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主に映画の感想文を書いています

映画「花束みたいな恋をした(2021)」感想|「別れ話」までしっかり描いた恋愛物語

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菅田将暉さん、有村架純さんW主演の映画『花束みたいな恋をした』を観てきました。ライムスター宇多丸さんが最新映画をランダムに評する「ムービーウォッチメン」で、今週は本作が課題映画となっています。一瞬たじろいでしまったものの、いまのところ今年の課題映画はコンプリートできている*1ので可能な限り全部観てみようかなと。

え? 何故たじろぐかって、そりゃたじろぎますよ。日本の青春映画。母国語の青春映画。突き刺さるときはとことんダイレクトですもん。そう気軽には観れないですよ。他意はございません。

でもですね、やっぱりこういう「普段だったら見逃してしまいそうな作品」と出会える、というのが「ムービーウォッチメン」で「ガチャシステム」が採用されている理由ですから。そこでリスナーが逃げちゃうのはちょっと、よろしくないですよ。などとブツブツ言いながらわたくしの感想に入りたいと思います。

ここから先ぐちゃぐちゃと書くので、先に結論。よかった。いい映画だった。いい恋だった。あなたに会えてよかった。「──これはきっと、私たちの物語。」わかる。わかる。

おもいっきり刺さってんじゃねえの、ってことでした。


青春映画の顔をした「マリッジ・ストーリー」

観終わっての第一声(第一ツイート)はこれでした。うわあ『マリッジ・ストーリー(2019)』だ、と。

『マリッジ・ストーリー』はずばり「離婚」を描いたドラマ映画なのですが、本作もじつは「一組のカップルの始まりから終わりまで」を描いた物語。ネタバレでもなんでもなく、始まってすぐに「別れたカップルの回想話」であることが分かるつくりになっています。あらすじを書いておきましょう。

菅田将暉さん演じる〈麦くん〉と有村架純さん演じる〈絹ちゃん〉はある夜「終電逃し組」として出会うのですが、話してみると驚くほど趣味が合う。読んでる本はだいたい同じ。同じライブのチケット持ってた。そして帰り際、「さっき押井守いましたよね!」その一言から恋が始まってしまいます。嘘のようですが本当です。

晴れて付き合い始めたふたりは程なくして同棲。持ち寄ったのであろう「最強の本棚」を中心にずどんと据えた愛の巣で幸せな日々を送っていました。麦くんは「ぼくの将来の夢は、絹ちゃんとの現状維持です」と嬉しそうに語ります。

しかし大学卒業間もない彼らは環境変化の激しいお年頃。就職した麦くんは仕事疲れでパズドラくらいしかやる気が起きない。読書に観劇、そんな余裕はない。お互い善処しつつも「現状維持」とは程遠くなってしまい、ある日それぞれに同じタイミングで同じ決意をするのでした。「今日こそ別れよう」

きっと十人十色の映画体験

恋愛ってやっぱりその、全てがきらめく「始まり」のタイミングだけじゃなくて「終わり」もまた非常に味わい深い経験となるものだと思います。音楽も物語も失恋エンタテインメントだらけですからね。

その点、本作で描かれる「恋の終わり」はとことん具体的。──そろそろ潮時かなって思ってる。でも今日は久しぶりに楽しかったな。帰りにちょっとお茶していこうか。そんで今日こそ、別れたいって言おう。最後くらい笑顔で終わりにしよう── 痛い! 書いてて痛い! 胸が!

なかなかこんなにね、「別れ話」というものをしっかり切り取った映画もないんじゃないかと思いますね。ふたりが決戦の地ファミレスに入っていくところでわたしは座りを深くして、腕を組みました。ようし、感情移入するぞ、泣くぞ、っていう準備を整えるために。

このへんからは多分、多くの人がスクリーンの映像と並行して脳内映像を同時に見ていたんじゃないでしょうか。いろんなことを思い出して、でも寂しく悲しくなるんじゃなくて、よかったなあと。いい思い出だなあと。それこそ、真顔で言いますけど、花束みたいな恋をさせてもらったなあと思いましたよわたしは。

ラストシーンがまたよくて、お互い「達者でな」っていう。ひらひらっと。めちゃくちゃ最高ですよ、あのラストは。かつて恋人同士だったひとたちの、理想のかたちだと思う。

そんなまあ、なんかもうぐちゃぐちゃですけど、わたし的にはすごく自分の人生の1ページが肯定されたような映画だったのでした。はい。映画を見てたのか自分の記憶を見てたのか半々か、もはや分からなくはあるんですが。

はみ出し雑感

  • 本文に入れてたら収拾がつかないほど小ネタに溢れた作品なのでここに書き散らかしておく。

  • この日は、映画館のある駅まで京王線で来た。そしたら、おもいっきり京王線沿線映画だった。明大前も調布も経由してた。早くも運命を感じた。

  • 絹ちゃんがスマホリングをスタンド代わりにしてるの、わたしも全く同じスタイルで昼食を食べたりしているので早くも「私の物語」だった。レビュー系ブロガーであるところにもシンパシー。

  • 絹ちゃんは『ストレンジャー・シングス』シーズン2を観ている。

  • 麦くんは長岡出身。お父さんは彼を呼び戻そうと、長岡花火「フェニックス」の「Jupiter」を見せて/聴かせている。

  • 序盤に登場する「宇内さん」がアトロクリスナーとして気になって仕方なかった(調べたら卯内さんだった)。

  • ちょっと笑ってしまう「ここでもした」「ここでもした」とかいう序盤のモノローグ(絹ちゃんが言ってるのがまたよい)は、『ビフォア・サンライズ(1995)』終盤のまつりのあと感を思わせる演出だった。言うまでもなく『ビフォア』シリーズ(特に1と3)は本作に通じる。

  • 映画館には高校生くらいの子もたくさん来ていたが、人生経験の種類的にも小ネタのセレクト的にも高校生だときっと分からないことも多かったのではと思った(ていうかまず、始まりが押井守な時点から)。

  • デートで来ていたカップルはどんな気持ちになるんだろうか。花の名前を言いかけてやめた絹ちゃんみたいに「終わり」を意識し始めるんだろうか。

  • わたしもクリスマスプレゼントにイヤホンを買ったことがある。

  • 別れ話で女々しいのは間違いなく男である。証拠はわたし。

  • ストリートビューの回収がすてきだった。顔にモザイクがかかるところまで再現されているのだけど、あれは「皆さんの物語でもあります」と解釈することもできそう。

  • 脚本監督、『カルテット』コンビだったとは。事前に知っていたらもっと積極的に観に行けたのに。

  • 音楽が大友さんだったのも意外だった。そういえば、有村架純さんが『あまちゃん』に出ていたのってついつい記憶から抜けてしまう。菅田将暉さんが『直虎』に出ていたのもつい抜けてしまう。『あまちゃん』も『直虎』も熱心なファンだったのに。もちろん『ひよっこ』も大ファンでした。

  • 小説作家さんを全く知らないので、あのシーンはわからなすぎて悔しかった。本読みの人にはさぞや楽しいシーンだろう。

  • SMAPの解散が時代背景として映画に盛り込まれたことはなんとなく嬉しい。

  • ショーシャンクはそろそろ怒ったほうがいい。

などなど。まだまだ。

(2021年28本目/劇場鑑賞)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

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いまGoogleで「今村夏子」と打ち込むと、真っ先にサジェストされるのは「今村夏子 ピクニック」である。でしょうね。