毎度宣伝にならぬタイミングですみませんと思いつつ)。なおわたくし非常にばたついている時期のため、4本まとめてのざっくり感想となります。観た日に勢いで書いたツイートも添えていこう。
- 『まちの本屋(2020)』
- 『ようこそ革命シネマへ(2019)』
- 『サマーフィルムにのって〈音声ガイド付〉(2020)』
- 『映画大好きポンポさん〈音声ガイド付〉(2021)』
『まちの本屋(2020)』
兵庫県尼崎市、ご夫婦が切り盛りする素朴な本屋さん“小林書店”にカメラを向けたドキュメンタリー。出前のように一冊から本や雑誌を宅配し、ふらっと訪れるお客さんには適当に本を見繕い、店の一角では専門店さながらの品揃えと商品知識で「傘」を売り、年末には「しめ縄」作りのワークショップを開き……、まさしく地域に根付いた「まちの本屋」。
本屋だがコミュニティスペースでもある小林書店は、小さな小さな「まちの映画館」シネマ・チュプキとも重なる。皆から愛される温かい空間にはそれを維持するための見えない苦労がたくさんあって、この一年ほどチュプキと深く関わらせていただいている身としてはそういう意味でも共通のものを感じる作品だった。店主業のかたわらスマホをいじる小林由美子さんと、チュプキ代表・平塚さんの姿がだぶって見えた。
1本目『まちの本屋』。兵庫県尼崎市の本屋さん“小林書店”にカメラを向けたドキュメンタリー。ビブリオバトルなど本の紹介シーンが多数出てくるが、なかでも店主の由美子さんが開封梱包作業をしながら「雪とパイナップル」という本について語る場面が印象的だった。ミョウガは天ぷらもおすすめです。 pic.twitter.com/Gko38nnSXM
— 353 (@threefivethree) January 30, 2022
まんが日本の歴史は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の副読本として購入。おすすめです。『まちの本屋』、上映後には監督のご登壇も。作中ではほとんど語られていない「いまの“小林書店”に至るまで」のバックストーリーを伺うことができ、舞台挨拶で目頭が熱くなってしまった。
— 353 (@threefivethree) 2022年1月30日
余談。由美子さんが熱心に売っていた講談社の日本の歴史シリーズ、買ったばかりだったのであっ!となった(笑) pic.twitter.com/SuxWyQwJBN
『ようこそ革命シネマへ(2019)』
映画という娯楽が失われて久しい軍事政権下のスーダンで映画館を復活させようと奔走する映画人たちのドキュメンタリー。砂埃を被ったフィルム、映写機、スクリーン。ご覧、これがかつて存在した映画というものだよ。さながらディストピアのようだが紛れもない現実であり今現在である。
明るい作品ではないが重苦しいとも違うのは、翻弄される映画人たちが希望と同時に諦観も持ち合わせているからかもしれない。モスクのスピーカーから大音量で鳴り響く礼拝の放送に映画の上映前アナウンスが力なくかき消される場面などは、笑うしかない。
冒頭、スーダンという異国の映画人たちがしかし『サンセット大通り(1950)』のワンシーンを再現していたり、再開した映画館のこけら落としにかけようとしているのがタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者(2012)』だったり、といった国境のなさには不思議な感動を覚えたりもした。
2本目『ようこそ革命シネマへ』。スーダンで表現の自由と闘いながら映画館を再開させようとする映画人たちのドキュメンタリー。チュプキ的には併映の『サマーフィルムにのって』でとある「行く末」が提示されるが、こちらは行く末どころか現実。笑うに笑えない、でも笑うしかない状況が続く…。 pic.twitter.com/M0IzPzMvCf
— 353 (@threefivethree) January 30, 2022
『ようこそ革命シネマへ』、障壁を乗り越えながら上映しようとしている作品がタランティーノの『ジャンゴ』なのはなんか面白いしなんか感動する。ちなみにチュプキ的に併映の『映画大好きポンポさん』と絡めると、ポンポさんの好きな映画は同じくタランティーノの『デス・プルーフ』らしいです。
— 353 (@threefivethree) 2022年1月30日
『サマーフィルムにのって(2020)』
これは封切り時に観ており、今回はシネマ・チュプキならではの「音声ガイド」を主な目的として鑑賞。本作の音声ガイドを手掛けているのはバリアフリー活弁士・檀鼓太郎さん*1。エンタメ性が高くかつアクション実況も専門!な檀さんのガイドはもう間違いなく期待通りの楽しさで、殺陣シーンに差し掛かったときの「待ってました!」な感じは唯一無二。
映画そのものも、やはり良かった。ツイートでも書いたが、ブルーハワイの一件を皮切りにそれぞれの「好き」が全肯定されていく展開は本当にどういうわけか涙が出て仕方ない。2回目の鑑賞で印象的だったのは、文化祭でステージに上がった花鈴がガチガチに緊張しているところ。ああ見えて彼女はきっと、非常に不器用な映画人なのだ。
3本目『サマーフィルムにのって』。封切り時に観ているので今回は音声ガイドを堪能しに。殺陣シーンで炸裂する檀さん節はもはや伝統芸能の域。チュプキ音声ガイド愛好家的には檀さんとまなさんの声が競演しているのもハダシ組とラブコメ組のコラボっぽくて胸熱を感じました。 pic.twitter.com/rqHBGEkvCs
— 353 (@threefivethree) January 30, 2022
『サマーフィルムにのって』。序盤の対立から一転、ブルーハワイの一件を皮切りにそれぞれの「好き」を全肯定していく後半の展開が涙なしには観られない。花鈴の描き込みが丁寧でとてもいい。描き込みといえば、編集室と化した部室シーンから文化祭へと続く一連の「背景の青春」がやっぱり超好き。
— 353 (@threefivethree) 2022年1月30日
『映画大好きポンポさん(2021)』
こちらも封切り時に観ていて、今回は音声ガイド目当ての再鑑賞。『サマーフィルムにのって』のツイートでお名前を出している「まなさん」が本作の音声ガイド制作者で、わたしもとてもお世話になっている方。なんならわたしが『ようこそ革命シネマへ』音声ガイドの編集作業(ノイズ取り)をしているとき、隣でまなさんが本作のガイドを作っていたりした。
そんな先輩の力作、期待値を上げて拝聴したのだが、期待以上に素晴らしくて大興奮だった。まなさんご本人が元々ポンポさん的なキャラクターなのもあり、始終ポンポさんがナビゲートしてくれるような、え、むしろこれ標準装備じゃないの?このガイドがついてないポンポさんもあるの?なんて乱暴なことすら思ってしまうほどのフィット感。いつか公式に吸い上げられてほしい。配信とかでもこのガイド聴けるようになってほしい。
ところで本作、初見時からもちろん満足度は高かったのだけどそこまで「刺さる」とかいう作品でもなくて、普通に面白かった程度の作品で、でも今回はびっくりするくらい刺さってしまった。劇中でも語られる「映画の中に自分を見る」という経験をドンズバしてしまった。何がどう刺さったのかは早くも忘れちゃったけど、こんなにいい映画だったっけ……。再鑑賞の機会があって本当によかった。
『映画大好きポンポさん』。こちらも封切り時に観ているが、好評な音声ガイドを聴かなければ!と滑り込み。チュプキ制作スタッフまなさん作ナレーションのガイド、まさにポンポさんが引っ張ってくれているようで、初見時よりも数段楽しく観れた気がする。すっごくガイドの映える作品だと思った。絶品! pic.twitter.com/wh0b2BuPmR
— 353 (@threefivethree) January 30, 2022
『映画大好きポンポさん』、ガイド云々抜きにしても今回は初見時より数段良く感じた。映像の美しさ、特に序盤のスタイリッシュさと編集テンポの良さ(とても90分とは思えない密度!)、そして何より物語自体が今の自分に驚くほど刺さった。映画の中に自分を見た。こんなにいい映画だったっけ…。 pic.twitter.com/qabSQMzXBY
— 353 (@threefivethree) 2022年1月30日
余談ですが……本作の音声ガイド、わたしがほんのちょびっとだけ声の出演をしていました。先に書いた「まなさんが隣で作ってた」日に、ポンポさんばりの強引さで「これを読んでほしいの!」と原稿を渡されマイクの前に立たされて。読んだのはニコ動のコメントみたいな部分で、まあ一瞬で過ぎ去るのだけど、絶対ここだけクオリティ下がってる……!!(申し訳なさ)
以上4本でした。シネマ・チュプキと出会ってまもなく1年。ようやく、1年。気付けばガイド音声のクレジットに名前を入れていただくような関わり方もできていて、これはまさか映画業界的なるものに片足を踏み入れているのか?と思う日々。コミュニティスペースとしてのチュプキにもとても助けられています。そういった意味で、いずれも重ねられる要素の多い作品たちでした。
(2022年20〜23本目/劇場鑑賞)
現在チュプキはメンテナンスのため休館中で、2/11(金)から営業再開。気になってた『梅切らぬバカ』、何気に観たことない『ジョゼ虎』、観逃してた『海辺の彼女たち』など、楽しみです。🌈2/11(金・祝)~28(月) *水休
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年2月1日
10:30- #梅切らぬバカ <毎週月曜フレンドリー上映
12:20- #帆花
14:00- #ジョゼと虎と魚たち
16:10- #MINAMATA #ミナマタ
🌠2/11~19 *16休
18:30- #くじらびと
🌠2/20~28 *23,26休
18:30- #海辺の彼女たち <翻訳字幕・英語字幕
▶ご予約 https://t.co/jd5vMjQ7Xg pic.twitter.com/dY1uUnryxF
*1:ちなみに今思い出したのですが、『サマーフィルムにのって』感想記事内で書いている「誰かの『良かったよ』」は檀さんでした。一度だけ檀さんとたっぷりお話ししたことがあって、その時にサマーフィルムめっちゃよかったよと教えていただいたのでした。檀さん、ガイドもめっちゃよかったです!