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映画「新感染半島 ファイナル・ステージ(2020)」感想|新年一発目、まあウイルスに打ち勝てそうではある。

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2021年一発目は元日公開の韓国映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』を劇場にて。『新感染 ファイナル・エクスプレス(2016)』の続編ですが、同じ世界線を舞台にした全く違う話なので前作未見でも問題はありません。

あらすじ

人間をゾンビ化させてしまうウイルスによるパンデミックから四年。韓国はゴーストタウンもといゾンビタウンとなり、生き延びた人々は香港に身を隠していた。主人公ジョンソクカン・ドンウォンは、そんな「感染半島」に用途なく残された大金を頂戴するミッションに参加。かつての祖国へ武装して乗り込むのだが──。

ネタバレ雑感

続編として

最初にも書いた通り、同じ世界線であるということ以外は全く別のお話なのでいわゆる続編的要素はありません。キャラクターも刷新です。これに関しては前作『新感染』の前日譚とされるアニメ作品『ソウル・ステーション/パンデミック(2016)』もそうでした(いずれもヨン・サンホ監督作品)。なので本作がシリーズ初見でも単品として問題なく楽しめるのはいいところです。

逆に言うと、続編的なお楽しみが一切ないのはそれはそれでちょっと寂しいところでもあります。

ゾンビ映画として

一応ゾンビ映画のカテゴライズであろう本作(Wikipediaではポストアポカリプス映画となっていますが)、思い返してみると「ゾンビ怖い」っていう瞬間はほとんどなかったかもしれません。本作におけるゾンビはモブの障害物にすぎず、むしろゾンビの人権(?)をもう少し配慮したほうがいいのではと思うほどひたすら轢きまくられるシュールさ。カワイソス。

まあゾンビものの行き着くところは「一番怖いのは人間」っていうところだと言いますし、ファイナル・ステージですから行き着いたんでしょうね(原題は「半島」ですけど)。とはいえあんだけ無数のモブゾンビを薙ぎ払っておきながらひとりの人間に手こずりすぎだろという印象は拭えません。そこは人権考慮せず撃ちなよ。

メタファーとしての韓国近現代史

前作はSARSコロナウイルスの感染拡大、朝鮮戦争の経緯(ゾンビ=北)、セウォル号沈没事故などの韓国近現代史をモチーフとした映画でした。よって今作もそういった要素が強かろうと身構えて観ることになります(池上彰さんの朝鮮戦争講義を事前に視聴してしまうほど)。

冒頭では前作からの「戦況」が語られており、韓国の人々がパンデミックで釜山に追い込まれてしまったこと(前作のラスト、朝鮮戦争で最も北が侵攻してきた状態。ちなみに前作の原題は『釜山行き』です)、北朝鮮は安全だったが統一前で逃げ込めなかったこと、避難してきた人たちを受け入れてくれる地が香港しかなかったこと(不勉強でお恥ずかしいんですが、中国が北を支援しているなかで唯一の西寄りという解釈でいいんでしょうか)などがこの世界線での近代史として語られます。

2021年の日本の観客が非常にリアルな没入感を得られるのは序盤、香港でのシーンでしょう。韓国から亡命してきた主人公たちが飲み屋で「感染してるのでは」と避けられる場面など、まさしく「俺はコロナだ!」です。もとのモチーフはSARSだったはずが、いつの間にか新型コロナに置き換わってしまった皮肉な現実。もとのモチーフというところでは、韓国に上陸してすぐのシーンで転覆した船が映るのはダイレクトにセウォル号なのでしょうね。

物語は進み、クライマックスでは国連軍が仁川(インチョン)から上陸してくるのですが、これは劇中最もメタファーどころか「そのまんま」なところ。朝鮮戦争において釜山に追い詰められた韓国を助太刀すべくアメリカ率いる国連軍が仁川から上陸した「仁川上陸作戦」がモチーフと思われます。と知ったかぶりしていますが、池上さんの講義で知ったばかりの知識です(進研ゼミでやったところだ!)。

そんなわけでざっくりのモチーフ感は把握。ただ、ラストがすごく意味深な言葉で終わるんですよね。「私のいた所も悪くはなかったです」。あれはどういう意味なんだろう……。あの子はもともと韓国人だから、例えば『スウィング・キッズ(2018)』で描かれた「国連軍の捕虜収容所に留まることを希望した北側の兵士」みたいなことでもなさそうですし。ちょいとわたしの薄い知識では汲み取れず。とりあえず「仁川上陸」をやりたかったんだなということだけは分かりました。他はあんまりわざわざ当てはめたりしなくていい感じかもしれません。

人物描写とテンポの難

前作は各キャラクターにしっかり思い入れ(てめえ絶対殺してやる、も含め)ができる作りでしたが、今作はその点かなり不足があると思いました。コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソクな前作と比べて引けを取ってしまうのは仕方ないっちゃ仕方ない……とはいえ、誰にもさほど感情移入できない、事情がよくわからないから感動的らしきシーンで全く泣けない、音楽だけが盛り上がっている最悪のパターンに陥ってます。

テンポ的にもやたらと思考停止してる時間が長すぎて、これ最近『鬼滅の刃』を読んでいたので余計に思うことなんですが、漫画は時間を止められるけど映像ってそうそう止められないんじゃないかと。一話でたった数秒間しか進まない、とか少年漫画ではよくあるやつですけど、映像で、しかも劇伴が普通に流れてたりするとそれは時間経過もリアルタイムでしかないというか、ただただ「判断が遅い!」ってことになっちゃう。クライマックスを筆頭に、そういうシーンが目立つ作品でした。

ただ、音楽の使い方がうまいなと思うシーンもあって、それは対ゾンビの銃撃バトルシーン。冒頭の船内から始まり終盤に至るまで幾度も、激しいバトルシーンで悲しい音楽がゆったり流れるんですよね。特に序盤のは間違いなく悲劇的なシーンなので、いい音楽使いだなあと感心しました(それにしても『哭声/コクソン(2016)』に引き続き“不時着の奥さん”が不憫すぎるんですけど!)。

ですが、まあ、

綾野剛みたいな塩顔イケメンの主人公カン・ドンウォンさんはイケてたし、女性陣大活躍なのも気持ちいいし、少なくともウイルスに打ち勝てそうな映画ではあったので2021年一発目として悪くはなかったです。フィクションとノンフィクションの境目が曖昧な今この時にしかできない(そうあってほしい)映画体験であることは間違いありません。

(2021年1本目/劇場鑑賞)

前作は依然おすすめです。

あると便利な副読本。